塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第4章 塗料のルーツと変遷

4-1 はじめに

執筆中の「塗料・塗装の何でも質問講座」はこの第4章から後半戦に入ります。本講座の終了時点で、読者の皆さんにはペンキのことをよく知ってもらい、風呂場や床などの住環境を塗り替えたり、自分で作った工作物を塗って仕上げるまでになってもらえたら嬉しいなと思います。足場が必要な高所はプロのペンキ屋に任せればよいのです。

いつの頃か分かりませんが、どんな塗料でもペンキ、職人さん達はペンキ屋と呼ばれています。著者は若い頃、建築現場の監督者からペンキ屋と呼ばれる事に抵抗を感じていましたが、最近では、ペンキという響に愛着を感じます。誰でも発音しやすく、分かり易い表現で、市民権を持つ言葉だからです。

一方、漆職人は塗師(ぬし)屋と呼ばれ、伝統工芸師として一目置かれています。漆は植物油と同様で、植栽型樹脂です。どんどん消費しても、植林すれば地球温暖化ガスであるCO2を吸収してくれます。国内の主産地は岩手県・・・ですが、植栽活動は地道に進んでいます。実際に、2012年にNPO法人丹波漆(京都府福知山市)が立ち上がりました。会員となり、漆の木を育て、生長した木から樹液である生漆(きうるしと呼ぶ)をかき取る「漆掻き(うるしかき)」作業を通じて漆を身近に感じることができます。漆の木はベトナムやミャンマーなどの東南アジアで良く育ち、地球規模で生産可能です。植栽型漆に改良を加え、汎用塗料、さらには工業用塗料にまで広めようと研究している大藪泰氏は漆の可能性について次のように述べています。1)

漆膜の美しさは過去から誰もが認めることである。さらに、心の時代と呼ばれるいま、本物をゆっくり味わうなど、漆塗り製品は時流とあまりにも一致している。漆器に魅せられて、作家や職人を志す若者は確かに増加している。しかし、漆器を使用する人は大きく減少している。作り手志望は増加したが、使い手はいない。これは漆だけに留まる話ではなく、伝統産業で培われた材料・技術・技能の共通の可能性である。

彼は将来性に関して失望していません。使い手を増やすためには、日常的に漆と出会うことが有効だと考え、1)漆の新たな精製方法により製造した漆を使用し、給食用の食器を食洗機に対応できる漆器にしました。福井県のある小学校で現在も使用中です。2)同様の漆を吹き付け塗りで乗用車に全塗装し、外観の経時変化や塗膜の摩耗状況を調べています。色調は塗り立て時より微妙に変化し、オーナーの評判も上々とのことです。さらに、話題性もあり、塗料・塗装分野を活性化させています。

一般の工業用塗料ではどうでしょうか。用途別に塗料が存在し、必要な性能は保証されているから、経済性が優先されます。車や住宅の塗替えに対する心構えが全く異なります。補修時期が来れば塗り替えることに抵抗がありません。使い手不足で困ることはありません。むしろ、不足しているのは必要な所にどんどん塗ってみようとする意気込みです。

本講座の第2、3章では、塗装の基本を解説しましたが、十分では有りません。実技訓練が必要です。本章の目標は、塗装に挑戦しようとする気持ちを奮い立たせることです。丁度、黒船が持ち込んだ洋式ペイントを日本人の手で作り上げた時のように。今回のコロナ旋風は我々の働き方を一部、変えたかも知れません。在宅勤務が定着すると、時間的なゆとりが生まれます。自分自身のデザインで新たな空間を作りたいと考える方が増えて来ます。塗装に挑むことから身の回りが変わります。ココにはどんなデザインをして、どんな塗料を選ぼうかと考えることも楽しみの一つになります。

いろいろなケースに応じて、どんな塗料を選んだらよいか?当然、疑問になります。そんな時に、漆を塗ってみたいとか、塗料をモノタロウのweb siteから選びたいと思って頂ければやり甲斐が出てきます。何をどのように伝えたら良いのか、大いに迷い、目次立てで七転八倒しています。具体的には、次の項目について解説したいと思います。

(1)塗料と塗装のルーツ-塗れて、くっつき、固まる材料の発見と開発
(2)塗料とはどんな材料か-塗料の成分、塗料のできるまで、塗料の必要条件
(3)用途別塗料と塗装-下塗り、中塗り、上塗り塗料の違いと塗装工程
(4)被塗物に応じた塗料と塗装の知識-被塗物の違いを知って、塗装をしよう
(5)塗装によるメリット-塗装効果

やはり、塗ることによるメリットをどこで感じてもらえるかがKey pointです。塗料を身近に感じてもらうために、塗料の選択要因を取り上げ、図4-1に示します。2)

図4-1

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)大藪泰:表面技術, Vol.70, No.5, p.236-241 (2019)
2)職業能力開発総合大学校編:“塗料”, 雇用問題研究会,p.126 (2007)
3)工藤雄一郎・四柳嘉章: 植生史研究 第23巻 第2号 p.55-58 (2015)
4)大沼清利:“技術の系統化調査報告”, 国立科学博物館, Vol.15, March (2010)
5)前川浩二:“第52回塗料入門講座”講演テキスト, (社)色材協会 関東支部 (2011)
6)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, 玉虫厨子
7)http://msatoh.sakura.ne.jp/08053site.htm 茶の湯の森 (nakada-net.jp) で検索してください。平成の玉虫厨子は茶の湯の森 美術館にて常時公開しています。
8)墨運堂のWEBサイトhttps://boku-undo.co.jp/story/st2.html
9)エチルアルコールと水の密度をそれぞれ0.79、1.0g/cm3、酒のアルコール濃度を16wt%として、酒の密度を計算した。
10)https://4travel.jp/travelogue/10116454
11)日本塗料工業会データより引用

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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