工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 水性塗料の白化現象とその対策

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第1章 塗料・塗膜の白化現象

1-6 水性塗料の白化現象とその対策

木工用の水性ボンドは身の回りの接着剤としてよく使用されています。モノタロウのH.P.から商品検索をする時、“水性ボンド”と入れるといろいろな商品が出て来ます。これら接着剤の説明内容は次のように書かれています。

(1)水性で使いやすく人に対して安全性が高い。(2)手や服についても乾く前なら水で洗い落とせます。(3)液体の時は乳白色、固まる過程で、白色半透明から、ほぼ透明になります。 (4)接着対象物には木・紙・布・皮・壁紙・壁クロス・発泡スチロール同士あるいは、片面が多孔質材であれば、塩ビ・金属にも接着可。(5)接着剤の樹脂成分として、酢酸ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル樹脂系が水性エマルションになっています。

この中から、白化現象の理解を深めるためにいくつか質問をさせてください。

質問(15)

乳白色の液体が乾燥して固体になった時、ほぼ透明になるという表現に興味が涌きます。液体から固体になる時、どんな状態になるのかを教えてください。

答え(15)

上記説明(5)の中に水性エマルションと言う用語が出て来ますね。第2回の図1-7に水性透明塗料の外観を示し、エマルションとコロイダルディスパージョンは樹脂成分であるポリマーが水中で粒子として分散していると説明しました。 エマルションが白いのは粒子径の大きさに関係しており、可視光線の多くが屈折率の異なる水/ポリマー粒子界面で散乱するためであると述べました。

乳白色の接着剤はポリマー粒子の集合体であり、これら粒子が塗布された後、どのような状態変化をするかを想像してください。

つきたての餅を図1-22(a)に示すように並べておくと、重力の作用で隣接する餅同士がくっつき合います。 図(b)に示すように、ポリマー粒子同士がくっつき合う(融着と呼ぶ)と、屈折率の異なる界面が激減し、透明部分が増えて行きます。乾燥後にほぼ透明と表現されているのは、粒子が完全に一体化することができないことを意味しています。質問の回答として、図1-22を提示します。

  • (a)つきたての餅
  • (a)つきたての餅
  • (b)ポリマー粒子の融着過程
  • (b)ポリマー粒子の融着過程

図1-22 水性エマルション塗料の塗膜形成


質問(16)

乳白色の液体は、何故、安全性が高いと言えるのですか。また、乾く前なら水で洗い落とせますが、乾いてしまうと水に不溶となるのは何故ですか。

答え(16)

安全性は有機溶剤を含むかどうかで判断しています。水性ボンドと同様な水性エマルション塗料に含まれる有機溶剤は限りなく0に近いのですが、凍結防止や融着しやすいようにと数%程度の有機溶剤が添加されることがあります。 カタログにある速乾タイプのボンドの設計にはどのような技術が採用されているかわかりませんが、Tgの高いポリマーを使用して、粒子同士の融着を進行しやすくすれば速乾性になります。 2-エチルヘキシルアルコールのように分子量の高いアルコールを外部添加すれば、図1-23に示すようにポリマー粒子に侵入し、表面層を可塑化します。このアルコールは水にほとんど溶解しないからです。

図1-23 エマルション塗料を速乾性にする一方法

図1-23 エマルション塗料を速乾性にする一方法

有機溶剤はVOC(揮発性有機化合物)の典型物質であり、VOCを大幅に削減した塗料は環境対応型と呼ばれています。もちろん、ここで取り上げている水性エマルションも環境対応型塗料の1種です。 第2章では、水性塗料も含めた環境対応型塗料の種類と特徴について解説します。 次に、乾くと水に不溶となることについて説明します。水性ボンドに使用されている樹脂は、酢酸ビニル樹脂系がほとんどです。 水性エマルション塗料ではエポキシ、ポリウレタン、ポリエステル樹脂など、用途に応じて多種類の樹脂が使用されています。 これらの樹脂の原料は原油ですから、水と油の仲と言われるように、仲良くありません。水が揮発してポリマー粒子同士が融着すると、水に不溶の被膜になります。(図1-22参照)

質問(17)

すべてのポリマーは水に対して不溶なのですか。水溶性樹脂という用語を聞いたことがあります。

答え(17)

表現が悪くて済みません。樹脂の原料が原油であっても、水溶性に変えることはできます。水分子と相性の良い水酸基(OH基)を沢山持つポリマー (例えば、ポリビニルアルコール)にするか、樹脂の一部が電解質を含む水中でイオンになれば水に溶かすことができます。よって、ポリマーは本質的には水に不溶ですが、水溶性に改質できます。

質問(18)

図1-24(a)に示すように、アクリルエマルションクリヤ(透明)を塗装し、常温で1日乾燥後に水を滴下したところ、白化しました。この原因と対策について教えてください。

  • (a)塗装後の水滴下実験
  • (a)塗装後の水滴下実験
  • (b)白化機構
  • (b)白化機構

図1-24 エマルションクリヤ塗膜の白化現象 (5)

答え(18)

これはエマルション塗料の弱点で、塗膜の耐水性は溶剤型塗膜に比べて劣ります。粒子同士の融着点の隙間に親水性物質が凝縮したり、膜中にある親水性基が外部の水を吸い寄せ、その部分の屈折率が変わる事で白く見えると考えられます。図1-24(b)に示すような吸水ポケットができたと考えると良いでしょう。 対策として、親水性官能基を疎水基に変身させることが有効です。図1-25に示すように、架橋剤を使用して、ポリマーの親水性官能基や乳化剤(界面活性剤)とも化学反応させたりして、疎水性の橋かけ点に変身させれば白化を防げます。

図1-25 エマルション塗膜の白化防止策の一例

図1-25 エマルション塗膜の白化防止策の一例

〔引用・参考文献〕(文献番号は第1回からの通しです)
(5)石毛 和夫:第46回塗料入門講座テキスト p143-152 (2005)
執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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