工具の通販モノタロウ 作業工具 工具の熱処理・表面処理基礎講座 硬質膜の硬さおよび摺動特性評価法

工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

6-2 硬質膜の硬さおよび摺動特性評価法

PVDやCVDによる硬質膜の表面硬さは、一般にはマイクロビッカース硬さ試験機で測定しますが、実用的な膜厚が1~5μm程度の薄膜ですから、測定荷重や基材硬さの影響を大きく受けます。

図1は、イオンプレーティングによってTiNコーティングした硬さの異なる2種類の試料(SKH51)について、表面硬さに及ぼす測定荷重の影響を示したものです。測定荷重が0.245Nのときは、基材硬さに関係なく表面硬さは2500HV位であり、この硬さが本成膜条件によって得られるTiN膜の硬さを反映しているものと思われます。しかし、その値は測定荷重が大きくなるほど低下し、さらに基材硬さが低い試料のほうがその影響が大きくなります。このように、PVDやCVDで生成される薄膜の硬さを測定する場合には、下地の影響を極端に受けますから、その場合には負荷荷重をできるだけ小さくしなければなりません。ただし、極端に荷重を小さくすると、下地の影響は少なくなりますが、今度は読み取り誤差が大きくなるなど別の問題が生じます。

図1

ビッカース硬さは、所定の荷重を負荷してから、一定時間保持後に荷重を除去し、残存した圧痕を測りますから、塑性変形硬さになります。このことは、弾性変形が大きい薄膜の場合にはビッカース硬さは不向きであることを示唆しています。

そのため、弾性変形硬さと塑性変形硬さの両方を測定できる超微小硬さ試験機(ナノインデンター)が注目されており、適用事例が急増しています。一例として、図2にDLCコーティングしたシリコンウエハのナノインデンターによる荷重―変位曲線を示します。荷重負荷した際の変位は荷重除荷することによってかなり小さくなり、しかも荷重が小さいほどその影響が大きくなっています。この現象が生じることは、DLC膜が弾性変形の大きい皮膜であることを明らかにしています。

図2

図3は、そのときの押し込み硬さおよび塑性変形硬さと測定荷重との関係を示したものです。押込み硬さは測定荷重の影響はほとんど受けていませんが、塑性変形硬さの場合は測定荷重が小さいほど高い硬さが得られています。この場合の硬さの値は、この測定荷重の範囲では基材硬さの影響はほとんど受けておらず、塑性変形硬さの測定荷重にともなう大きな差は皮膜の弾性変形によることが明らかです。

図3

硬質膜の摺動特性を評価するための試験機には多くの種類があります。図4は、PVDやCVDによって生成されている硬質膜の摺動特性を評価する手段として、よく利用されているボールオンディスク摩擦摩耗試験機の概略を示したものです。この手法は、回転しないように治具で固定したボール(直径:6mmまたは1/4inch)を一定荷重で平坦な皮膜上に押し付け、一定の径で円を描くように走査させ、ボールと皮膜の間に生じる摩擦抵抗をセンサで感知して摩擦係数の変化を表示するものです。ボール材は、ベアリングとして種々の材質が市販されていますから、皮膜の使用状況に応じた選定が比較的容易です。しかも、摩擦試験後の皮膜表面やボールの摩擦箇所を観察または分析することによって摩擦形態を把握でき、さらには両者の摩耗痕を測定すれば摩耗量まで算出することもできます。

図4

また、測定の際の負荷荷重範囲や回転速度(摩擦速度)は、種々の範囲の試験機が販売されており、回転摺動摩擦だけでなく往復摺動摩擦や振動摩擦など摩擦形態も様々です。また、専用冶具を利用することによる水中や油中での液体中での摩擦摩耗、ヒーターによって加熱できる高温摩擦摩耗、真空や雰囲気制御の可能な試験機なども製造販売されていますから、評価対象品の用途に即して使い分けられています。

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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