工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 自動車補修塗装工程について(4)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-8 自動車補修塗装工程について(4)

前回は、上塗りのブロック塗りとスポット塗りについて説明しました。ほとんどの場合、上塗りにはクリヤが塗装されます。今回はクリヤ塗膜のみならず、塗装面のみがき作業について、その概要を説明します。

質問(44)

みがき作業とはどのような作業なのかを教えてください。新車でもクリヤ塗装後にみがき作業を行いますか。

答え(44)

まず、みがき作業とは図2-56に示すように微粒子コンパウンド(微粒子の研磨剤をワックス中に分散させたペースト状のもの)をバフに付けて、ポリッシャーで円弧運動を与えて塗装面を磨く作業です。(1)

みがき(Polishing)作業とは
図2-56 みがき(Polishing)作業とは(3)

新車では行いません。塗膜を研磨すると、細かな傷が入るので光が拡散反射して白くなりますが、コンパウンドでの傷は微小なため、より光沢が出ます。塗膜を微細に削ることで塗装面の凹凸形態のピッチを細かくしてゆくからです。作業性を良くするために、一般に微粒子コンパウンドを2種類採用します。

モノタロウの商品検索で鈑金・塗装>研磨>コンパウンドに行くと、各種コンパウンドが出て来ます。その一例を図2-57に示します。これらはチューブ入り(270g)のもので、最初にハード・1と書かれた極細目を使用し、次にスポンジバフに替えてハード・2と書かれた超微粒子を使います。塗膜を摩耗させる能力はハード・1の方が高くなっています。

みがき(Polishing)作業に必要な材料と器工具類
図2-57 みがき(Polishing)作業に必要な材料と器工具類

塗装面の肌が粗い場合にはP2000の耐水研磨紙で水研ぎし、その後、ハード・1、2のような2種類のコンパウンドで仕上げます。この手順で仕上げた車のボンネット塗装面の肌の違いを図2-58に示す写像鮮映性で比べてください。スプレーガンの塗装面に映る樹木は鮮明ではありませんが、コンパウンドで仕上げた面には、鮮明に映っています。

塗装面の鮮映性に及ぼすみがき(Polishing)作業の有無
図2-58 塗装面の鮮映性に及ぼすみがき(Polishing)作業の有無

 

質問(45)

みがき作業の話を聞いていると、漆塗りの最終工程であるみがきを連想します。漆のみがき作業はどのように行われるのですか。

答え(45)

みがきのルーツは漆塗りにあります。基本は同じです。刷毛目のような大きな凹凸は研磨で取り除き、平滑面にします。平滑面を磨くための手順を基本工程から抜粋して表2-2に示します。(4)

漆塗りの基本工程から抜粋した研磨・磨き工程
表2-2 漆塗りの基本工程から抜粋した研磨・磨き工程

砥の粉やチタン白、角粉(鹿の角を粉砕した粉)を研磨材とし、種油(たねあぶら)と呼ばれるなたね油と混練して用います。みがきに使用する油は不乾性油で、台所にあるサフラワー油やサラダ油でも構いません。研磨剤は硬くて丸い粒状なので漆膜のみがきに適します。

前述の図2-57に示す微粒子コンパウンドは漆のみがき材を真似て作ったものですが、使い勝手はコンパウンドの方が優れています。油を使用すると漆膜に良く濡れる反面、拭き取りが難しくなりますが、コンパウンドでは脱脂剤で簡単に拭き取れます。

漆のみがきで一目置くことは、みがき工程の後に、摺漆(すりうるし)なる工程があることです。凹凸面はみがき回数に伴いピッチが細かくなり、凹部にテレピン油で希釈した生漆(きうるし)をすり込むことで、より平滑になると同時に肉持ち感が付与されます。漆器は経時でも肉持ち感が保持できるのは、このような繊細な作業が積み重なっているからだと言えます。

 

質問(46)

みがきとは平滑面を作るつや出し作業だと理解できます。車補修塗装におけるみがき作業の目的は単なるつや出しだけでは無いと思いますが、この点については如何ですか。

答え(46)

車体補修では旧塗膜と補修塗膜の肌を合わせることが大切です。肌を合わせるとは、蛍光灯の写像の鮮明さがほぼ同じになることだと思ってください。一般に、図2-58に示す違いのように、補修塗装のガン肌の方が旧塗膜のそれよりも粗いことが多く、みがき作業が必要になります。塗装面の凹凸ピッチ合わせの他に、もう一つ大切な役目があります。それは、“ぶつ”対策です。

補修塗りでは、新車塗りの塗装環境に比べて劣るので、ぶつが生じ易くなります。ぶつ取り作業の様子を図2-59に示します。ぶつ取り後のつや出しにもみがき作業を行います。ポリッシャーには電動とエアタイプがあります。ポリッシャーの使い方については図2-56を見てください。

ぶつ除去、修復作業
図2-59 ぶつ除去、修復作業

 

質問(47)

ぶつは上塗り塗膜だけに入るのではなく、プラサフ面にも入ります。その時にも、ポリッシャーを使用するのですか。

答え(47)

プラサフ面にはポリッシャーを使用しません。各塗装工程で発生したぶつはその段階で除かねばなりません。プラサフ工程ならば、前述したようにP800程度の耐水研磨紙、あるいはぶつ取りキットを使用して除去してください。

上塗りベース塗膜については、図2-59と同様に、P1500、2000で水研ぎしてください。浅い傷であれば、バフにコンパウンドを付けてポリッシャー、または手で磨いてください。プラサフ面が見える深い傷ができた場合には、上塗りベースをスポット塗りし、修正してください。クリヤ塗装後に上塗りベースのぶつを除去することは困難です。

 

質問(48)

ぶつではなく、たれたときの処置について教えてください。

答え(48)

たらした時には慌てずに乾燥・硬化するまで待ってから処置します。作業の様子を図2-60に示します。

たれた塗装面の修復方法
図2-60 たれた塗装面の修復方法

 

 

以上、6回に渡って自動車補修塗装について解説してきました。本章のタイトルは「塗料と塗装のことはじめ」であり、目的に合う塗装をするためには、どのような準備が必要か、実際にどのように作業するかについて説明してきました。ことはじめゆえ、写真を多用して、分かり易く説明してきたつもりです。

次回からは、数回に渡り、補修塗装で使用したスプレーガンを取り上げ、ガンの基礎知識とガン使いの名手になるためのテクニックを説明します。

 

執筆: 執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:”ココからはじめる塗装“, 日刊工業新聞社, p.79, 94, 95, 96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.75, (2008)
(3)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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