工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(1)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-3 自動車補修塗装に必要な器工具について(1)

質問(10)

本章に対する著者の考え方については、既報2.1に示す答え(1)で示されていますが、いきなり自動車補修塗装とは、入門者にとって何だか難しい応用問題を与えられたようです。もう少し分かり易く著者の意図を説明してください。

答え(10)

自動車補修塗装は、はけやローラ塗りでは困難であることは分かって貰えますね。塗料を霧にして吹付けるスプレーガンを使用することになります。図2-5に示す塗装方法による分類ではスプレー塗りが3種類もあります。

新車の中塗り、上塗りには静電スプレー塗りが採用されています。需要の多い塗り方をマスターして貰いたいことが理由の一つです。この他、自動車補修塗装に使用する材料にはパテや塗料をはじめほとんどの塗装材料が含まれていること、そしてこれらの材料を使いこなすには、パテ練り・パテ付け・研磨・マスキング・調色・ガンさばき性などあらゆる技能要素が必要です。このように自動車補修塗装を知ることは、塗料と塗装を理解する近道です。

 

質問(11)

それでは、自動車補修塗装作業の進め方について、説明してください。

答え(11)

作業のStep1は、被塗物である車体を塗装できる状態にすることです。図2-11に車体補修のフローチャートを示します。車体の損傷程度により、パーツ交換、板金修正を行い、Step1に到達します。

車体成形と補修塗装のフローチャート
図2-11 車体成形と補修塗装のフローチャート

 

質問(12)

このフローチャートを見ると、パーツ交換、板金修正の有無があります。それぞれについて、具体的な作業を説明してください。

答え(12)

車は沢山の部品からなるアセンブリー製品です。車体も沢山のパネルとバンパーから構成されています。車種毎に交換用パーツが用意されており、プレスラインが大きく損傷していればパーツを取替えます。ボンネットを新規パーツに交換して補修塗装した作業例を図2-12に示します。

パーツ交換による補修塗装例
図2-12 パーツ交換による補修塗装例

 

質問(13)

新規パーツは電着プライマー(下塗り)まで塗装済みだと聞きました。図2-12に示すように、パーツは車体から取り外したままで塗装し、上塗りが終わってから取り付けるのですか?

答え(13)

ボンネットとドアは表・裏の両側塗装とシーリングが必要なため、パーツを単離して作業した方が能率的です。バンパーも単離してやることが多いですが、ケースバイケースで一様ではありません。

フェンダーは車体に取り付けてから作業した方がやりやすいこと、ドアパネルと隣接するため、色の違いを目立たなくするために、図2-13に示すボカシ塗装を行います。ボカシ塗装とはグラデーション技法を駆使した塗り方です。隣接するドアパネルには旧塗色があるから、調色塗料の色が僅かに異なっていてもボカシ塗りによってほぼ同じに見えます。目の錯覚を利用する手法です。

ボカシ塗りの原理とグラデーション技法
図2-13 ボカシ塗りの原理とグラデーション技法(3)

調色塗料の塗膜色は旧塗膜と同じ配合であっても一致しません。それは経時により僅かですが、ビヒクル成分が黄色っぽくなったり、顔料成分も変色するからです。さらに詳しく知りたい方は、著書をご参照ください。(1)

 

質問(14)

次にパーツ交換なし、板金修正なしと言うケースについて説明してください。

答え(14)

釘のような鋭い刃先で傷付けられたような擦り傷が該当します。傷がどこまで到達しているかによって補修の仕方が異なりますから、擦り傷の深さの判定が大切です。ここでは、メタリックカラー仕上げの塗膜の判定方法を図2-14に示します。(1)

擦り傷の深さの判定方法
図2-14 擦り傷の深さの判定方法(1)

傷はクリヤ層で留まっていることが分かりました。

 

質問(15)

この場合、単純にはクリヤを塗替えれば良いことになりますが、図2-15(a)に示すように、部分的に小さく塗ると、旧塗膜のクリヤ層とで段差を生じることになります。このような時には、どうしたら良いでしょうか。

補修塗装の範囲
図2-15 補修塗装の範囲

答え(15)

傷の大きさでクリヤ塗装の範囲を決めます。一般に補修する塗装の範囲として、図2-15に示すように、(a)スポット、(b)ブロック(パーツ1枚を塗る)か、(c)全塗装の3種類があります。図2-14に示す傷は小さな面積ですが、長さはドアパネルの1/3以上ありますから、ブロック塗装を選択します。

図2-16に示すように、傷の付いていない箇所もクリヤの表面層を水研ぎし、つやが無くなるところまで研磨します。

擦り傷の補修塗装-クリヤのブロック塗装の場合
図2-16 擦り傷の補修塗装-クリヤのブロック塗装の場合(1)

 

質問(16)

クリヤをスポット塗装する場合には、ボカシ塗りで仕上げますか。

答え(16)

そうです。ボカシ塗装を行います。スプレー塗りのテクニックは別途、解説します。

 

質問(17)

最後に、板金修正で図2-11に示すStep1に到達する手法について説明してください。まず、どんな損傷が該当しますか。

答え(17)

損傷は図2-17に示す小さいものから大きいものまで多種多様です。損傷の程度を知るために触診が大切です。素手だと滑りが良くないので、布製の手袋、あるいは軍手をして触診してください。

小さい凹みの例
図2-17 小さい凹みの例
(1)パネルの正常部が基準面になります
(2)損傷部は基準面に対して、高いか低いかを見極めてください。

図2-17のように、単純に凹んでいるだけの場合と、図2-18のように凹んだために他の箇所が盛り上がっている場合があります。(2)

板金修正-凹みの引出し方
図2-18 板金修正-凹みの引出し方(1)

板金修正をしなくても、擦り傷が素地まで達していたり、凹みがあれば、パテによる整形作業が必要です。そのため、旧塗膜をはがして鋼板素地まで露出させ、図2-19に示す緩やかな傾斜を有する断面に成形します。(2)

メタリック仕上げ塗装面のフェザーエッジの例
図2-19 メタリック仕上げ塗装面のフェザーエッジの例(2)

この断面は鳥の羽形状に似ているのでフェザーエッジと呼びます。小さな損傷であってもフェザーエッジを形成させるためには、損傷部面積の5倍以上大きく塗膜をはがします。

 

質問(18)

パネルは袋構造になっているため, 凹んだ部分にワッシャを溶接して、これを引っ張り出すと聞きました。実際にはどのように行うのですか。

答え(18)

実際の作業を図2-18に示します。

 

質問(19)

フェンダー部の板金修正をハンマーと打ち型のような金属塊で叩いている作業を見た事があります。作業の基本形を教えてください。

答え(19)

打痕部の鋼板をプレスラインに合わせ、図2-20に示すように叩きます。強く叩くと鋼板が延びるので注意してください。基準面より凸部があってはパテ修正をできないので、裏に当て盤(ドリー)を当て、ハンマーで叩きます。

板金修正-打痕部の成形作業
図2-20 板金修正-打痕部の成形作業(3)

ハンマー類やスプーンなどの主要な手工具を図2-21に示します。(3)

板金修正工具の例
図2-21 板金修正工具の例(3)

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:”ココからはじめる塗装“, 日刊工業新聞社, p.79, 94, 95, 96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.75, (2008)
(3)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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