工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料の変遷 (その3)鎌倉~戦国・南蛮貿易~江戸時代

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第4章 塗料のルーツと変遷

4-5 鎌倉~戦国・南蛮貿易~江戸時代

さて、今回も表4-2の続きになりますが、戦国時代から江戸時代における塗料の変遷を追って行きます。戦国時代には出土品や文化財がほとんどなく、歴史的事実だけから塗料・塗装の変遷を探ることになります。仏教伝来後、漆は仏像や寺院建築に使用され発展して行くと同時に、戦国大名の武具にも塗られていたようです。庶民の生活レベルでは、ニカワ(膠)、柿渋が塗料のバインダー(ビヒクル成分)として、使用されていたようです。

表4-2

いきなり現代に飛びますが、日本では、戦国時代の大河ドラマは人気があり、2020年には「麒麟がくる」で京都の街並みがよく描かれています。テレビの映像を見たり、亀岡市に開設されたに大河ドラマ館を見学しましたが、武家や庶民の生活に塗料がどのように関わっていたかを知ることは難しいことです。もし、“明智光秀”に興味があって福知山方面にお出かけの節には、本章4.1で紹介したNPO法人丹波漆(京都府福知山市)を訪問されたら、植栽漆の実際を見学できると思います。(https://www.tanbaurushi.org/)

戦国時代を代表する武将“織田信長”は鉄砲の導入を積極的に進めるため南蛮貿易(スペイン・ポルトガル)を推進し、黒色火薬の原料である硝石(硝酸ナトリウム)を手に入れました。これを契機にヨーロッパ諸国との交流が始まり、江戸時代の初期1609年には長崎県平戸にオランダ商館が開設され、表4-2に示すように洋式ペイント(油性塗料)や顔料などが輸入されました。なぜ、洋式ペイント類を輸入したのか?と考えると、日本には油性塗料が無かったためと思われます。飛鳥時代には、図4-3に示すように密陀絵に油性エナメルを使用したが、特殊用途であり、住居の内装や外装用には使用されていなかったようです。それでは、油性塗料はなぜ市民権を持てなかったのか?

乾性油(桐油やエゴマ油)を原料とする油性塗料の塗装外観(光沢や塗膜の肌合い)が木材を中心とする建築物や調度品に調和しなかった(わびさびの文化と合わない)ためと考えられます。日本へ油性塗料を持ち込んだヨーロッパは石造りがベースの文化であり、絵画はフレスコ画から油絵にスムーズに移行しています。油絵の具が出回るようになると、油性塗料も一気に開花したと思われます。

江戸時代の日本の絵画は浮世絵であり、油絵を受け入れる文化とは異なっていました。建築物についても、 “いきな黒塀”が好まれたように、柿渋(渋柿から採取した油)と掃墨(松煙墨・油煙墨)を混ぜた塗料が主流でした。木材の美粧と防虫、防腐効果を有していたことから、有用な塗料になったようです。色彩的にはもっと鮮やかにと言う要望で、赤銅色のベンガラ顔料を充てんした柿渋塗料が京都の町屋はじめ多くの町並み(格子状の窓や壁)に塗られました。“ベンガラ格子” と言われるもので、京都には現存しています。ベンガラの産地である岡山県高梁市の吹屋(ふきや)地区にも、ベンガラ色で統一された見事な町並みが文化財として保存されています。このように江戸時代には、柿渋塗料が全盛で、塗り職人は渋職人と呼ばれ、渋塗りは塗装の代名詞になっていたようです。黒塀ではないが、黒とベンガラ格子を組み合わせた吹屋(ふきや)地区にある街並みをWEBにアップされている岡山旅行記でご覧ください。10)

人間は好奇心が旺盛ですから油性塗料の使用経験者は結構いたと思われます。この塗料は塗りやすく、塗膜は光沢があり、耐水性に優れていることを知っていたので、生活用具である合羽、番傘、提灯や紙など、あるいは鉄器や鋳造品に塗られていたと思われます。

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)大藪泰:表面技術, Vol.70, No.5, p.236-241 (2019)
2)職業能力開発総合大学校編:“塗料”, 雇用問題研究会,p.126 (2007)
3)工藤雄一郎・四柳嘉章: 植生史研究 第23巻 第2号 p.55-58 (2015)
4)大沼清利:“技術の系統化調査報告”, 国立科学博物館, Vol.15, March (2010)
5)前川浩二:“第52回塗料入門講座”講演テキスト, (社)色材協会 関東支部 (2011)
6)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, 玉虫厨子
7)http://msatoh.sakura.ne.jp/08053site.htm 茶の湯の森 (nakada-net.jp) で検索してください。平成の玉虫厨子は茶の湯の森 美術館にて常時公開しています。
8)墨運堂のWEBサイトhttps://boku-undo.co.jp/story/st2.html
9)エチルアルコールと水の密度をそれぞれ0.79、1.0g/cm3、酒のアルコール濃度を16wt%として、酒の密度を計算した。
10)https://4travel.jp/travelogue/10116454
11)日本塗料工業会データより引用

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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