工具の通販モノタロウ 機構部品 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 鉄鋼の等温保持による特性の変化(等温変態)

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-7 鉄鋼の等温保持による特性の変化(等温変態)

前回は、オーステナイト領域から連続冷却したときの変態について説明し、熱処理との関係を示しました。今回は過冷オーステナイト状態のまま一定温度で保持したときの変態について解説します。このときの変態曲線は等温変態曲線と呼ばれています。 なお、等温保持温度までは急冷する必要がありますから、冷媒には塩浴(硝酸塩など)が利用されます。

等温変態曲線とは、オーステナイト領域に加熱したのち各温度まで急冷し、その温度で等温保持したときに生じる組織変化を示したものです。この曲線はTTT(Time:時間、Temperature:温度、Transformation:変態)曲線ともよばれ、CCT曲線と同様に縦軸が温度、横軸が時間で表します。

高温側から短時間側に向かって膨らんでいる箇所をノーズ(鼻)といい、500~550℃位のところに存在します。このノーズが右側(長時間側)に寄るほどこの曲線を利用した熱処理が施しやすくなります。TTT曲線全体が左側(短時間側)に寄るか、右側(長時間側)に寄るかは鋼材中の含有合金元素やオーステナイト化条件によって大きく影響されます。

合金元素では、焼入性を向上させるMn、Cr、Moなどが含有しその含有量が多いほど、またオーステナイト化温度は高いほど、結晶粒度が大きいほど全体が右側に移行します。そのため、特定個々のTTT曲線を提示する場合には、化学成分およびオーステナイト化温度の表示が必須になります。結晶粒度まで提示してあるTTT曲線もあります。

一例として、図1に機械構造用鋼におけるTTT曲線の模式図を示します。ノーズよりも高温で等温保持したとき(等温保持線1および2)の金属組織は、図中に記号で示しているように、変態開始点Fsでは過冷オーステナイト(γ)からフェライト(α)への変態が始まり、その後Ps点でパーライト変態を生じ、Pfの変態終了後の金属組織はフェライト(α)+パーライト(P)です。 ただし、等温保持する温度は高温のほうが、得られる硬さが低く、低温になるほど硬くなります。なお、パーライトとは、過冷オーステナイトから共析変態したもので、α鉄と層状のセメンタイト(Fe3C)との混合組織を呈しています。

図1 機械構造用鋼における等温変態(TTT)曲線の模式図

図1中の記号・番号の意味

  • 1.変態曲線の名称
  • Fs:オーステナイトからフェライトへの変態開始線
  • Ps:オーステナイトからパーライトへの変態開始線
  • Pf:パーライトへの変態終了線
  • Bs:オーステナイトからベイナイトへの変態開始線容
  • Bf:ベイナイトへの変態終了線
  • Ms:オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始線
  • Mf:マルテンサイトへの変態終了線
  • Ae1,Ae3:参考にまで示したもので、それぞれ平衡状態でのA1、A3変態点
  • 2.金属組織の名称
  • γ:γFe(オーステナイト)
  • α:αFe(フェライト
  • P:Pearlite(パーライト)
  • B:Bainite(ベイナイト)
  • M:Martensite(マルテンサイト)

ノーズよりも低温で等温保持したとき(等温保持線3および4)の金属組織は、変態開始点Bsでベイナイト(B)への変態が始まり、Bfの変態終了後の金属組織はベイナイト(B)です。このベイナイトの場合も500℃に近いほど硬さは低く、Ms点に近づくほど硬くなります。また、等温保持温度が高温側と低温側の場合で模様が異なるため、名称も区別する場合もあります。 高温側のベイナイトは上部ベイナイトと呼ばれ、金属組織は図2に示すように、羽毛状を呈しています。低温側のベイナイトは下部ベイナイトと呼ばれ、針状のマルテンサイトに似かよった模様を呈しています。ただし、ベイナイトはα鉄とFe3Cとの混合組織ですから、基本的にはパーライトと同様のものです。

図2 上部ベイナイト組織(500℃で等温保持)の一例

このTTT曲線を利用した熱処理は等温熱処理とよばれ、通常の熱処理よりも短時間処理が可能なこと、熱処理変形が少ないこと、機械的性質の優れたものが得られることなど有利な点が多いので、よく利用されています。この等温熱処理に関しては、第2章の中で詳細に説明しますから、ここでは省略します。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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