ねじの基礎講座
ねじにはどのようなはたらきや歴史があり、どんな種類があるのか。
本連載では、ねじに関するさまざまな事項をご紹介していきます。
3-9 ボルトの締付け工具
使用したい寸法形状のねじやボルトを選定できたとして、その締め付けを行う場合には、適切な締付け工具を選定して、適切な方法により締め付けを行う必要があります。
小ねじの締め付けに用いられる代表的な工具はドライバーです。使用するねじに合ったドライバーを使わないとねじの溝やドライバーの先端を傷めてしまうことがあります。 JISでは十字ねじ回しと規定されており、その形状には一般用のH形と精密機器用のS形があり、その大きさはNo.1からNo.4までの番号で表されます。 また、本体と握り部との結合方法による分類として、ドライバの軸が握り部の途中までの普通形、握り部が端部まで貫通している貫通形、 さらに先端部のねじを引き寄せる磁力のあり・なしなどがあります。また、すり割付きの締め付けにはマイナスドライバーが用いられます(図1)。
- プラスドライバー
- マイナスドライバー
ドライバーによる締め付けでは、単に回すだけでなく、ドライバーをねじ頭部の溝に対し垂直に奥まで差し込み、力を加えて締め付ける必要があります。 垂直に押さえつけながら回さないとドライバーがねじの溝から外側に逃げようとして浮き上がる現象であるカムアウトが発生して、ねじの頭部をつぶしてしまうことがあります(図2)。
図2:カムアウト
めがねや時計などの小ねじの締め付けには、No.1からNo.4よりも小さな寸法のNo.0やNo.00を含む、精密ドライバーが用いられます。 通常はプラスドライバーとマイナスドライバーが6本程度のセットになって販売されています(図3)。 精密ドライバーの柄の端には空回りする円盤状の支えがあり、 この部分を手のひらで押すことでねじに対して垂直を保つことができます。
図3:精密ドライバーセット
ボルトやナットの締め付けに用いられる代表的な工具はスパナです。 スパナには、開口部が柄の片側にある片口スパナ(図4)や両側にあるスパナ(図5)などの種類があります。 スパナで六角ボルトの締め付けを行う場合、六面のうちの平行な二面である二面幅をつかんで回すことになります。 六面すべてをつかんでより確実で均一な締め付けを行える工具にメガネレンチ(図6)やソケットレンチ(図7)などがあります。 これらのスパナは一つの寸法で一種類が必要となるため、さまざまな寸法のねじを締め付ける場合には、相当数を用意しておかなければなりません。 ボルトをつかむ幅をねじ状の歯車とそれにかみ合う歯車であるウォームギアによって調整できる工具にモンキーレンチ(図8)があります。 これは一本で一定範囲の寸法の締め付けができるので便利ですが、二面幅により締め付けであることや、歯車部にガタが発生することなどがあるため、 ねじを痛めやすくなるため、特に大きな力で締め付ける場合には注意が必要です。
- 図4:片口スパナ
- 図5:両口スパナ
- 図6:メガネレンチ
- 図7:ソケットレンチ
- 図8:モンキーレンチ
六角レンチは六角穴付きボルトの締め付けに用いられる工具です(図9)。 JISでは六角棒スパナと規定されており、六角を意味するヘキサゴンを用いてヘキサゴンレンチ とよばれることもあります。断面が六角形をしている理由として、360度で割り切れるため均一な接触面積を得ることができ、これが作業の確実性や安全性にもつながります。 この六角形状のメリットを生かすためには、それぞれの六角穴の寸法に合ったレンチを選んで六角穴の奥まで完全に挿入してから押し付けながら回転させる必要があります。 寸法ごとにそれぞれのレンチを用意する必要があるため、6本程度のセットになって販売されていることもあります。また、インチ寸法の六角レンチもあります。
図9:六角レンチ
六角レンチの棒部分はL形が基本形であり、小さな力で仮止めをするときや素早く作業をしたいときには長辺を六角穴に挿入して回し、本締めや緩めるときなど大きな力が必要なときには短辺を六角穴に挿入して回します。
なお、六角レンチの長い辺の先端部を約30度斜めにカットしたボールポイントタイプのものは、ねじ頭部のくぼみに対して工具を垂直に差し込むことができない場所でも、斜め方向から回転力を加えることができて便利です(図10)。
図9:六角レンチ(ボールポイントタイプ)
適材適所に用いるねじを選び、適切な工具を選んだとしても、ボルトに適切な締め付け力であるトルクを加えなければ、十分な締結ができたとはいえません。 確実な締結を行うためには、経験や勘で締結を行うのではなく、トルクの大きさを科学的に把握しておく必要があります。 3-5でねじを回す力のモーメントの説明をしましたが、力のモーメントとトルクは物理的には同じことを意味します
六角ボルトに力F0[N]を加えて長さL[mm]のスパナで締め付けることを考えると、ねじを回す力のモーメント(=トルク)は M=F0L[N・mm]で表されます。 ボルトを締め付けるたびにこの計算をするのは面倒なので、トルクレンチとよばれる工具を用いてトルクの管理を行います。 直読式トルクレンチ(図11)は、負荷されているトルクを目盛で直接読むものであり、デジタル表示式のトルクレンチ(図12、図13)などもあります。 また、シグナル式トルクレンチは、あらかじめ締め付けたいトルクを設定しておき、その値に達するとラチェット機構がはたらいてカチンと音で知らせてくれます(図14)。 これらのトルクレンチを選定するときには、それぞれのトルク測定範囲[N・m]を把握しておき、その範囲内で使用します。
- 図11
- 図12
- 図13
- 図14
『ねじの基礎講座』の目次
第1章 ねじのキホン
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1-1ねじのはたらきねじは私たちの身の回りに数多く用いられている代表的な機械要素です。家電製品やパソコン、また乗り物や建物などにも、さまざまな種類のねじが用いられています。
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1-2ねじの歴史ねじが誰によっていつ頃発明されたのかに関する明確な答えはありません。ただし、ねじの特長の一つである螺旋は、紀元前に発明されたアルキメデスの揚水ポンプや
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1-3ねじの規格ねじ、歯車、ばね、軸受などの機械要素は、各部分の寸法などが規格で規定されることで、幅広く互換性をもつものとして広く用いられています。たとえば、ねじの場合には、
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1-4ねじの生産ねじが私たちの身の回りに数多く存在していることは、あたりを見回すだけでわかるでしょう。それではそのねじはいったいどのくらい生産されているのでしょうか。
第2章 ねじの種類
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2-1ねじの各部名称ねじは円筒や円錐の面に沿って螺旋状の溝を設けた形状をしており、円筒や円錐に溝が外側にあるものをおねじ、内側にあるものをめねじといいます(図1)。JISで規定
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2-2ねじ山の種類直角三角形を丸めて円柱をつくり、これを丸めていくとその斜面は曲線を描きます。この曲線をつる巻線といい、ねじの溝はこれに沿って形成されています(図1)。
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2-3ねじ頭部の形状とくぼみ直角三角形を丸めて円柱をつくるとつる巻線ができました。ねじの原理を考えるときには、再度、直角三角形に戻して考えます。ドライバーを回してねじを締めた後にそれを
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2-4ねじのくぼみのいろいろねじ頭部のくぼみの形状には十字穴付きやすり割り付き以外にもさまざまな種類があります。アメリカのカムカー社が開発したトルクスは、ねじ頭部のくぼみが六角形の星形をし
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2-5タッピンねじの種類おねじの締結には必ずめねじに相当するものが必要だと思われるかもしれませんが、実はめねじがない個所で用いられるねじも存在します。
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2-6六角ボルトと六角穴付きボルトの働きと締め付け力めねじをもつナットと組んで使われるおねじの総称のことをボルトといいますが、ねじとボルトの厳密な違いはありません。
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2-7ナットの種類ボルトとともに用いられるめねじをもつ部品の総称をナットといいます。代表的なナットは外形が六角形の六角ナットです。
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2-8座金の種類と働き座金は小ねじ、ボルト、ナットなどの座面と締め付け部との間に挟んで用いる部品であり、形状、機能、用途などに応じて、さまざまな種類のものがあります。
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2-9止めねじの種類と形状止めねじは、ねじの先端を利用して歯車やプーリーなどの機械部品を軸に固定する場合などに用いられるねじです。
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2-10ユニファイねじの規格と種類ユニファイねじは、メートルねじがミリメートルで長さを表したのに対して、インチで長さを表したねじです。
第3章 ねじの強さ
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3-1ねじの原理直角三角形を丸めて円柱をつくるとつる巻線ができました。ねじの原理を考えるときには、再度、直角三角形に戻して考えます。ドライバーを回してねじを締めた後にそれを手で
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3-2ねじの伸縮ねじの伸縮と言われて、ねじが伸びたり縮んだりするのかと思われるかもしれませんが、ねじに限らずどんな金属も必ず伸び縮みします。
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3-3ボルトとナットの強度区分規格品のボルトを選定する場合には、JISで強度区分が規定されているので、この意味を理解しておくとよいです。
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3-4ねじにはたらく力ここではねじにはたらく力をもう少し詳しく見ることにします。
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3-5ねじを回す力ねじを回す力は物体を回転させる力のモーメントと見なすことができます。
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3-6ボルトの締め付けボルトを選ぶ場合には、六角形や六角穴などの頭部形状だけでなく、小ねじを選ぶ場合と同じく、必要なねじの呼び径やピッチなどの数値にも着目します。
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3-7ねじの緩みと緩み止めどんなに強度をもつボルトやナットがあっても、それらを適切に締め付けることができなければ適切な締結力は得られません。
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3-8ボルトの締付け法必要な大きさのねじを選んで適切な工具で締付けることは、少し慣れれば誰にでもできそうなことに思えますが、ねじを適切に締め付けることができたかどうかは、どのようにして判断するのでしょうか。
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3-9ボルトの締付け工具使用したい寸法形状のねじやボルトを選定できたとして、その締め付けを行う場合には、適切な締付け工具を選定して、適切な方法により締め付けを行う必要があります。
第4章 ねじの材料
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4-1鉄鋼材料ねじに限らず、私たちのまわりにある多くの工業製品は金属材料で作られており、その中でも鉄鋼材料は比較的安価で入手でき、強度や粘り強さを兼ね備えているため、多くの場面で用いられています。
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4-2合金鋼材料炭素鋼の機械的性質をさらに向上させるために、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などの元素を添加したものを合金鋼といいます。
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4-3銅材料銅は電気や熱を伝えやすいことや錆びにくいこと、また加工しやすいなどの性質をもち、歴史的には鉄より古くから用いられてきました。
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4-4アルミニウム材料とチタン材料アルミニウムは密度が鉄の約3分の1と軽量であり、銅と同じく電気や熱を伝えやすいことや加工しやすい性質をもつ、白色光沢の金属です。
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4-5プラスチック材料プラスチック材料は、金属材料よりも軽いことや錆びないこと、表面処理なしで使用できることなど、さまざまな特徴をもつ樹脂材料であり、工業製品に幅広く用いられています。
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4-6ねじのめっき金属製品を調べているときに材質のところにクロメートやユニクロなどの文字を見かけることがあるかもしれません。いったいこれは何を意味しているのでしょうか。
第5章 ねじの作り方
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5-1切削加工と塑性加工本連載をここまでご覧の皆さまは、私たちの身の回りにはさまざまなねじがあることをご理解いただけたかと思いますが、意外と知らないのは「ねじはどのように作られているか?」ということです。
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5-2ダイスによるおねじ加工切削加工でおねじを加工するねじ立て作業には、ダイスを用いる方法があります。 ダイスは棒状の工作物におねじを刻むための刃をもつ食いつき部をもつ円盤状の工具であり、ダイス回しと一緒に用います。
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5-3タップによるめねじ加工切削加工でめねじを加工するねじ立て作業には、タップを用いる方法があります。 タップはドリルなどで穴あけをした円筒形の内側にめねじを刻むための刃をもつ食いつき部をもつ工具です。
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5-4旋盤によるねじ切り旋盤は円筒形の工作物を主軸に取り付けて回転させ、これにバイトとよばれる切削工具を接触させて切削加工を行う代表的な工作機械です。
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5-5ねじ切り盤によるねじ切り旋盤によるねじ切りは、旋盤によってできるいくつかの加工のうちの一つでした。一方でねじ切りに特化した工作機械があり、これをねじ切り盤といいます。
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5-6圧造によるねじの加工小ねじの成形には切削加工よりも塑性加工、すなわち切りくずを出さない加工が多く用いられています。
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5-7転造によるねじの加工圧造を終えた段階では、ねじの頭部形状はできているものの、肝心のねじ山がまだできていません。 ねじ山を成形するためには、ねじ山が刻んである工具である転造ダイスの間に材料をはさんで転がします。
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5-8ナットの加工ボルトとナットはおねじとめねじの違いがある通り、製造する工作機械は大きく異なります。そのため、ボルトとナットのどちらも製造している工場はあまり見かけません。
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5-9ねじの検査ねじの作り方は切削加工だけでなく、圧造や転造などの塑性加工によって、大量生産が可能になりました。
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5-10ねじの製図機械や建築物などを設計するときには、その設計図にその形状を詳細に描く必要があります。