工具の通販モノタロウ 工具の熱処理・表面処理基礎講座 工具に適用されているめっきの種類と特徴

工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

4-4 工具に適用されているめっきの種類と特徴

めっきとは、水溶液中での処理ですから一般には湿式めっきとよばれており、図1に示すように、電気エネルギーを利用する電気めっきと外部からのエネルギーを必要としない化学めっき(無電解めっき)に大別されます。前者は、処理物と電極との距離によって膜生成速度が変わりますから、複雑形状物への均一処理は困難です。しかし、後者は複雑形状物への均一処理が可能であり、しかも処理対象物は導電性の金属には限らず、セラミックスなど絶縁物質など広範囲に及びます。

図1

湿式めっきの最大の特徴は処理温度が100℃以下ですから、処理にともなう生地の劣化や変形の心配がないことです。工具類に対するめっきの適用目的は、耐摩耗性や摺動性ですから硬質の皮膜がよく利用されています。電気めっきによる工業用クロムめっきおよびニッケルめっき、化学めっきによるニッケルーリンめっき(Ni-Pめっき)の適用事例が多く、さらなる性能向上が期待できる粒子分散めっきの適用事例が増加しています。

(1) 工業用クロム(Cr)めっき

工業用Crめっきは硬質Crめっきともよばれ、硬さが800~1000HVにも達しますから、種々の工具類によく利用されています。ただし、硬質Crめっきは耐摩耗性や離型性には優れていますが、400℃以上では急激な硬さ低下を生じますから、使用中に温度上昇をともなう箇所には使用できません。Crめっき膜の残留応力は引張応力ですから、皮膜の厚さが増大するほど残留応力が大きくなり、膜内および膜表面にクラックが発生します。これは、残留応力を緩和しようとするために生じるものですから、工業用Crめっき膜には必然的なものです。一例として、図2に表面に生じたクラックの状況とその断面組織を示します。このクラックの存在は、めっき品が潤滑環境下で使用される場合には、潤滑剤保持効果がありますから非常に有効です。

図2

(2) ニッケル-リン(Ni-P)めっき

化学めっきによるNi-Pめっきは電気めっきの場合とは異なり、製品の形状には関係なく均一なめっきができますから、工具類の中でも形状が複雑な金型(プラスチック成形用)など高精度を要する製品によく利用されています。

めっきのままの硬さは500~550HV程度ですが、熱処理によって工業用Crめっき膜と同程度の900~1000HVにも達しますから、耐摩耗性を重視する工具類には広く利用されています。ただし、Ni-P膜は硬質Cr膜と同様に400℃以上の高温では急激に硬さが低下しますから、使用温度には注意が必要です。

(3) 粒子分散めっき

粒子分散めっきとは、めっきする際に、めっき膜のさらなる特性向上や新規機能性付加を目的として、各種セラミックをはじめ樹脂など種々の粒子を膜中に分散させるものです。すなわち、分散させたい粒子を懸濁させためっき浴を用いてめっきすれば、図3に示すように金属が析出する際に同時に微粒子を取り込みます。

図3

Ni-P膜に対する粒子分散の目的は、さらに耐摩耗性を付加(より硬くする)すること、自己潤滑性を付加(摩擦係数を低減する)すること、撥水性を付加(離型性を持たせる)することです。ちなみに、工業製品に対して現在もっともよく利用されている分散粒子は、耐摩耗性の付加を目的として炭化珪素(SiC)、自己潤滑性や撥水性の付加を目的としてふっ素樹脂(PTFE)です。

一例として、図4にNi-PめっきおよびPTFE粒子分散したNi-Pめっき膜の断面組織を示します。PTFE粒子の添加は、膜硬さは低下させますが、摺動性や離型性を大幅に改善しますから、耐摩耗性も重視したい場合には、PTFEの添加は10%以下にし、摺動性や離型性を最重視するのであれば20%以上添加します。

図4

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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