工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料の変遷 4-14合成樹脂塗料の発展

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第4章 塗料のルーツと変遷

4-14 合成樹脂塗料の発展

  連続被膜を形成する樹脂が塗膜の性能を大きく左右する。樹脂開発の経過は、表4-5(4-10掲載)で大まかに知ることはできるが、樹脂開発とそれに伴う塗料、塗装技術の変遷は「トコトンやさしい塗料の本」p.155に示される。13)

  昭和初期(1925-30年頃)にはフェノール樹脂、フタル酸樹脂が開発され、合成樹脂塗料のさきがけになった。第二次大戦中は飛行機用、船底用塗料の研究が中心で大きな進展はなかったが、大戦後の1950年頃を境にして、大きく発展した。白顔料の主役である亜鉛華はチタン白(酸化チタン)に置き換えられ、油性調合ペイント(OP)は合成樹脂調合ペイント(SOP)にその座を奪われた。 その様子は図4-24(4-12掲載)で説明されている。 油性塗料(油ワニスと油性調合ペイント)は明治と共に発展し、第二次大戦後には姿を消したが、刷毛(はけ、またはハケ)塗り技能が仕上がり性を左右したので、職人が腕を競い合うにはとても良い塗料であった。油性塗料自体は使用されなくなったが、油が酸化重合して塗膜を形成すると言う本質は合成樹脂調合ペイント(SOP)に引き継がれている。作業性がよく、付着性、耐水性に優れているので、現在もDIY店では、油性鉄部サビ止めペイントや、油性トタン用ペイントとして販売されている。

  戦後に入って1948年には日本塗料工業会が設立されるのと同時に、合成樹脂のラッシュ時に遭遇し、「トコトンやさしい塗料の本」p.155では、塗料と塗装の発展を次の3段階に分けて解説している。13)

図4-29 塗料の製造量と車の生産台数の変化
図4-29 塗料の製造量と車の生産台数の変化21)

1.合成樹脂塗料の全盛時代-1950-60年代

  焼付け塗料の典型であるアミノアルキド樹脂塗料、ポリアミド硬化エポキシ樹脂塗料、2液型ポリウレタン樹脂塗料で代表されるように、合成樹脂塗料が広く開発され、塗料生産量は5年ごとに倍増し、塗料メーカーの数も増えた。

2.ポリマー技術の高度化時代-1970~80年代

  樹脂の分子設計や樹脂微粒子設計(ミクロゲル、NAD、エマルション粒子)を含む樹脂設計を高度化させることで高性能塗料を実現した時代である。 学協会(色材協会、高分子学会、日本塗装技術協会)の活動も多岐にわたり、研究発表会も活発で、海外の研究者との交流も増加した。 塗料生産量は着実に増加しており、その様子は、図4-23(4-12掲載)に示す塗料生産量の推移で見ることができる。

3.高機能化と環境負荷低減時代-1990年以降

  1990年に国内の塗料生産量は220万トンに達し、これまでの最高を記録した。その後、暫減していたが、図4-29(a)に示すように、日本の塗料メーカーの海外での塗料生産量は増加し、2013年には224万トンに達し、1990年に記録した国内生産量に並んだ。 図4-29(b)には、車の生産台数の変化を図示しているが、リーマン前後における塗料生産量の推移は自動車の生産台数のそれと類似している。21) すなわち、塗料製造は車の動きに敏感な産業構造になっている事を示している。

  一方、世界的に環境規制が厳しくなり、塗料技術は新規樹脂の開発よりも、コスト削減のための原料配合の見直しと、VOC(揮発性有機化合物)削減塗料への転換に奔走している。 このことは、図4-30に示す1990年から2014年の25年間に渡る種類別塗料生産量比率のデータが如術に示している。 2014年の塗料生産総量は、1990年に比べて73%程度に低下しているが、水系と粉体塗料の生産量は相対的に増大している。 一方、溶剤型塗料の生産量は相対的に低下しているが、VOCであるシンナーの比率は逆に上昇している。 シンナーの生産量を比較すると、1990年と2014年でそれぞれ46.9、42.9万tとなり、溶剤型塗料の生産量の低下に連動していない。 この事は水性塗料の製造と調製においても、VOCが必要であること、また、PCM(プレコートメタル)用塗料ではVOCを含む溶剤型塗料を使用しているが、塗装ラインでは、VOCのほぼ全量を回収して、焼付けの熱源に使用している。 大気中に拡散しないVOCが存在することで説明できる。なお、次回には溶剤型塗料の種類別生産量の推移を示し、解説する予定である。

図4-30 タイプ別塗料の年間生産量の変化
図4-30 タイプ別塗料の年間生産量の変化

  朝日新聞の夕刊に素粒子なる記事(2010.1.5)があり、世相の反映と民衆の気持ちを代弁している。 1980年代を消費文化が爛熟した「金ぴかの10年」、1990年代をバブル後の「失われた10年」、2000年代を「格差の10年」であるとしている。 10年ごとの呼び名を実にうまく表現している。

  図4-29と照らし合わせて見ると、1980年代は合成樹脂塗料が全盛時代を迎え、海外との技術交流が盛んに行われたように、まさに「金ぴかの10年」である。 そして、1990年代は経営者にとっては海外での生産量を伸ばした時期であり、社員にとっては「失われた10年」、あるいは、その後に来る「格差の10年」を痛感させられたかも知れない。

執筆: 元川上塗料株式会社 社外取締役 坪田 実

〔引用・参考文献〕*4章通し番号
1)大藪泰:表面技術, Vol.70, No.5, p.236-241 (2019)
2)職業能力開発総合大学校編:“塗料”, 雇用問題研究会, p.15, 18, 126 (2007)
3)工藤雄一郎・四柳嘉章: 植生史研究 第23巻 第2号 p.55-58 (2015)
4)大沼清利:“技術の系統化調査報告”, 国立科学博物館, Vol.15, March (2010)
5)前川浩二:“第52回塗料入門講座”講演テキスト, (社)色材協会 関東支部 (2011)
6)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, 玉虫厨子
7)http://msatoh.sakura.ne.jp/08053site.htm
茶の湯の森 (http://www.nakada-net.jp/chanoyu/で検索してください。
8)https://boku-undo.co.jp/story/st2.html
9)エチルアルコールと水の密度をそれぞれ0.79、1.0g/cm3、酒のアルコール濃度を16wt%として、酒の密度を計算した。
10)https://4travel.jp/travelogue/10116454
11)日本塗料工業会データを一部参照
12)坪田実、高橋保、長沼桂、上原孝夫:塗装工学, Vol.36, No.6, 213-222 (2001)
13)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.91,155 (2008)
14)坪田実:塗装技術、理工出版社、2011年4月号、p128-134 (2011)
15)アネスト岩田株式会社80年史 (2005)
16)坪田実:“工業塗装入門”, p.27, 日刊工業新聞社(2019)
17)R.H.Kienle, C.S.Ferguson:Ind.Eng.Chem., 21,349 (1929)
18)坪田実:色材, 91, No.8, p.282 (2018)
19)坪田実:学位論文“塗膜物性に及ぼす顔料効果の研究”, 東京大学, p.202 (1985)
20)坪田実:“図解入門塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.75 (2016)
21)武井昇:“旭サナックテクニカルレビュー2014”, p.2 (2014)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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