工具の通販モノタロウ 作業工具 工具の熱処理・表面処理基礎講座 炭素工具鋼、合金工具鋼の種類と特性

工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

2-1 炭素工具鋼、合金工具鋼の種類と特性

工具鋼のうち、炭素工具鋼(SK)および合金工具鋼(SKS、SKD、SKT)は、主に治工具や各種金型に利用されています。第1章でも述べたように、JISでも多くの鋼種が規定されており、それぞれ用途によって使い分けられています。表1は、これら工具鋼のJISによる分類と個々の鋼種別に示されている用途例を表したものです。この表から、炭素工具鋼の場合は炭素含有量によって、合金工具鋼の場合は炭素含有量および合金元素の種類や含有量によって、用途の異なることが分かります。

表1

炭素工具鋼は、JISではSK60(0.55~0.65%C)からSK140(1.30~1.50%C)まで、炭素含有量によって11種類の鋼種が規定されています。炭素含有量が多い鋼種はやすりや刃物など硬さを最重視するものに用いられており、刻印やプレス型などじん性まで強く要求される工具類には炭素含有量の少ない鋼種が適しています。

ただし、炭素以外の合金元素は添加されていませんから焼入性が悪いため、大型の工具には不向きです。そのため、一般に製造されている炭素工具鋼には0.3%程度のクロム(Cr)が添加されており、SK材相当品として販売されています。このCrの添加は、焼入性の改善だけでなく耐摩耗性やじん性に対しても有効に作用しますから、0.3%以上添加されることもあります。ちなみに、化学成分的にSK140にCrを0.20~0.50%添加した鋼種が、SKS8として合金工具鋼の中に規定されており、用途例も同様に示されています。

合金工具鋼は、炭素量だけでなく合金元素の種類や含有量によって多種多様の鋼種があり、JISでも切削工具鋼用として8鋼種、耐衝撃工具鋼用として4鋼種、冷間金型用として10鋼種、熱間金型用として10鋼種の全32鋼種も規定しています。

切削工具鋼用、耐衝撃工具鋼用および冷間金型用の一部である鋼種記号SKS材は、炭素以外の合金元素としてCr単独、もしくはCrだけでなくタングステン(W)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などを複合添加されていますが、いずれも添加量は少量であり、基本的な用途は炭素工具鋼と同様です。ただし、合金元素の効果がありますから、炭素鋼に比べて焼入性が優れており、しかも耐摩耗性や耐衝撃性の点でも有利です。なお、合金元素の個々の効果については、第1章の1-3~1-6を参照してください。

合金工具鋼の中でも、各種金型に用いられる鋼種は炭素以外の合金元素を多量含有しているものが多く、JISの鋼種記号はSKDです。冷間金型用としてはSKD11、熱間金型用としてはSKD61が最も多く用いられています。SKD11はCrを約12%Cr、Cを約1.5%含有し、その他に少量のモリブデン(Mo)とVが添加されていますから、合金工具鋼の中では最も耐摩耗性および焼入性が優れています。空冷でも焼入硬化できますから、空気焼入鋼ともよばれており、大型の高面圧が負荷される金型によく利用されています。

ダイカストなど熱間金型用に利用される場合には、耐熱衝撃性が最重要ですから、冷間金型用鋼よりは炭素含有量は大幅に少なくして炭化物は微細化されています。金型にはその他にも表2に示すように多くの種類があり、共通的には耐摩耗性や摺動性が要求されますが、金型の種類によっては耐衝撃性や耐熱性、耐食性や鏡面仕上げ性を最重要なものまであります。金型に要求される性質の中で、耐摩耗性や耐衝撃性など多くのものは適正金型材によって得られるものですが、その性質を引き出すのが熱処理であり、それらの性質をさらに向上させ、摺動性や離型性など新たな特性を付与するために、表面処理が採用されています。

表2

また、金型用鋼はJISでも多種類の鋼種が規定されていますが、金型の種類によって要求される特性もまちまちですから、表3に示すように製鋼メーカーのブランド鋼が多種類製造販売されています。これらのブランド鋼は、JISの鋼種を基本として合金元素の添加量を調整し、他の元素を加えるなどして特性を改良したものです。主な改良点は、炭化物を微細化して耐衝撃性や鏡面仕上げ性を向上させることであり、炭化物が微細化されれば、焼入温度を低くできますから、残留オーステナイトや焼入変形の低減などの効果も期待できます。

表3

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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