塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-1 塗料の必要条件と分類法

質問(1)

第1章では塗料・塗装分野で見られる白化という欠陥現象を取り上げ、原因と対策を話してきたのに、第2章で何故「ことはじめ」になるのですか。

答え(1)

疑問ですよね。著者の気まぐれもありますが、塗料と塗装が関連する分野は結構広いのだと言うことを本章で示したいのです。話の展開を次のようにしようと考えています。

  • (イ)塗料とはどんな材料なのか、塗料として必要な条件とはどんなこと。
  • (ロ)目的に合う塗装をするためには、どのように準備をしたら良いのか。具体例として、自動車の補修塗装を取り上げ、必要な材料や器工具を紹介し、作業の進め方を塗装工程として説明します。
  • (ハ)補修塗装ではスプレーガンを使用しますから、ガンの基礎知識とガン使いの名手になるための技能要素を解説します。
  • (ニ)植栽できる資源として、木材の活用は有用です。木材の寿命は樹齢分だと言われていますが、塗装技術でさらに寿命を延ばして有効活用したい。この観点でいくつかの方策を述べて行きます。

質問(2)

大体の構想はわかったよ。この章では塗料と塗装を身近に感じてもらいたいと言うことだね。塗料は医薬品、化粧品や油脂類と同じように化学工業の最終製品に分類されていますね。どんな材料かと言うからには、工業製品としてのスケールを教えてもらいたい。

答え(2)

了解。日本の化学工業全体の年間出荷金額は約26兆円であり、その内訳は図2-1に示すように、すべてが最終化学製品では無く、中間原料として出荷されるものが全体の半分弱を占めます。2010年における最終化学製品の総出荷額は13.7兆円であり、塗料の年間出荷金額(国内と海外生産を合計)は約1兆円で、業種別ランキングでは表2-1に示されるように第4位です。 図2-2に示す塗料生産量の推移を見ると、年間生産量は戦後、右肩上がりに増加し、1990年には220万トン(最高記録)を達成し、その後、国内生産量は低下して行きますが、海外生産量は伸びて行き、2013年には224万トンに達し、国内を凌いでいます。中国を筆頭に、インド、東南アジア諸国での生産活動が活発になっています。

表2-1 化学工業の業種別出荷金額ランキング(最終化学製品分野)

ランキング 業種 出荷金額(兆円) 事業所数) 従業者数(人) 一人あたりの出荷金額(万円)
1 医薬品 7.36 822 96,144 7,655
2 化粧品類 1.39 440 32,009 4,343
3 油脂/石けん類 1.1 269 15,164 7,254
4 塗料 1.04 392 17,772 5,852
5 写真感光材料 0.45 57 10,723 4,197
6 ゼラチン・接着剤 0.31 144 6,302 4,919
7 農薬 0.27 67 4,247 6,357
8 その他 1.78 845 37,436 4,755
  合計 13.7 3,036 219,797 6,233
図2-1 化学工業業種別出荷金額の内訳

図2-1 化学工業業種別出荷金額の内訳((社)日本化学工業協会発行「グラフで見る日本の化学工業」より引用)

図2-2 塗料の年間生産量の推移

図2-2 塗料の年間生産量の推移

表2-1に示す業種別のデータを見て感じることは、1)ファインケミカル製品を上市している医薬品、化粧品業種と言えども、関連分野を含めると、従業員一人当たりの出荷金額が際だって高くないこと、2)塗料工業はユーザーが多岐にわたるため、他の業種に比べてメーカーの数は多いが、化学工業の中では良く健闘していると言えます。

質問(3)

日本塗料工業会のデータを見ると、塗料の国内年間生産量は2012年以降約160万トン以上で、出荷金額は6,700億円以上であることがわかります。塗料の需要分野とその使用量について教えてください。

答え(3)

図2-3に示すように、最も需要の大きい分野は建物で27.7%を占め、これに建築資材を加えると32.8%になり、全体の1/3を占めています。次に大きいのは道路車両であり、新車が15.6%、自動車補修が2.8%で計18.4%になります。2015年度の塗料の平均単価は412円/kgであり、建築用、新車用塗料の平均単価はそれぞれ391、473円/kgです。

図2-3 塗料の用途と需要量

図2-3 塗料の用途と需要量

金属製品用、電気機械用、木工製品用塗料の使用量が経年で低下傾向にあり、日本のものつくり産業が停滞していることがわかります。とくに、木工産業は海外品に押されて減少し、2000年には4.4%であった木工塗料が2014年には1.3%に落ち込み、家庭用塗料よりも少なくなっているのは心配です。 国内産家具が居住空間からなくなって行くのは忍びがたい事です。具体策はありませんが、木を使う伝統技術と技能を塗料・塗装分野からもアピールする必要があります。

質問(4)

塗料工業のアウトラインはわかりかけてきたので、今回の本題である塗料にはどのような性能が必要かを述べてください。

答え(4)

塗料は流動、固化するように設計されており、必要条件とは(1)流動すること、(2)被塗物にくっつく(付着する)こと、(3)固まることが必要です。これら3つの必要条件については、次回以降、必要に応じて具体的に解説します。一方、十分条件とは、塗膜物性の基準値とか耐久性(物性維持可能年数)を意味し、塗料ごとに異なります。

質問(5)

それでは、次に分類法についてお伺いします。一つの分類法として、図2-3に示す用途別という見方がありますね。この他、どのような分類法がありますか。

答え(5)

必要に応じて臨機応変に塗料を分類できれば良いですね。塗料の見方と整理術を身につける訓練になるので、辛抱してマスターしてください。著者の分類法を図2-4に示します。分かり易いのは、用途別と言うような(3)塗料選択の要因を思いつくままに書き出してみることです。用途別以外の要因で数え上げると、図2-5に示すように多岐に渡ります。

それでは、次に分類法についてお伺いします。一つの分類法として、図2-3に示す用途別という見方がありますね。この他、どのような分類法がありますか。

  • 塗装工程
  • 上塗り用
  • 中塗り用
  • 下塗り用
  • 使用箇所
  • 屋外用
  • 屋内用
  • 水中用
  • 塗装方法
  • はけ塗り用
  • ローラ塗り
  • エアスプレー塗り
  • エアレススプレー塗り
  • 静電スプレー塗り
  • しごき塗り
  • 電着塗装

  • 被塗装物
  • 鉄鋼用
  • 非鉄金属用
  • (被合金用)
  • 木造建築物用
  • 木工家具用
  • コンクリート用
  • プラスチック用
  • 紙用
  • 皮革用
  • 乾燥方法
  • 常温乾燥
  • 常温硬化
  • 焼付け硬化
  • エネルギー線照射硬化

  • 塗膜外観(仕上げの種類))
  • 透明(着色あり、なし)
  • 仕上げ
  • エナメル仕上げ
  • メタリック仕上げ
  • パール仕上げ
  • 複層模様、多彩模様仕上げ
  • つやの程度
  • 一般に3分、5分、7分つやと表現する
  • つや有り、つや消し

図2-4に示す(2)塗料用樹脂による分類法については、ボリュームを要すること、すでに著書(1)にまとめているので、この書籍を参照してください。 また、これからの記述の中で、塗料用樹脂が違うと何が異なるのかと言う説明をする機会がありますので、その時に樹脂による分類法を学習してください。さらに、(1)塗料の形態、(4)塗膜なってからと言う分類法については、次回の2.2 塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化の記述の中で一緒に解説します。では、次回をご期待ください。

〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.64-89 (2016)
執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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