工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料をより深く理解するために 5-4塗料用樹脂のはなし(1)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-4 塗料用樹脂のはなし(1)

公開日:2024年4月17日 | 最終更新日:2024年4月18日

3.エポキシ樹脂

3.1 エポキシ樹脂の特徴

  著者が感銘を受けた樹脂の教書は北岡協三氏の著書5)である。恐れ多いことであるが、エポキシ樹脂の成り立ち部分を一部、引用させて頂く。エポキシ樹脂とは個々の分子中に2個以上のエポキシ基を持つ樹脂状の物または樹脂を作る化合物である。最も一般的なエポキシ樹脂を図5-24に示す。

図5-24 エポキシ樹脂の代表例
図5-24 エポキシ樹脂の代表例

図5-25 エポキシ樹脂の原料(出発点)
図5-25 エポキシ樹脂の原料(出発点)

  樹脂の成り立ちは図5-25に示すビスフェノールAをアルカリの存在下で大過剰のエピクロルヒドリンと反応させてできるビスフェノールAジグリシジルエーテルが出発点である。これは図5-24のn=0に該当する粘稠な液状樹脂である。エピクロルヒドリン2モルに対してビスフェノールAのモル数を増大させるに伴い図5-24中のnが増大し、表5-3に示すように樹脂の分子量が増える。n=2以上になると、常温で固形の樹脂が得られる。固形樹脂ができると言っても粉砕-造粒だけで、粉体塗料になるわけではない。粉体塗料にするには顔料、硬化剤、添加剤などをエポキシ樹脂に練合しなければならない。液体塗料にするときには固形樹脂を粉砕し、キシレン、ケトン、n-ブタノールの混合溶媒に溶解させ、樹脂溶液にする。

表5-3 エポキシ樹脂の分子量増大とその表し方

表5-3 エポキシ樹脂の分子量増大とその表し方

エポキシ樹脂の化学構造の特徴を列記すると、次のようになる。

  • (1)分子鎖の両末端にエポキシ基を有すること。
  • (2)表5-3に示すエポキシ樹脂の概観から推定できるように、nの増大に伴いベンゼン環とエーテル結合(-C-O-C-)が増えること。
  • (3)ベンゼン環が多くなると、樹脂の骨格は硬くなるが、エーテル結合(-C-O-C-)は酸素Oを支点にして分子鎖を回転させることができるので剛直な割にはたわみ性がある。
  • (4)エポキシ基の酸素に電子が偏り、電荷が不安定な(窮屈な)状態で結合しているため、反応性が高い。極性基の活性水素(共有結合が切れやすい状態の原子状水素)に出会うと、図-26に示すように化学反応が進行し、エポキシ基は-OHに変身する。-OHは水素結合性官能基として作用するから、エポキシ樹脂は付着性、接着性が高いと言われる所以である。
図5-26 エポキシ基と活性水素との反応例
図5-26 エポキシ基と活性水素との反応例
図5-27 クッキータイプ塗料の硬化(塗膜形成)(ジャングルジムの目の粗さをMcで比較)
図5-27 クッキータイプ塗料の硬化(塗膜形成)
(ジャングルジムの目の粗さをMcで比較)

3.2 エポキシ樹脂塗料の種類

  一口にエポキシ樹脂塗料と言っても、以下、A~Cに示すいろいろなタイプの塗料があるから、まず希望品を特定することが大切である。

  A.一番多い用途を有する2液タイプの塗料である。主用途は、金属用のプライマー(下塗り)であり、接着剤と同様に、主剤と硬化剤の2液に分けて保管し、使用時に混合するタイプである。2液に分けて保管するのは、室温で主剤と硬化剤が化学反応するためである。図5-27に示すジャングルジムを形成させるためには、パイプと金具の数が合っていること、さらには化学反応に必要な硬化条件(主として、温度)を設定しなければいけない。ジャングルジムの網目は橋かけの緻密さを表し、橋かけ間分子量、あるいは架橋間分子量(Mc)の大小で、その緻密さを比較する。一般に、2液型塗料の硬化反応は室温では十分に進まないから、80℃/3時間以上の強制乾燥か、120℃/30分程度で焼付ける。主剤はエポキシ樹脂で、硬化剤にはアミン化合物か、変性ポリアミド樹脂が使用される。両者の配合と硬化塗膜の物性については、次回に詳しく述べる。

  B.焼付け塗料には、メラミン樹脂、またはフェノール樹脂をブレンドしたエポキシ樹脂塗料があり、後者は180℃以上で焼き付けられる。エポキシフェノール樹脂塗料と呼ばれ、古くから、食缶の内面コートに採用されてきた。

  C.エポキシ樹脂を不飽和脂肪酸(例えば、リノレイン酸)で変性したエポキシエステル樹脂塗料であり、概要を図5-28に示す。この塗料の特徴は1液型として使用できることである。現場での塗装作業性は良いから、船舶用、鋼管用プライマーとして有用である。欠点は乾燥硬化に時間を要することである。同様な重防食用途にコールタールをブレンドしたタールエポキシ樹脂塗料があるが、エポキシエステル樹脂塗料ではない。ポリアミンを硬化剤に使用するAタイプの2液型塗料である。

  エポキシ樹脂の骨格は硬いから、主鎖に-C-C-からなる数珠玉のような脂肪酸を化学結合させる事で硬化塗膜の強度にバリエーションを持たせることができる。まず、エポキシ樹脂として、表5-3のS, M, Lのどれを選択するか、次にどの程度、脂肪酸を付加するか(-OHを残すか)と言う分子設計は塗膜強度に反映するから面白い。

  エポキシエステル樹脂塗料の硬化は脂肪酸の2重結合(-C=C-)と空気中の酸素O=Oが-C-O-C-、あるいは-C-O-O-C-なる結合を作って橋かけする。この酸化重合反応により分子量が増大し、乾燥するのであるが、その速度は遅く、ドライヤーと呼ばれる金属脂肪酸塩(ナフテン酸、あるいはオクテン酸Zr, Mn, Coなど)が重合触媒として添加される。4章で説明した油変性アルキド樹脂の硬化と同様である。

図5-28 エポキシエステル樹脂のモデル図
図5-28 エポキシエステル樹脂のモデル図
執筆: 元川上塗料株式会社 社外取締役 坪田 実

〔参考文献〕
1)J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3)中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4)平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5)北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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