工具の通販モノタロウ 工具の熱処理・表面処理基礎講座 工具に適用されている表面処理の特徴

工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

4-3 工具に適用されている表面処理の特徴

表面処理を適用する際に、処理対象物に要求される効果を十分に満足させるためには、個々の表面処理の特徴をよく理解しなければなりません。表1に工具によく適用されている表面硬化処理法の特徴を示すように、個々の比較項目によって適不適のあることが分かります。例えば、精密工具など処理にともなう変形や変寸が問題になる場合は、高温で処理される炭化物被覆や熱CVDは適用できません。

表1

工具の中でも金型は複雑形状のものが多く、表面処理を適用する際にはとくに均一処理を要求されます。この場合表1からも明らかなように、処理機構がガス反応による熱CVDや熱拡散による表面熱処理は、対象物の形状にはほとんど影響されずに均一処理が可能です。また、化学反応を利用する化学めっきも、めっき液が供給できる箇所であれば比較的均一な表面層が得られます。

しかし、イオンの移動を利用して膜生成するPVDや電気めっきは、複雑形状物への均一処理は困難です。とくに、PVDに分類されるイオンプレーティングやスパッタリングによる膜生成は直行志向の強いイオンの加速を利用しますから、複雑形状物への均一な表面層を得ることはほとんど不可能です。

以上のような各表面処理の特徴を十分に把握したうえで、さらには次のような項目を十分に留意したうえで適用の可否を決定しなければなりません。

  • 処理物と表面処理との相性はマッチングしているか〔基材の軟化、脆化はないか〕
  • 処理物の形状・寸法は表面処理に適しているか〔表面層の均一性はどうか〕
  • 処理物の表面性状は表面処理に適しているか〔表面粗さや表面汚染の問題はないか〕
  • 処理物の加工工程上に問題は生じないか〔表面変質の問題は生じないか〕
  • 処理物の使用環境や使用条件に適合しているか〔使用温度、使用雰囲気、加工条件など〕
  • コスト的には問題ないか〔過剰品質にならないか〕

表面処理の適用によって十分な効果を得るためには、個々の表面処理の特徴を十分に把握し、処理物の使用状況を踏まえたうえで適正な適用形態を考慮しなければなりません。

図1に表面処理適用のポイントとして、すべての表面処理に共通の適用形態と表面処理の適用によってもたらされる効果を示します。表面処理を適用する場合、既存の製品や部品に単純に追加適用できるものも多くありますが、製品や部品を構成している材料を変更しなければならないもの、寸法や形状を変更しなければならないもの、前熱処理や後熱処理を付加するなど加工工程を変更しなければならないもの、など表面処理の適用形態は様々です。すなわち、表面処理を適用して要求される特性を十分に発揮させるためには、製品や部品の設計段階から留意しておくべきことが多々あります。

図1

表面処理によって得られる表面特性はすばらしいものであっても、適用した処理物との相性が悪ければ、また使用環境や使用条件が適していなければ、その効果は半減してしまい、むしろ逆効果になる場合すらありますから、適用ポイントを十分に留意してください。

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

目次をもっと見る

『作業工具/電動・空圧工具』に関連するカテゴリ