工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 塗装時に白化する現象とその解析 (2) 結露の防止

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第1章 塗料・塗膜の白化現象

1-5 塗装時に白化する現象とその解析(2) 結露の防止

質問(11)

結露とは空気中から水分が抽出される現象だと理解しました。部屋の空気を取込み、冷やして水蒸気を水にして湿度を低下させる除湿器の原理と同じですね。

答え(11)

そうです、加圧空気を使う現場では空気中に含まれる水分をできるだけ少なくしたいので、エアコンプレッサーで圧縮した空気を冷やして水分を取った後、暖めてから給気します。このように、給気装置は冷却器とヒーターがセットになっています。

話は変わりますが、わが国の平均湿度は約70%(富山県が最高で79%、沖縄県は平均値に近く71%、最低は東京都の60%)です。水性塗料の乾燥には50%程度の低湿度の方が良いので、水性塗料用のブースにも冷却器とヒーターがセットになっている給気装置が付いています。

 

質問(12)

結露と白化の問題に戻って、もう少し質問をさせてください。図1-14に示すように白化した塗膜を触ったら、指先に白い粉が付いてきて、いかにも、脆くなっていました。塗膜はどのような構造になっていますか。

答え(12)

エアスプレー塗装中に白化した硝化綿(ニトロセルロース、NCと略す)ラッカー塗膜を電子顕微鏡(SEM)観察した結果を図1-18に示します。制御されたような数μm程度の微少な穴が全面に見られ、まるでフィルターのようです。(3)良く見ると深さ(膜厚)方向にも穴が存在していることが分かりました。SEM観察から、白化塗膜が形成する過程は図1-19のように推定できます。

白化塗膜の電子顕微鏡観察

図1-18 白化塗膜の電子顕微鏡観察(3)  (3)吉田豊彦、武井昇他:塗装工学、Vol.21、No.10 巻頭写真 (1986)

白化塗膜の構造から推定した塗膜形成過程

図1-19 白化塗膜の構造から推定した塗膜形成過程(4)  (4)坪田実:塗装技術、理工出版社、2007年12月号、p.122 (2007)

エアスプレー塗装では同じ場所を複数回、塗り重ねます。
【1】最初に吹き付けられた塗装面に結露した水滴が付着し、
【2】この水滴の上にまた塗料が吹き付けられます。水の上には塗料はよく濡れ拡がります。
【3】この塗面には、また水滴が付きます。
【4】このように、数層にわたって水滴が付き、SEM観察で見られたように膜厚方向に穴が形成されたと考えられます。
穴の形成は、乾燥過程で水が蒸発したことによると考えられます。空孔が残ると、空気の屈折率は1.0ですから、塗膜との屈折率差が大きくなるためより白く見えます。塗装中に水が塗装面に凝縮すると、樹脂成分が析出し、粉状になります。その結果、乾燥後の塗膜は光沢もなく脆弱です。

 

質問(13)

白化の原因は結露だと分かりましたから、結露防止対策について教えてください。

答え(13)

結露防止の原理は単純です。図1-20に示すように、塗装面を結露する温度以上に保てば良いのです。結露しないように塗装室の気温を上げるのは有効ですが、夏場では作業者は苦しくなります。かといって、塗装している場所だけ暖めるのも安全上、勧められません。 見方を変えて、塗料側から提案できることは、シンナーの揮発速度を小さくして、気化熱による温度低下を小さくすることです。

図1-20 結露の防止対策

図1-20 結露の防止対策

塗料メーカはリターダーシンナーと言う名称の揮発の遅いシンナーを出しています。リターダーとは抑制剤(Retarder)という意味です。シンナーとは、有機溶剤の混合物で、塗料用樹脂の溶解力を考慮しながら、揮発速度を制御することができます。 例えば、ブチルアルコールやシクロヘキサノンを通常のシンナーに対して10%程度、混合すればリターダーシンナーになります。 ブチルアルコールは水とある程度溶解するので、結露水を溶解させる役目もしますが、アルコールは2液型ポリウレタン塗料には禁物です。その理由は別途、説明します。塗料メーカは冬場には、揮発の速いシンナーを準備しており、使用塗料に専用のシンナーをラインアップしています。使用に際しては、図1-21に示すような条件で選択してください。

図1-21 シンナーによる結露の防止対策

図1-21 シンナーによる結露の防止対策

 

質問(14)

スプレー作業で最初のうちは白化していなかったのですが、途中から急に雨が降って、環境湿度の上昇で白化を生じたことがありました。白化した塗装面にリターダーシンナーで希釈した低粘度の塗料を吹き付けたところ、通常の塗装肌に復帰しました。このような塗膜は性能的に大丈夫でしょうか。

答え(14)

塗装作業では時には遭遇するかも知れません。厳しく言えば、性能的には劣ります。水分で析出した樹脂成分が上塗りの溶剤で溶解したように見えても、ミクロ的に見ると微小なボイド(空孔)を含みます。問題が出るのは、耐水性や防食性の低下ですから、塗膜の白化を軽視してはいけません。

〔引用・参考文献〕
(3)吉田豊彦、武井昇他:塗装工学, Vol.21, No.10 巻頭写真 (1986)
(4)坪田実:塗装技術, 理工出版社, 2007年12月号, p.122 (2007)
執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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