塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-2 液膜転写法

塗装方法を大別すると、図3-4に示すように、塗料を直接、被塗物に移行する直接法と、微粒子の霧にして移行する噴霧法になります。直接法の典型例は浸せき塗りとしごき塗り3)になりますが、噴霧法と同様に高速塗装は困難です。ロールコーターとカーテンフローコーターの塗布原理は均一な膜厚を有する液膜を形成し、これを被塗物に転写する方式で、著者は液膜転写法と呼んでいます。両者の塗装方式をわかりやすく説明します。3)

図3-4

 

〈1〉ロールコーター2)

図3-5に示すように、ナチュラル形とリバース形の2種類があります。ピックアップロールで塗料を均一に巻き上げ、膜厚調整の役目をするドクターロールに移送され、均一な厚みの液膜状態を保ったままコーティングロールに移動し、このロールから被塗物に転写されます。ナチュラル形はコーティングロールと被塗物の移動方向が同じであり、リバース形のそれは逆です。リバース形はロール目が付きにくく、均一な膜厚が得られることを理解してください。リバースコーターはヘラ付けする時に、ヘラと被塗物が反対方向に動いていると考えればよいのです。一方、ナチュラルコーターはドクターロールで均一化した液膜の断面をコーティングロールで引き裂くように、被塗物に塗料を押し拡げてゆきます。そのため、リバース形に比べるとロール目が残りやすく、膜厚の調整も難しくなります。

 

図3-5

〈2〉カーテンフローコーター2)

装置の原理図を図3-6に示します。塗料をポンプでヘッドへ吸い上げ、均一な隙間(スリット)から押し流すと、まるでカーテンのような液膜ができるので、この名前が付いたのでしょう。一定速度で動くコンベアに乗せた被塗物がカーテン液膜を通過すると、塗料が塗られることになります。カーテンの厚さが均一ならば、塗布膜厚は均一になります。作業効率が良く、合板、スレート板など平板の連続塗装に適します。

この方式の欠点は
〔1〕曲面を有する被塗物には塗れない部分が生じること
〔2〕薄く塗れないこと
です。塗料を流すスリット幅を0.4mm以下にするとカーテンが切れやすく、最低でも0.5~0.6mm程度にします。塗付膜厚は被塗物の移動速度(コンベア速度)に依存し、流速が0.5m/sで、コンベア速度が2.5m/sであれば、塗付膜厚はスリット幅の1/5となります。

図3-6

 

以上に示した2種類の液膜転写法の欠点は、被塗物が平板のみに制限されることです。ロールコーターについては、コーティングロールと被塗物側を工夫することで曲面塗装も可能になっています。

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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