工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 噴霧法 静電気と静電塗装

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-10 噴霧法 静電気と静電塗装

スプレーガンによる微粒化の原理とガンの使い方に付いては、第2章 2.9と2.10スプレーガン名手への道で解説しました。本節では、噴霧塗装に静電気を利用すると、塗着効率が2倍以上も増大すると言う話を紹介します。現在の工業塗装(部品や製品の塗装)は、液体、粉体塗料を使用した静電塗装が主流です。

1.静電気と静電塗装

電気と聞くと、電化生活をしている割に知らないことが多く、私自身は感電したら怖いなと思う程度のレベルしかありません。スペースが限られているので、(1)なぜ静電気が発生するのか、(2)静電気の種類、(3)高電圧の雷を説明してから、静電スプレーの話へと展開します。

(1)静電気を実感するのは、金属製のドアノブを触った時に受ける電撃です。
これは1万ボルト以上の高電圧が一瞬のうちに放出される現象です。ダムの水が放出される現象を思い浮かべてください。まず、電気の元は電荷です。電圧とは、電荷を移動させる駆動力で、電荷量に比例します。電荷の移動速度が電流です。一瞬のうちに無くなった電荷は何処で発生し、貯蔵されていたのでしょうか。風の強い、湿度の低い春先に電撃を良く経験しますよね。それは人体が風(空気)と接触して、摩擦帯電が起きるからです。

(2)物質の最小単位である原子から、電荷の説明をします。原子は正の電荷を持った原子核と原子核の外側を飛び交っている電子(負の電荷を持つ)からなり、電気的に中性(電荷量は0)です。電子は意外に浮気性で、ほとんど相手を構わず、外れたりくっついたりします。その例が摩擦による電子の移動、すなわち、摩擦帯電です。ナイロンを木綿ガーゼでこすると、ナイロン表面は正電荷、木綿は負電荷になります。電気抵抗値はナイロン>木綿であり、摩擦帯電で木綿に沢山の電荷が発生しますが、素早く逃げてしまい、電荷量は0近くになってしまいます。一方、摩擦帯電でテフロンは負に帯電します。木綿を基準にすると、図3.37に示すような帯電列ができます。誤解しやすいのは、摩擦帯電で電気抵抗値の低い木綿が全く帯電しないように見えることです。帯電はするが、電荷を逃がす能力が大きいためだと理解してください。この理論で、塗料製造や塗装作業では、なぜ木綿の作業服を推奨するのかを判って頂けると思います。合成繊維(ナイロンやポリエステルなど)の衣類は電荷を溜めて、すなわち帯電して、電撃火花を発生させる危険がありますが、木綿の衣類と通電靴の着用は静電気を逃がすことができ、安全です。静電塗装の大敵は火災です。(モノタロウカタログ参照)

摩擦帯電と帯電列

 

(3)夏に見られる落雷とは、図3.38に示すように積乱雲の中で発生した静電気が数万ボルトに達し、地表に向かって放電される現象です。実は、静電塗装も雷と同じ原理を利用します。スプレーガンの先端にある電極ピンを負極にし、ターゲットの導体をアースすると、静電感応現象で導体は正極になります。先端ピンに直流電源から高電圧を印加するとコロナ放電が始まり、静電界が形成されます。この空間にある空気はイオン化され、負電荷になります。この静電界に空気霧化した塗料粒子を放出すると、図3.39(a)に示すように負電荷の空気イオンと一体になり、静電引力(クーロン力)が作用して、ターゲットの被塗物に向かって飛行し、塗着します。この時、塗料の電気抵抗値が低いと、粒子の電荷をアースに素早く逃がすことになります。塗着塗料の電荷が無くなると、その上に塗られる塗料粒子は電荷の反発が無いから、クーロン力が作用する範囲であれば塗着でき、塗着効率は向上します。でも、電気抵抗値が低すぎると、どうなるでしょうか?次回は、静電塗装の作業性に及ぼす塗料の電気抵抗値の影響についてまとめます。なお、静電気と塗料・塗装について知りたい方は、著者の文献13)を参照してください。この中でも述べていますが、静電気を利用すると、図3.39(b)に見られる噴霧粒子のハネ返りが減って、被塗物の裏側に塗着するつき回り性が向上します。その結果、静電気効果で、塗着効率は2倍以上になります。

雷の発生

スプレー塗装における静電気の効果

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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