工具の通販モノタロウ スプレーガン・エアーブラシ・塗装機 塗料・塗装の何でも質問講座 スプレーガン-名手への道(2) ガンを使いこなすStep

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-10 スプレーガン-名手への道(2) ガンを使いこなすStep

既報2-5~2-8に示した車の補修塗装で、プラサフ塗装を始め、ボカシ塗り技法を含めたスプレーガンによる塗装技術を紹介しましたが、実際にどのようにやれば良いのか分からないと思います。今回は、ガンを使いこなす技能要素を解説します。ガンによる塗装で次のことができれば合格点です。

(1)高光沢の塗り肌を継続できること
(2)スプレー時のドライミストと塗り残しがないこと
(3)スプレー時の塗り肌観察(目から入る情報)でガン操作のコントロールができること。これをガンさばきとも呼ぶ。

2.エアスプレーガンを使いこなすStep

 

2.1 Step 1-エアスプレー作業の基本動作

スプレー(吹付け)作業の基本動作を次に示します。

(1)図2-72に示すように、塗装できる環境を作る。スプレーガンを被塗面に対して垂直に構え、片方の手はエアホースを保持し、被塗物と接触させないようにする。

塗装できる環境例
図2-72 塗装できる環境例(1)

(2)手先だけでなく、腕及び足腰を含めた身体全体を使ってガンを動かせるように、すなわち、体重移動がスムーズにできるように両足を開く。図2-73に示す○印のように動けることが最低限必要である。

塗装できる環境例
図2-73 スプレー操作の良い例と悪い例(1)
ガンと被塗物との距離、および向き

(3)被塗面の前に立ち、図2-64(b)に示すガンの引き金を1段目で止め(以後、1段引きと呼ぶ)、空気のみを出して、被塗面に当て、小さなゴミを取り除くと同時に、ガン操作をシミュレーションする。

外部混合式エアスプレーガンの構造
図2-64 外部混合式エアスプレーガンの構造 (b)ガンの断面図

(4)シミュレーションの内容は、エアのみを吹付けながら(1段引き)、スプレーガンの先から被塗物までの距離(吹付け距離)を一定に保ち、一定の速さで図2-73に示す○印の動きができるかどうかを確認することである。同時に、ガンを動かしながら塗料の出る2段引きのタイミングを徹底して練習する。

(5)図2-74に示すように、被塗面の外側から1段引きでガンを運行し、Start pointである被塗面の端寸前で2段引きする(塗料噴霧)。被塗面のEnd pointを通過したら、1段引きに切り替える。さらに、このEnd pointがStart pointになり、図示するように往復で塗り進め、被塗面全体を塗る。

スプレー(吹付け)操作-スプレーパターンの塗り重ね
図2-74 スプレー(吹付け)操作-スプレーパターンの塗り重ね(1)

(6)被塗面を2-3回塗りで仕上げる目算で、1回目は下地が透けても構わない位、雲がかかったような状態で薄く塗るが、ドライミストになってはいけない。この様子は、既報2.7 自動車補修工程(3)で述べている。塗装後、指触乾燥になったら、2回目、3回目へと塗り進める。(図2-76参照)

(7)スプレーパターンの塗り重ねは、図2-74に示すように、パターン幅の約1/2になるようにするが、塗り肌の光沢が鈍い場合には、塗り重ねのピッチを1/2よりも多くすると良い。

以上のように、塗料の粘度調整以外の基本動作の主要因は、吹付け距離、ガンの運行速度、および塗り重ねのピッチであり、Key pointはこれらをコントロールして、高光沢の塗り肌を形成させることです。たれる寸前がレベリングのベスト状態ゆえ、たれる寸前の塗り肌面の感覚を練習で培ってください。たれることを恐れて、ベストでない塗り肌状態でスプレー作業を行うと仕上がり外観が劣ります。

 

2.2 Step 2-スプレー作業の基本設定

(1)塗料の粘度を適性範囲に調整することを習慣づけてください。上塗り用クリヤ、エナメルでは11~13秒、プラサフでは14~16秒にします。この秒数はイワタ簡易カップでの塗料の流出に要する時間で、図2-75に示すように計測します。

粘度カップによる塗料粘度の計測
図2-75 粘度カップによる塗料粘度の計測(1)

(2)ガンの調整が正常かどうかを判定するために、被塗面以外の場所に図2-70に示す丸吹きパターンを作って見てください。丸吹きパターンが正常であれば、次に、だ円パターンを作ってください。この確認を必ず行い、異常があれば修正をしてください。。

スプレーパターンの調整とガンの運行方向
図2-70 スプレーパターンの調整とガンの運行方向(1)

(3)被塗物の形状や形態に応じて、空気圧、吐出量、パターン調節ネジを表2-3のように設定します。この表は、アネスト岩田製W-100ガンを使用した時の設定例で、ガンが異なると各調節ネジの設定は異なりますが、一つの目安になります。このような表を作業中、見えるところに貼っておくと良いでしょう。。

調節箇所は沢山あるように見えますが、「吐出量、パターンネジは同じ回転数だけ開け」と覚えておくと便利です。あくまでも目安であり、作業がしやすいように臨機応変に調節しても構いません。入隅のある箱物の内側を塗る時には、表2-3に示すように空気圧を下げてスプレー(吹付け)します。

外部混合式エアスプレーガンの構造
吹付け時のエアスプレーガン装置の調節例(1)

 

2.3 Step 3-吹付け順序

基本的に、ガンを被塗物の長手方向に運行させます。右利きの人を標準にする時、車体のような入隅のない平面を塗る場合には、図2-76に示すように、左から右へ、上から下へとガンを進行させます。次に、入隅のある箱物を塗る場合には、図2-77に示すように、裏から表へ、内側(入隅、立面から平面)から外側へと、塗り進めます。

入隅のない平面の場合の塗り順
図2-76 入隅のない平面の場合の塗り順(1)

入隅のある箱物の塗り順と塗り方例
図2-77 入隅のある箱物の塗り順と塗り方例

噴霧粒子が融着しないと塗装面はドライミスト状態になり、乾燥後、ざらざらとした触感になります。スプレーミストが残らず、塗り残しのない塗装ができるように練習してください。

 

2.4 Step 4-ガンの洗浄と分解(図2-64参照)

ガンの操作を中断する場合には、空気キャップだけを外してシンナー容器に浸漬してください。空気キャップの空気孔が少しでも詰まると正常なスプレーパターンが形成されません。作業終了時には、次のように洗浄します。

(1)残塗料を塗料カップから出し、洗い用シンナーを少し入れてカップ内壁の塗料をハケで洗い落とす。

(2)空気キャップの空気孔をウエスで押さえて、引き金を1段引き以上にして、ぶくぶくさせる。これで洗浄液が塗料通路を巡回する。

(3)この液を廃棄し、塗料カップの付着塗料をウエスで拭き取る。

(4)新たにシンナーを少量入れて(2)と同様にぶくぶくさせ、その後、吐出する。

(5)塗料カップと空気キャップを取り外し、塗料通路と空気孔を洗浄する。

(6)必要に応じ、吐出量調節ネジをゆるめニードル弁と塗料ノズルを取り外し、塗料通路を洗浄する。通常は、(1)~(5)の操作を確実に行ってください。

 

2.5 Step 5-スプレー作業の安全対策

水性塗料も含め、全ての液体塗料は引火性のある有機化合物(有機溶剤)を含みますから、酸欠対策と静電気対策は重要です。

シンナーは有機溶剤の混合物であり、シンナーが揮発することによって、塗料は乾燥します。揮発成分(蒸気)はどんどん上方へ行くと思いこみがちですが、溶剤蒸気は空気よりも重く、床面に滞留します。その結果、空気が追い出されて酸素濃度は低下します。通常の酸素濃度は20.9%程度ですが、16%以下になると意識がなくなり、死に至ります。溶剤蒸気を排気する時、高所から外気を取り入れ、低所へ換気扇を取り付ければ可能ですが、溶剤蒸気は低所に滞留し、引火と爆発の危険性が高まります。そこで、図2-78に示すように、高所へ排気して溶剤蒸気を拡散させます。次に、点火源となる静電気対策について示します。

溶剤蒸気の排気
図2-78 溶剤蒸気の排気(1)

スプレー塗装作業では噴霧粒子が外界の空気と高速で接触することになり、この時に静電気が発生します。ガン本体は金属製ゆえ帯電しませんが、帯電しやすいのは作業者です。発生した静電気を逃がすルートを作ってやることが静電気対策になります。図2-72に示すように、ガンを素手で持つこと、木綿の衣服、通電靴をはくこと、床の水まきは人体の帯電防止に効果的です。塗装の安全作業については、著書(1)にまとめていますので参考にしてください。

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:“ココからはじめる塗装” 、日刊工業新聞社、p.29-30, 79, 84-86, 90-96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.61, 75 (2008)
(3)坪田 実:“目で見てわかる塗装作業” 、日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)
(5)桑田 透:“第58回塗料入門講座テキスト”, p.59, 60 (2017)
(6)樋口徹雄:色材、vol.42、4、p.156 (1969)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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