ねじの基礎講座

私たちの身近にあって欠かせない存在、「ねじ」。
ねじにはどのようなはたらきや歴史があり、どんな種類があるのか。
本連載では、ねじに関するさまざまな事項をご紹介していきます。
第3章 ねじの強さ

3-2 ねじの伸縮

ねじの伸縮と言われて、ねじが伸びたり縮んだりするのかと思われるかもしれませんが、ねじに限らずどんな金属も必ず伸び縮みします。わかりやすい例をあげると、コイル状になったばねがあり、これにおもりをつるしていくと、おもりのおもさとばねの伸びは比例します。これをフックの法則といいます(図1)。 もちろん、コイルばねほど大きくは伸びませんが、どんな金属でも引っ張るといくらかは伸びるのです。このとき加える力がある程度までならば、力を取り除いたときに伸びは元に戻ります。この範囲を弾性といい、機械を設計するときには、各部分にはたらく力がこの弾性範囲に収まることを考えます。

図1 フックの法則

図1 フックの法則

ここでフックの法則をまとめると、弾性範囲内で、ばねの伸びx[mm]と加える力F[N]の大きさは比例し、その比例定数k[N/mm]をばね定数といいます。ここでばね定数kが大きければ硬くて伸縮させるのに大きな力が必要、kが小さければ弱い力でも伸縮するということになります。 ここで、1Nとは、質量1kgの物体に働いて、1m/S²の加速度を生じさせる力のことです。1kg重=9.8Nであるため、1Nは約100gの物体にはたらく重力の大きさということもできます。

F=kX[N]

それでは弾性範囲を超えたときにはどのようなことが起きるでしょうか。再度、ばねを思い浮かべて考えてみましょう。ばねにあまりにも大きな力を加えると、コイル状の部分が伸びてしまい、元の長さに戻らなくなってしまいます。この範囲のことを塑性といい、金属を引っ張ったときにも同じことが起きるのです。 塑性範囲ではフックの法則は成り立たなくなり、ばねに加えた力と伸びの関係は曲線状になり、さらに力を加えると、金属は破断してしまいます。この破断する箇所では材料が2つまたはそれ以上の部分に分離しており、これを破壊といいます。 塑性の範囲での変形は力を加えるのをやめたとしても変形が残ってしまい、材料は破断してはいませんが、元の機能を損なうという意味でこれを破損といいます。一般に何かが物理的に「壊れる」という場合、この両者を含むことが多いように思いますが、工学的にはきちんと区別されて扱われます。

図2 引張試験

図2 引張試験

なお、フックの法則で述べてきた力と変形量の関係において、力の部分を、単位面積[m²]あたりにはたらく力W[N]である応力σ[N/m²]で表すこともあります。

応力σ=W / A [N/m²]

また、伸縮の大きさを数値で表す場合には、元の長さL[mm]に対して、どのくらいの伸縮があったのかを⊿Lで表したひずみεが用いられます。それぞれの材料について、応力とひずみの関係を表したものを応力-ひずみ線図といいます。これは軟鋼の応力-ひずみ線図です(図3)。

図3 軟鋼の応力-ひずみ曲線

図3 軟鋼の応力-ひずみ曲線

ひずみε=⊿L / L

ここで説明した考え方が、ねじの強度を検討する場合にも基本となります。

執筆:宮城教育大学 教育学部 技術教育専攻 門田 和雄 准教授

『ねじの基礎講座』の目次

第1章 ねじのキホン

第2章 ねじの種類

第3章 ねじの強さ

第4章 ねじの材料

第5章 ねじの作り方

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