電気のおはなし
3-4 自動車用テスターとスキャンツール
はじめに
現在の自動車は電気回路や電子回路やマイコン、センサーにより電子制御されています。今後、自動運転化が進むにつれてこの電子制御化傾向はさらに加速していくものと思われます。
自動車は、従来からの内燃機関(エンジン)を搭載されたものからエンジンとモータを搭載したハイブリット車、そして充電式の大容量電池とモータを搭載した電気自動車へと進化をとげています。
次の表1に自動車の原動機と駆動エネルギーの変遷を示します。
表1 自動車の原動機と駆動エネルギーの変遷
内燃機関自動車 | ハイブリット自動車 | 電気自動車 | |
---|---|---|---|
略称 | ICEV | HV PHV | EV |
原動機 | ガソリンエンジン | ガソリンエンジン+モータ | モータ |
ディーゼルエンジン | |||
駆動エネルギー | ガソリン 軽油 | HV:ガソリン+発電電気 | 充電電気 |
PHV:ガソリン+充電電気 |
自動車の整備工場では、従来の電池の状態やエンジン回りの配線をチェックするテスターに加えてエレクトリカル・コントロール・ユニット(ECU)と制御対象ユニット内の電気回路や電子回路と部品の動作を調べ、故障診断をするスキャンツールが数多く導入されています。 スキャンツールには不具合個所を自動的に調べまわるソフトを内蔵しています。スキャンツールにはメーカ専用のディーラレベルの多機能な上位機種から一般の整備工場に対応するハンディな中位機種、そしてガソリンスタンドや一般のユーザが利用する機能を絞った小型な機種までいろいろな機種があります。
つぎの図1にスキャンツールの普及・活用状況を示します。

図1 国土交通省(http://www.mlit.go.jp/jidosha/index.html)資料より
つぎの図2にスキャンツールの扱う情報量と価格の関係を示します。

図2 国土交通省(http://www.mlit.go.jp/jidosha/index.html)資料より
HV車、EV車の登場で高い電圧を測定することが多くなっていますので測定対象に応じて安全に測定できる形状のテストリードとテストピンを選ぶことが重要になります。
自動車用テスターには、測定対象に応じてグリップしやすく工夫されたテストピン先をした複数のテストリードをキットにした製品が用意されています。
テスター等の測定器には安全規格IEC61010に規定している測定範囲によるカテゴリ(CAT)II~IVの分類のCATと定格対地間電圧が表示されている製品がふえています。自動車用テスターにはCAT III以上の製品を使うことになり、CAT IVの製品を使うことが推奨されています。
つぎの表2に測定カテゴリと適用範囲、測定対象となる製品、設備等の例を示します。
表2 測定カテゴリ、適用範囲と測定対象の例
測定カテゴリ | 適用範囲 | 測定対象の例 |
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CAT IV | 引き込み線から 分電盤 |
電力計、過電流保護機器 |
分配変圧器、配電盤 | ||
ポンプ等への配線 | ||
CAT III | 分電盤から 固定設備 |
照明器具、大型エアコン |
遮断器、スイッチ配線 | ||
動力モータ、工作機械 | ||
CAT II | プラグを差し込む 単相コンセントから負荷 |
電動工具、電化製品 |
テーブルタップ | ||
コードリール |
つぎの図3に自動車用テスターとその接続イメージを示します。


図3 自動車用テスターと接続イメージ
エンジン、トランスミッション、ABS、エアバッグ等のECUをスキャンしてまわり、故障診断をするのがスキャンツールです。
小型のスキャンツールは、DTC(Diagnostic Trouble Code)というコードを読み取り、故障を表示する機能に特化しているのでコードリーダーとも呼ばれています。
アメリカ合衆国では2008年に米国内で販売されるすべての乗用車、小型トラックのECU間のネットワークにCAN規格(Controller Area Network )の採用が義務付けられたので2010年以降のモデルではCAN経由でスキャンツールとのデータのやり取りができるようになっています。
ディーラレベルの整備工場で使われている上位機種では、コードリーダーの機能に加えて回路のデータ分析や波形表示などの多くの機能を有しています。
つぎの図4にコードリーダーと上位機種のスキャンツールの写真を示します。


図4 コードリーダーと上位機種のスキャンツールの例」とする
『電気のおはなし』の目次
第1章 電気回路
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1-1回路とは漢字が示す通り、回って戻って来る路が回路です。回路を循環しているものが電気なら電気回路、電子なら電子回路になります。
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1-2回路の種類電気回路には大電流、大電力の発電系、送電系からの大工場、大型ショッピングモールなどの受電系、一般家庭の受電系、パソコン、スマホなどのプリント基板のパターンを流れる小電流回路、ICやLSI内部の微小電流まで扱う電流の大小により多くの種類があります。
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1-3交流回路とは交流波形をした電圧や電流が電源から負荷に流れているのが交流回路です。
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1-4直流回路とは直流電源を使用している回路や部品、機器、設備の内部には直流回路が形成されています。直流電源には直流発電機、電池、交流から直流に変換する電源アダプターなど多くの種類があります。
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1-5並列回路とは工場の電動機や照明等の負荷への配線、オフィスの複写機、パソコン等の負荷への配線、住宅内のエアコン、家電品等の負荷への配線など電力会社から受電した電気を負荷へ供給している配線回路のほとんどが並列回路を形成しています。
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1-6直列回路とはスマホ、ノートパソコンなどの携帯電子機器ケースの内部には充電できる二次電池のホルダーが収納されています。 中
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1-7分岐回路とは退避線のある駅に各駅停車の電車が近づくと本線から分岐された線路を通って目的のプラットホームへと向かい停車します。
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1-8遮断回路とは地震や火災、風水害が発生した時や保守点検、工事安全確保が必要な場合や目的に達した時に電路と切り離し動作を行う回路に遮断回路があります。
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1-9プリント配線板とは電子回路や電気回路の配線の一部を印刷して展開した板をプリント配線板とよんでいます。
第2章 電気の測定
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2-1電気回路測定の心得電気回路の測定に入る前に測定する周囲の電場環境や磁場環境など周囲環境が電気回路や電子回路にどのような影響を与えているのかを調べておきたいと思います。
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2-2電圧の測定電圧の測定器はメーターの針で測定値を示す指針型のアナログ計器とLEDや液晶の表示器に測定値を数字で示すデジタル計器とにわけられます。
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2-3電流の測定電圧の測定で紹介した回路計(マルチメータ)の電流測定機能と測定範囲は機種によって異なっています。
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2-4抵抗の測定抵抗測定というと、Ωレンジへ切り替えて測定するテスタ、マルチメータをイメージしてしまいがちです。
第3章 回路計
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3-1テスター(回路計)とはテスターは、機種により装備している機能が異なりますが電気回路、電子回路の電圧や電流、電子部品の抵抗、容量などが手軽に測定できる便利な測定器です。
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3-2アナログテスターの使い方アナログテスターの電圧や電流の測定では測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみ
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3-3デジタルテスターの使い方デジタルテスターでも電圧や電流の測定ではアナログテスターと同じく測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみで切り替えられたスイッチ回路を通してAD変換器を中心とするLSIと周辺回路へ送られます。
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3-4自動車用テスターとスキャンツール現在の自動車は電気回路や電子回路やマイコン、センサーにより電子制御されています。今後、自動運転化が進むにつれてこの電子制御化傾向はさらに加速していくものと思われます。
第4章 電気用品
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4-1電気回路と関係のある法律とマーク電気回路と関係がある国内と海外の安全に関する法律や安全マークに数回にわたって解説していきます。
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4-2JIS日本工業規格とは今回は、電気回路に関係している電気設備、電気用品、電気部品、電気材料や機械部品などの標準化を定めている日本工業規格(JIS:Japan Industrial Standards)(以下JIS)について調べていきましょう。
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4-3電波法と技適マークについて電波を公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進することを目的として定められたのが電波法です。多くの政令や省令に詳細が定められています。
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4-4人工知能(AI)とは準備中
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4-5CEマーク準備中
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4-6ULマーク準備中
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4-7CSAマーク準備中
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4-8FCCマーク準備中
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4-9VCCIマーク準備中
第5章 発電
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5-1発電の種類準備中
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5-2水力発電準備中
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5-3風力発電準備中
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5-4火力発電準備中
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5-5地熱発電準備中
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5-6バイオマス発電準備中
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5-7原子力発電準備中
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5-8内燃機関発電準備中