照明のことが分かる講座

照明とは人々の生活に役立つ光の仕事のことを言います。 照明の主光源がLEDに変わりつつあるなか、照明を知ることで生活はより豊かに変わります。 そこで本連載では照明の基礎知識から光源や照明器具の種類、照明方式、照明がもたらす心理・ 生理効果を分かりやすくご紹介していきます。
第1章 照明の基礎知識

1-4 照度の黄金比

自然界の明暗コントラスト

明るさ感は照度の高い低いだけではなく、照度対比によるところも大きいです。例えば写真1と写真2を見て下さい。

  • 写真1
  • 写真1
  • 写真2
  • 写真2

写真1は晴れた日中の景色です。日向と木陰による明暗コントラストは明瞭です。季節や時間帯などによって照度は異なりますが、この状況での木陰は約1万ルクス(明暗の輪郭線から少し陰に入った暗いところ)、日向は10万ルクス近くの明るさがあり、およそ1:10の照度比になります。

写真2は曇り空で、木陰のない芝面の明るさは約1万ルクスです。木陰の部分を測定すると約3000~5000ルクスありましたので、この状況での照度比は1:2~1:3でした。 晴れた日の日向にいて木陰の部分を見ると、影が濃くてとても1万ルクスあるとは思えないほど暗い感じがします。 照度とは違うこの明るさ感は目に入る光の量が瞳孔の働きによって調整されることに起因します。 例えば明るいところにいると、より多くの光が目に入ることでまぶしくなる恐れがあります。 それを防ぐため瞳孔が無意識に小さくなる動作を行い、目の中に入る光の量が抑えられます。逆に暗い環境に身を置くと、目は暗くても明るく見せようと瞳孔が開きます。 結果、より多くの光が目の中に入るため、そのような状況下で少しでも明るい対象があれば、それは照度以上に明るく見えるのです。

照明空間の適正照度比

自然界における明暗コントラストは人々の視覚に大きな影響を与えますが、人工の照明空間でも同様なことが言えます。

例えば住宅の書斎や子供の勉強部屋はJISの照明基準総則(JISZ9110:2010)によると部屋全般に平均100ルクス、読書や勉強する作業面(PC作業を除く)では局部的に750ルクスの明るさが推奨されています。 この場合、作業面周辺は200~300ルクスほどの明るさになることが想定され、作業面周辺と作業面の照度比はおよそ1:3になります。この1:3の明暗コントラストこそ視作業空間における照度の黄金比と言え、照明の質が良ければ、作業を行う人の集中力を高め、目にも優しい照明と言われています。

一般に作業空間は長時間に及ぶほど目を酷使します。明暗コントラストが強すぎると瞳孔の開閉運動が頻繁に続くことのよる目の疲労も考えられます。そのためにも1:3の照度比は長時間の作業に適切なコントラストなのかも知れません。

一方で美術館や博物館のような展示空間はギャラリー全般で平均100ルクスの照度が推奨されています。それに対して洋画の展示面は500ルクスの明るさが求められ、1:5の照度比になります。 この比率は絵画が空間から程よく浮かび上がる効果につながり、また1~2時間の鑑賞に対しても目が疲れない程度のコントラストと言えます。

時折、企画展示などで空間全般を暗くして、1つ1つの作品が明るくドラマチックに浮かび上がるような演出が見られます。まるで木陰と日向のような明暗効果の再現のようです。 逆に日本画の展示空間では、屏風や障壁画など照明対象が大きくなることもあり、その場合、絵画自体が空間全般に馴染むよう、あまり明暗コントラストをつけない演出もあります。 このように美術館・博物館照明は照度比一つとっても興味深い設定が行われているのです。

なお、表1は照度比に対する視覚効果を説明したものです。

表1 照度比と視覚

照度比 視覚
1:02 見比べなくとも明るさの違いを認識
1:03 作業面とその周辺照度の適正関係(白とミッドグレー比)
1:05 絵画、タペストリとその周辺の適正関係
1:10 照度差を明確に感じる(日向と木陰の関係。自然界で目にする最大の照度比)
0.111111  発光効果(明るい仕上げの照明対象はそれ自体が発光して見える)
執筆: 中島龍興照明デザイン研究所 中島龍興

『照明のことが分かる講座』の目次

第1章 照明の基礎知識

第2章 光源の種類と特徴

第3章 LED照明器具の選び方

第4章 照明方式

第5章 照明の視覚心理・生理

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