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工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

4-6 工具に適用されている炭化物被覆の種類と特徴

鉄鋼製品を対象として、耐食性や耐摩耗性を向上させる目的で、金属元素の拡散浸透処理が利用されています。金属元素のうち、バナジウム(V)やチタン(Ti)など強力な炭化物形成元素が鋼中に拡散浸透すると、これらは処理物に含有する炭素(C)と反応して硬質の炭化物を形成しますから、この場合には炭化物被覆とよばれています。炭化物は超硬質ですから耐摩耗性を著しく向上させ、しかも耐熱性や耐食性も優れていますから、金型の表面硬化処理として工業的にもよく利用されています。

炭化物被覆に適した金属元素は、表1に示すようにTi、V、NbおよびCrなどで、これらは処理品に含有する炭素と化合して超硬質の炭化物を生成します。炭化物を形成するためには多量の炭素を必要としますから、被覆対象鋼種としては基本的には炭素含有量の多いものほど有利です。ただし、炭素含有量の少ない鋼種に適用する際には、浸炭処理など表面付近の炭素含有量を増加させるような前処理を必要とします。

表1 拡散浸透処理によって得られる炭化物の硬さ

拡散金属t 炭化物 硬さ(HV)
チタン(Ti) TiC 3200~3800
バナジウム(V) VC 3000~3200
ニオブ(Nb) NbC 2600~3000
クロム(Cr) Cr7C3 1600~2000


金属元素の拡散浸透処理法としては、粉末パック法、塗布法(ペースト法)、流動層炉法、溶融塩法など種々の方法があります、

図1に粉末パック法によるTiC被覆の概略を示します。浸透剤として、金属粉末にはTi粉末を、反応促進剤には塩化アンモニウム(NH4Cl)を、焼結防止剤にはアルミナ(Al2O3)を用います。この3種類の粉末を混合して、被処理品とともに耐熱鋼製容器に充填し、1000~1200℃で加熱します。Ti粉末はNH4Clと反応して気体のTiCl4に変化し、さらに処理物中の炭素と反応してチタン炭化物(TiC)を皮膜として生成します。

図1

溶融塩法が開発されたのは1960年で、日本では1968年に豊田中央研究所で開発された無水硼砂(Na2B4O7)を用いる方法が利用されています。この方法はTD(Toyota Diffusion)処理ともよばれており、図2に示すように、炭化物形成元素である金属粉末を添加した塩浴中に処理物を浸漬して加熱処理するものです。主に金型を対象にしたバナジウム炭化物(VC)被覆がよく利用されています。

図2

VCの生成の場合、塩浴にはフェロバナジウム(Fe-V)を添加したホウ砂が用いられており、1000~1050℃で処理されています。対象鋼種の中でも最も適用例が多いのはSKD11またはSKD61製の金型で、これらの焼入温度と処理温度が同じですから、炭化物被覆処理に続いてそのまま焼入れが可能です。一例として、図3に溶融塩法によってVC被覆したSKD61の断面組織を示します。

図3

この処理の問題点は、処理温度が高いため、処理にともなう変形や変寸を生じやすく、しかも後研磨や後熱処理が必要なものもあることです。そのため低温化を目的として、予め処理物を窒化処理した後、窒化温度程度の低温で処理する低温処理も開発されています。この方法は、図2中にも示したように、塩化物系の塩浴を用いて500~600℃で加熱するもので、クロム(Cr)炭窒化物の生成に利用されています。

金属粉末を添加した塗料による塗布法も開発されており、TiやCrの炭化物被覆が報告されています。この方法は促進剤としてのハロゲン化物は使用しませんから、真空熱処理炉や雰囲気炉を用いて同時焼入れも可能ですし、必要箇所のみへの塗布も容易ですから、とくに金型などの部分的な炭化物被覆には有効な手段です。

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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