機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-3 機械部品の熱処理欠陥

熱処理欠陥には多くの種類がありますが、初期損傷として発覚することが多いので、その大部分は使用する前に露見します。本項では、欠陥の中から初期損傷として致命的なものや使用中の損傷の因子になるものを主体に概略を紹介します。

1.酸化および脱炭

鋼は大気中で加熱すると、図1に示すように、その雰囲気中の酸素や水分などの酸化性ガスとの反応によって表面に酸化スケールを生じます。酸化の程度は雰囲気中の酸化性ガスの含有量が多いほど、加熱温度が高いほど、加熱時間が長いほど大きくなります。

とくに高温加熱によって酸化スケールを生じると、同時に脱炭層を生じることもあります。対策としては、不活性ガス、変成ガス、分解ガスなど酸素や水分が極力少ない雰囲気の利用、真空加熱の利用などがあげられます。

図1 乾燥空気中で加熱したS35Cの断面組織

図1 乾燥空気中で加熱したS35Cの断面組織

また、酸化性ガスだけでなく還元性ガスや塩浴中であっても、水分が混入していると酸化はしなくても脱炭する場合があるので注意が必要です。とくに水中を通過させた水素など還元性ガス中で加熱した場合には、光輝状態を保ったままで脱炭のみが進行します。一例として、塩浴加熱によって生じた脱炭事例を図2に示すように、表面の炭素量が減少しますから、脱炭層はその後の焼入れによって硬化しません。

図2 塩浴加熱した機械構造用鋼の脱炭事例

図2 塩浴加熱した機械構造用鋼の脱炭事例

2.焼割れ

焼割れは、通常は熱処理直後に判明して熱処理不良として扱われますから、使用中の損傷の因子になる例はほとんどありません。ただし、微視的な焼割れは見逃したまま納品される恐れがあり、この場合には早期損傷の因子になりますから、焼割れ防止は非常に重要です。図3に示すように、焼割れの原因としては、材料によるもの、製品形状によるもの、熱処理技術によるものがあり、これらを踏まえて防止策を講じなければなりません。

図3 焼割れの原因と発生機構

図3 焼割れの原因と発生機構

焼割れは、『焼入れ時の急冷によって発生する熱応力』と『焼入れ加熱中の組織(オーステナイト)から焼入れ冷却後の組織(マルテンサイト)に変化するときの膨張によって発生する変態応力』の和が限界を超えることによって生じます。そのため、これらの応力が集中するようなエッジ部の存在、冷却速度が極端に異なるような寸法急変部の存在などは極力避けなければなりません。これは設計上の問題ですが、機械加工の容易さや加工コストおよび材料コストの低減だけでなく、焼入れのことまで考慮した設計が望まれます。

3.焼入変形

変形の大半の原因は焼割れの場合と同様ですが、その他には処理物の焼入加熱炉内でのセッティング方法がよく問題になります。すなわち、図4に示すように、鋼は高温領域(オーステナイト組織)では硬さが著しく低下しますから、セッティングが適切でない場合には自重でも曲がってしまいます。そのため、長物を加熱する際には治具等を用いて縦に吊るすようにセッティングするなどの工夫を要します。

図4 各種鋼材の高温硬さ

図4 各種鋼材の高温硬さ

なお、セッティングが適切であっても、熱応力や変態応力が不均一な場合にも変形は生じます。このときの原因は、寸法急変部の存在など製品形状や不適切な熱処理条件によるものであり、焼割れの原因と同様です。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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