照明のことが分かる講座

照明とは人々の生活に役立つ光の仕事のことを言います。 照明の主光源がLEDに変わりつつあるなか、照明を知ることで生活はより豊かに変わります。 そこで本連載では照明の基礎知識から光源や照明器具の種類、照明方式、照明がもたらす心理・ 生理効果を分かりやすくご紹介していきます。
第5章 照明のことが分かる講座

5-2 目に優しい照明

眼は皮膚の一部

目を刺すようなギラつく光はその強さによって暴力的にもなり、眼を痛めます。日中の太陽光を直視すると危険です。それは網膜を傷め、最悪は失明に至るからです。何故ならば、人の体はおもにタンパク質と核酸からできており、強い太陽光を目に浴びると、太陽からの紫外線でタンパク質が傷つき、やがて細胞が死滅するからです。

太陽光に晒されている皮膚が大丈夫なのは紫外線をブロックするメラミン色素に守られているからです。それでも何の対策もなければ紫外線の強い季節に肌は炎症で黒化します。皮膚の一部である目は紫外線を防御する組織がありません。それでも目が大丈夫なのは、日常生活で私たちは太陽を直視することがないためです。

ブルーライトは害か?

280~380nmの紫外線は眼球障害や肌の日焼けを起こすほどエネルギーの強い波長であることは以前に紹介しました。それに対して380~780nmの可視光線はおもにモノを見せる働きに終始しているように見えますが、可視光域の中でも約380~500nmは比較的紫外線域に近いややエネルギーの強い波長になっています。これはブルーライトと呼ばれ、いま目に良くないことで話題になっています。

ブルーライトは紫外線より少し深く体に侵入し、眼球では網膜に到達します。(図1)

図1 ブルーライトによるダメージ

図1 ブルーライトによるダメージ



ブルーライトは浴びる量と時間の蓄積によって網膜にダメージを与え、眼の老化に影響します。特に加齢黄斑変性症(ものが見えにくくなる症状)を早めると言われています。日常生活でLEDランプを直視することはほとんどないので照明による心配はあまりないようですが、それよりもLEDを光源にしているスマホやタブレット、PCのデスプレイは近距離から直視するので、その影響が問題視されています。しかし太陽光に比べ桁違いに光量の少ない人工光で、どのくらいの蓄積量から影響が出始めるのかまだ分からないことも多いようです。

目に優しいグレアレス照明

眩しさのことをグレアと言い、まぶしさのない照明をグレアレス照明と言います。一般に光源や照明器具の輝度が高く、見かけの発光面が大きく、目が暗さに順応しているときほどグレアを感じやすいです。グレアは単に目を痛めることだけではなく視覚低下や心理的に不快感をもたらす原因にもなります。(図2)

図2

図2 ※グレアの度合いは目が暗さに慣れている状態



しかし同じ輝度でも発光面が極端に小さいときや明るさに目が順応しているほど眩しさは緩和されます。例えば100Wの裸電球は、暗闇では結構まぶしくても日中の明るいところではそれほどまぶしさを感じないはずです。

満月の輝きは2500cd/m2 前後あります。しかし満月の見た目の大きさは手を伸ばして見る5円玉の穴ほどの極めて小さい輝きのため不快なまぶしさにはならず、むしろ長く見ていても心地よい輝きです。

満月より少しだけ高い輝度を持つ照明器具に一般家庭用で使用される乳白カバー付き大型シーリングライトがあります。器具は天井に付いているため、通常の生活視点で直視することはあまりありません。そのため気にならないようですが、気にして直視すると結構まぶしく感じる器種もあります。

和紙で覆われた提灯は適切なW数の光源が入っていれば1000 cd/m2 ほどで、暗さに目が順応していてもあまりまぶしくありません。ホテルの客室で定番と言われるくらいよく使われている器具に布製シェードをもつテーブルスタンドやフロアスタンドがあります。これも提灯同様まぶしさがない明かりのため、目に優しく落ち着いた雰囲気を醸し出します。(写真1)

写真1 シェード形スタンド器具によるホテルの客室照明、(目に優しいので、世界中のホテルで昔から定番)

写真1 シェード形スタンド器具によるホテルの客室照明、(目に優しいので、世界中のホテルで昔から定番)



光を細かく分割して見かけの発光面を小さくすることは輝きの分散につながり、照明の演出上重要な意味を持ちます。ランプが増えることでコストアップの要因になるかもしれませんが、一室一灯より一室多灯、または多灯分散照明がまぶしさを軽減させる意味で勧められる照明です。


参考文献:concepts in architectural lighting M、david Egan

執筆: 執筆: 中島龍興照明デザイン研究所 中島龍興

『照明のことが分かる講座』の目次

第1章 照明の基礎知識

第2章 光源の種類と特徴

第3章 LED照明器具の選び方

第4章 照明方式

第5章 照明の視覚心理・生理

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