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照明のことが分かる講座

照明とは人々の生活に役立つ光の仕事のことを言います。 照明の主光源がLEDに変わりつつあるなか、照明を知ることで生活はより豊かに変わります。 そこで本連載では照明の基礎知識から光源や照明器具の種類、照明方式、照明がもたらす心理・ 生理効果を分かりやすくご紹介していきます。
第5章 照明のことが分かる講座

5-1 照明の視覚心理・生理

1、視覚のメカニズム

目は光によってモノを見ることができます。モノが何故見えるのか?その原理を「目から光が出ていて、目を開けたときだけモノが見える」と説いた古代の哲学者がいました。もちろん科学の発展している今日ではそれを肯定する人はいるはずがありません。

よく目のメカニズムはカメラに例えられます。動きの要素を考慮するのであればビデオカメラに近いかも知れません。(図1)

図1 目の構造 ( )内はカメラに相当する部分

図1 目の構造 ( )内はカメラに相当する部分



まずカメラのレンズに相当するのが水晶体です。水晶体は弾力性があり、その厚みを調節する毛様体筋の働きによってピント調整が行われます。私たちは日常あまり意識しないでピント調整が行われるので、まさにオートフォーカスと言えます。例えば近距離のものを見ようとすると毛様体の毛様体筋の働きで水晶体に圧力がかかり、水晶体が膨らむことで網膜にピントを合わせます。しかし水晶体は年齢とともに硬化するため、高齢者の多くは水晶体の厚みの調整が難しく、結局網膜にピントを合わせるには老眼鏡の助けが必要になります。

カメラの絞りに相当する部分が瞳孔です。目に強い光が入ると、まぶしくてモノが見えにくくなります。それを防ぐため瞳孔が自動的に小さくなって眼球内に入る光量が調整されます。逆に暗い空間では瞳孔が開きます。

カメラのフィルムにあたるのが網膜です。網膜への光刺激は網膜の中心部に分布する錐体細胞(以下スイ体)とその周辺に分布する桿体細胞(以下カン体)の視細胞で電気信号(生体信号)に変換され大脳に送られます。スイ体は赤~黄緑、黄から緑、青~紫の光に対して特異的に反応する視細胞で構成され、明るいところで色やものの形を識別します。一方カン体はおよそ1ルクス以下の暗いところで敏感に反応します。色の識別はできませんがものの輪郭が大脳で映像として強調されます。網膜には約1億2千万から1億3千万個の細胞が分布しています。そのうちスイ体は600万~700万で、残りがカン体細胞になります。ビデオカメラでいえば映像信号がデータ化されメモリーカードやDVDなどに記憶されますが、眼から視神経を介して伝達された信号は大脳で映像化され、瞬時に分析が行われます。

以上のような目と脳による視覚メカニズムが分かると、照明と視覚についての様々な疑問が解けてきます。

暗順応とは

例えば映画館の館内は上映されると同時に明かりが消されます。するとスクリーン以外は暗く、館内の様子が見えなくなります。しかし、しばらくすると周囲の様子が少しずつ見えてきます。これは急激な暗さの変化に対して、おもに網膜のスイ体から暗いところでモノを見るカン体に切り替えるため(ギアチェンジ)に少し時間がかかるからです。通常は数分で暗さに慣れますが、完璧に順応するまでに若い人でも約30分、高齢者になるとさらに時間を要します。このような目の働きを暗順応と言います。(図2)

図2 暗順応曲線

図2 暗順応曲線



映画館の館内は少しでも早く暗順応させるため、上映の始まりに合わせて瞬時に消灯するのではなく、調光で徐々に暗くします。

日常の生活で部屋の明かりを消灯する場面があります。これは暗順応するまで時間がかかると同時に目に過度のストレスを与えるため、できるだけ調光器を使って徐々に暗くすることが奨められます。

暗順応に配慮した照明の代表的がトンネル照明です。日中の明るい景色の中をドライブしていると長いトンネルに入ることがあります。そのときトンネルの入り口が普通の照明だと、外光の明るさに慣れた目では、より暗く感じます。(写真1)

写真1 日中のトンネル入り口

写真1 日中のトンネル入り口



トンネルに入った瞬間、しばらく盲目状態の感覚で運転しなければならないため危険です。そこで入り口付近はより明るくして中に入っていくにしたがって徐々に照明の数が間引きされていきます。トンネル内部の明るさは車のスピードでもある程度目が暗さに順応していくように設計されています。これを緩和照明と呼び、暗順応に配慮した照明は美術館や博物館のようにエントランスから展示室まで動線が一方向の施設などでも見られます。

執筆: 執筆: 中島龍興照明デザイン研究所 中島龍興

『照明のことが分かる講座』の目次

第1章 照明の基礎知識

第2章 光源の種類と特徴

第3章 LED照明器具の選び方

第4章 照明方式

第5章 照明の視覚心理・生理

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