塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-4 直接法 はけ塗り

はけ塗り

刷毛(はけ)の選び方

刷毛の代表例を図3-13に示します。6)

塗料の種類、塗り面積等に応じて適切なはけを選びます。一般に合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では硬い毛(黒い馬毛)のずんどう刷毛を、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白い羊毛)のすじかい刷毛を用います。

図3-13 主な刷毛の種類と原毛例

屋根・フェンス・シャッターなどを合成樹脂調合ペイントで塗るときには、図3-14に示すように黒毛のずんどう刷毛と、すじかい刷毛、さらにウエスと下げ缶(塗料容器)をセットにして両手で持ち、いつでも刷毛を取り替えて使用できるようにします。

図3-14 刷毛塗り時に両手で持つセット

ずんどう刷毛は腰が強く、塗料の含みがよいので広い面の塗装に適しています。すじかい刷毛はずんどう刷毛の補助として、隅や端など塗りにくい所をあらかじめ塗ったり、図3-9に示すようにダミわけと言って色違いで平面部(ローラー塗りか、ずんどう刷毛)と端部を塗り分ける時に使用します。すじかい刷毛には各種大きさの刷毛がありますから、臨機応変に選んでください。

図3-9 すじかい刷毛による隅部の塗り方

 

速乾性塗料の塗り方

事例として、図3-15に示す本立てを硝化綿ラッカークリヤ(ニス、あるいは速乾性ワニスと呼ぶ)で塗る時の刷毛さばき(刷毛の動かし方)について説明します。

図3-15 本立ての塗り順序の例と置き台の活用

基本的な刷毛さばきを図3-16に示します。遅乾性塗料で行った図3-10に示す塗付け、ならしは厳禁です。刷毛が塗料上を滑走するような感じで仕上げます。図3-16、3-17に示すように、刷毛先を端部にぶつけず、刷毛を動かします。端部に来たら、飛行機が離陸するぐらいの角度で運行し、力を抜いてください。刷毛の入り方は着陸するように運行します。刷毛で塗装面を1往復させたら終了し、隣の未塗装面に移動してください。ただし、塗り残しが無いように上手く塗り重ねてください。

図3-16 速乾性塗料の刷毛塗りのキーポイント

図3-17 刷毛さばきの注意点-端部と立面

入隅がある場合には、1往復させず、1刷毛で仕上げてください。次に、塗り重ねるのは、塗装面が十分に乾燥してからです。室温が約20-25℃の時、ニスは30分程度で乾燥しますから、また、背板を持って、塗ることができます。不十分な乾燥状態で塗り重ねると、塗られたニスが塗装面を溶かし、ネバネバになって、はけ目が残ったり、毛が抜けて、塗装面にくっつきます。危険を感じたら、1刷毛で仕上げてください。塗りのコツが分かるように、刷毛さばきの注意点を図3-17に示します。

 

刷毛の後始末と保管

刷毛は、図3-18に示すように、ヘラで残りの塗料をていねいに突きだした後、洗い用シンナーで洗い、毛先にくせがつかないように始末してから、使用塗料の刷毛に応じて適切に保管します。(図3-19参照)

図3-18 刷毛の洗い方と新しい刷毛のおろし方

図3-19 刷毛(はけ)の保管方法

刷毛塗り作業は古くから信頼性のある塗装方式です。腕の良い職人ほど道具である刷毛を大切に保管しています。良い塗装するためには手入れの行き届いた道具(工具)が不可欠です。塗料は塗り拡げられることによってせん断力を受け、すき間への入り込みや平坦化(レベリング)が良好になります。

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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