工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 噴霧法 粉体塗料の塗り方(つづき)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-13 噴霧法 粉体塗料の塗り方(つづき)

粉体塗料の塗り方

コロナ放電式-フリーイオンの挙動 20)

今回は電界内を大量に移動しているフリーイオンの挙動に焦点を当て、塗装作業との関連について説明した後、コロナ放電式以外の塗り方について説明します。

帯電粒子とフリーイオンはともに電気力線に乗って、クーロン力で被塗物(主として、金属)に塗着します。粉体塗料の電気抵抗値が高いため、塗着した帯電粒子は電荷をなくさずに累積して行きます。この様子を図3-45 に示します。ある現場の作業者から、「塗装1 発目の粉体のくっつきは悪いが、2 発目からは良くくっつく。どうして?」と聞かれたことがあります。この方式の原理から、塗装開始時には多量のフリーイオンが正極の被塗物に向かって進行し、どんどんアースに流れて行きます。フリーイオンが被塗物に向かって動いている間は帯電粒子が付着しにくいのではないかと答えましたが、正解かどうかは分かりません。図解すると、図-3-45 (a) の状態になるには、ちょっと時間がかかるが、あっと言う間に(b)の状態になると言うことです。電圧が印加されている間は電気力線に乗って、帯電粒子とフリーイオンは累積して行きます。(b)のように粉体層が厚くなると、当然のことながらマイナスイオンが狭い空間に凝集されています。その結果、正電極の被塗物に対する負電極の電位は粉体層の外側になるほど大きくなります。丁度、乾電池を直列で並べたように、個数が増えるほど負極の電位(電圧)が高くなることを意味します。このように、粉体層内には帯電粉体の保持する電荷とフリーイオンの電荷が蓄積されており、粉体層の電界強度が空気の絶縁破壊強度30 (MV/m)を上回った時に、正極(被塗物)に対して火花放電が発生します。その様子を図-3-45 (c), (d)に示します。電界強度の高いサイトが粉体層内に点在しており、その箇所で小規模の火花放電が生じ、プラスイオンの空気を発生します。正極近くで火花放電が起きるためです。

コロナ放電式静電塗装における粉体塗料の塗着過程

その結果、図3-46(a),(b)に示すように、粉体層表面にはクレーター状の模様が現れます。焼付け前の粉体層表面は粒子の堆積物ゆえ、(a)に示すように、粒子の動いた軌跡が塗装面に残り、焼付け後の塗装面は、(b)に示すように、ゆず肌状になっています。恐らく、放電によるプラスイオン空気の生成と同時に、空気の熱膨張で、粒子がはじけ飛んだりしたためだと思われます。火花放電が起きる現象を学術用語では“逆電離現象”と呼んでいます。この現象は粉体層に蓄積された電荷量に依存して発生するので、第1 要因として、膜厚の増大が上げられます。そして、火花放電で発生したプラスイオン空気がマイナスイオンを生成するコロナピン(陰極)に向かって動くため、電界内の帯電粒子は中和されたりして大混乱になります。 (図3-44 参照)

火花放電(逆電離現象)の起きた粉体塗装面

フリーイオンが多くなるほど、図3-46 に示す凹凸現象が起きやすいので、塗装に必要な静電界と余分なフリーイオンを捕集する静電界を同時に作る発想で、デュアル電界方式と呼ばれる粉体静電ガンが開発されました。19)

 

摩擦帯電(トリボ)式静電塗装機の原理 (図3-47 参照)

摩擦帯電(トリボ)式静電塗装機の原理

トリボ式は高電圧発生機を使用せず、塗装機内部の円筒壁面に粉体塗料が摩擦しながら移動する過程で塗料粒子が帯電する方式です。図3-37 に示す帯電列を利用すると、粉体塗料がポリエステル樹脂系の場合、テフロン壁面と摩擦すると+に帯電し、ナイロン壁面と摩擦すると-に帯電します。このように個々の粒子が帯電しているから、凹部への塗着性が良く、グリッド形状や複雑形状品への塗装や薄膜高外観を要求される塗装に適しています。ただし、高湿度下では帯電量が低下し、塗着困難になるので。+帯電できる微粒子を添加して、対策します。

 

流動浸漬法の原理

粉体塗料へのDipping には、図3-48に示すように粒子中に0.1MPa 程度の低圧で空気を送り込み、粉体塗料を流動させます。この中へ加熱した被塗物を浸せきすると、被塗物と接触した粉体は溶融、流動して塗膜になります。水道バルブのような熱容量の大きい鋳造品のような被塗物に適します。

流動浸漬法の原理

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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