ねじの基礎講座

私たちの身近にあって欠かせない存在、「ねじ」。
ねじにはどのようなはたらきや歴史があり、どんな種類があるのか。
本連載では、ねじに関するさまざまな事項をご紹介していきます。
第3章 ねじの強さ

3-1 ねじの原理

直角三角形を丸めて円柱をつくるとつる巻線ができました。ねじの原理を考えるときには、再度、直角三角形に戻して考えます。ドライバーを回してねじを締めた後にそれを手で外そうとしてもなかなか緩めることは難しいでしょう。 これはねじに加えた力が拡大されて、ねじを締め付ける力に変換されたと考えることができます。実はこの直角三角形に謎を解くカギがあるのです。

人が荷物を持ち上げようとしたとき、鉛直方向に持ち上げるよりも、斜面に沿って持ち上げた方が小さな力ですむことはイメージできるでしょうか(図1-1)。ただし、このときその高さまで移動させる距離は、鉛直方向に持ち上がるよりも長くなります。これは物理で登場する力の分解で考えると説明できます、 すなわち、鉛直方向に持ち上げる場合には、その物体には重力Wがはたらくとすると、斜面を用いた場合にはこの重力Wを斜面に平行な力であるWsinθと斜面に垂直な力であるWcosθに分解することができるのです。 そして、斜面に沿って物体を持ち上げる力はこのWsinθの反対側にこれより大きな力ということになります。たとえば、斜面の比が3:4:5の場合、斜面に沿って10kgの物体を持ち上げようとすると、Wsinθ=10×3/5=6 kgの力ですむことになります。ただし、高さが3のところ、斜面に沿って5だけ移動させなければなりません(図1-2)。

図1-1 斜面と鉛直

図1-1 斜面と鉛直

図1-2 力の分解

図1-2 力の分解

直角三角形を丸めて円柱をつくるとつる巻線ができたことからわかるように、斜面に沿って物体を持ち上げることは、ねじを締めることと似ているのです。すなわち、「ねじは斜面の応用である」ということができます。

なお、実際のねじ締め付けの場面では、おねじとめねじの間に必ず摩擦が存在します。摩擦には物体に力を加えてから動き出すまでの静止摩擦力と、物体が動き始めてからの動摩擦力とがあります。一般には摩擦力は物体が動き出す直前に最大の大きさになり、これを最大静止摩擦力といいます(図2)。

図2 静止摩擦力と動摩擦力

図2 静止摩擦力と動摩擦力

これを固く締め付けられているねじを緩めることに適用すると、ねじが緩んで動き始めるまでには一気に大きな力を加えることが大事であり、少しでも動き始めたらやや力を小さくして一定の速度で回転させればよいことになります。このことは、ねじを締め付ける場合でも考え方は同じです。

執筆:神奈川工科大学 門田和雄 教授

『ねじの基礎講座』の目次

第1章 ねじのキホン

第2章 ねじの種類

第3章 ねじの強さ

第4章 ねじの材料

第5章 ねじの作り方

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