工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 自動車補修塗装工程について(1)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-5 自動車補修塗装工程について(1)

今回も自補修塗装を取り上げます。板金修正で凹んだ箇所を引張り出し(既報図2-20)、塗膜をはく離した鋼板露出面(既報図2-22)からスタートします。

質問(27)

前回では、補修作業の段取りに付いて、説明が無かったのですが、まず、上塗り塗装の範囲(既報図2-15)を(a)スポットにするか、(b)ブロックにするかを決めなくてはなりませんが、どのように判断すれば良いですか。

答え(27)

鋼板露出面の面積は図2-22に示すように、フェンダーの1/10程度ですから、スポット塗りで補修できます。

ただし、上塗りがソリッドカラーならば、ブロック塗りを選びます。上塗りがメタリックか、パール仕上げならばこれらの上塗りベースをスポットで塗り、クリヤをブロック塗りにします。

 

質問(28)

光輝性顔料を使用した上塗りベースならば、色違いを小さく見せるようにスポット塗りを選択する方が良いと思いますが、ソリッドカラーではブロック塗りを選ぶ根拠は何ですか。

答え(28)

ずばり作業能率です。1枚のフェンダー内でボカシ塗り作業を行うスポット塗りよりも、調色した上塗りで1枚のフェンダーをブロック塗りする方が短時間で作業できます。

 

質問(29)

具体的にはどの位、作業時間が削減できますか。補修箇所の車体面の成形作業に要する時間はスポットでも、ブロックでも変わらないでしょう。作業時間と言っても、上塗り塗装の時間だけですね。養生作業(マスキング)時間も関係しますか。

答え(29)

単純には、上塗り塗装時間だけの問題です。ボカシ塗り作業の有無で、上塗り塗装時間は2~3倍違います。

次回に、ブロック塗りとスポット塗りの上塗り工程を説明しますから、両者の違いを理解してください。今回は、板金修正後の車体面の成形作業はどのように行われるのか、同時に、作業に必要な技能要素とは何かを見て頂きたいと思います。

 

質問(30)

焦点を絞って、説明してください。

答え(30)

成形作業の第一歩はパテ付けです。成形用パテの主体樹脂は不飽和ポリエステル樹脂で、主剤はこの樹脂と希釈剤モノマー、体質顔料から構成され、硬化剤の主成分は過酸化物です。

成形用パテは板金パテとポリパテと呼ばれるものに大別され、前者は3mm以上の厚みが必要な時に使用されます。両者の使い分けは図2-27と図2-30を見ればよく分かります。

板金パテによる車体面の成形作業
図2-27 板金パテによる車体面の成形作業(3)

ポリパテ付け作業手順
図2-30 ポリパテ付け作業手順

板金パテで大きな凹みを埋めてから、図-28に示すように研磨し、次に、ポリパテをはく離面全体に付けます。

板金パテの研磨とフェザーエッジの形成作業
図2-28 板金パテの研磨とフェザーエッジの形成作業(3)

図2-28(5)から、打痕部に付けた板金パテが研磨後、凹み部だけに残っている様子が分かります。

 

質問(31)

成形用パテは短時間で固まってくれないといけませんね。主剤と硬化剤を使用前に混合し、硬化物はクッキーになると思いますが、どのような化学反応が起きますか。

答え(31)

図2-29に示すように、主剤と硬化剤を100:2-3のように配合し、素早く混合し、パテ練りを行います。パテ練り後、10分以内にパテ付けを終了しないと、固まってしまいます。樹脂と希釈剤は不飽和基(炭素の2重結合部分)を持っており、主剤と硬化剤を混合する(パテ練りする)と、過酸化物がモノマーをラジカル状態にして、不飽和基同士が瞬時にラジカル重合し、固まります。いわゆる、ラジカル反応で主体樹脂の分子量が一気に増大します

ポリパテの混合・練り合わせ-パテ練り作業
図2-29 ポリパテの混合・練り合わせ-パテ練り作業

 

質問(32)

パテ付けのコツを教えてください。

答え(32)

パテ付け作業には熟練が必要です。あらかじめ次に示すKey pointを知って、練習すると、上達が速くなります。

〔ポイント1〕

主剤と硬化剤の均一混合、練り合わせを素早く(1分程度)行うこと。

〔ポイント2〕

パテ付けは2~3回に分けて行います。図2-30では、深さ4-5mmの凹部にあらかじめ板金パテを充てんしているので、ポリパテを2回で付けます。1回目は図2-30(1)~(3)に示すようにフェザーエッジ内、2回目は図2-30(4)に示すようにフェザーエッジを覆うようにパテを付けます。

ポリパテ付け作業手順
図2-30 ポリパテ付け作業手順

〔ポイント3〕

図2-31に示すように、ヘラを基準面から基準面に運行し、はりぼてダルマに短冊状の細い紙を貼って平滑面に仕上げる操作をイメージしてください。

パテ付けの基本動作-ヘラの動かし方
図2-31 パテ付けの基本動作-ヘラの動かし方

〔ポイント4〕

パテ付け時のヘラの持ち方と角度を図2-32に示すようにしてください。ヘラ先が先行するようにヘラを動かすと、パテは下側にかき出されます。このかき出されたパテを使用して、パテ付けを継続します。

パテ付けの基本動作-ヘラの動かし方
図2-32 パテ付け時のヘラの動かし方(3)

〔ポイント5〕

ポリパテのポットライフ(可使時間)は10分程度と短いのでスピーディに作業を進めてください。

 

質問(33)

パテ付けに使用するヘラはどのようなものが良いですか。

答え(33)

プラスチック製のヘラを使用してください。金ベラを使用しないでください。著者は大塚刷毛製のジラコヘラ白、幅66mmを使用します。青色のヘラは腰が弱いのでポリパテには使用しません。

モノタロウの通販サイトを見れば、“板金・塗装用ヘラ”がノミネートされています。パテ付け・研磨に必要な器工具類をまとめて、図2-33に示します。

作業名 使用機材
フェザーエッジ ダブルアクションサンダー
ダブルアクションサンダー用ペーパー(P120・180)
エアホース
パテ付け 定盤
プラスチック製ヘラ
研磨紙(P1500) - ヘラ調整用
脱脂剤(溶剤類)
ウエス
ポリパテ主剤
ポリパテ硬化剤
パテ研磨(整形) ハンドファイル
ハンドファイル用ペーパー(P120・180・240)
ガイドコート

図2-33 パテ付け・研磨に必要な器工具類

 

執筆: 執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:”ココからはじめる塗装“, 日刊工業新聞社, p.79, 94, 95, 96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.75, (2008)
(3)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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