塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第1章 塗料・塗膜の白化現象

1-2 散乱強度と隠ぺい力

質問(3)

前回の図1-4は白黒がはっきりした良い結果でした。ポリマーと屈折率の差が小さいCaCO3粒子を分散させた塗膜は粒子/ポリマー界面で可視光線の多くは散乱されずに透過し、下地(素地)の白面で反射された散乱光が我々の目に入ってきます。 黒の下地面に達した可視光線は吸収されるので、黒く見えると言うわけですね。 一方、TiO2エナメルでは粒子/ポリマー界面での散乱強度が高く、下地に到達する入射光はほとんど無いから、下地が見えなくなったと考えて良いですね。 でも、薄く塗れば下地は透けるでしょう。この膜厚効果を図解で説明してください。

答え(3)

作図は得意ではありませんが、原理がわかるように描いてみました。図1-5に示します。膜厚の増大により粒子/ポリマー界面の表面積が増え、下地に到達する可視光線量が減ること、 さらに下地からの反射光も粒子界面で散乱しながら減衰して行くと考えてください。 隠ぺい力に及ぼす膜厚効果の例を青エナメルで図1-6に示します。顔料容積濃度(PVC)は4%と低いのですが、可視光線を吸収するため、同PVCの白エナメルと比べると隠ぺい力は著しく大きくなります。

  • (a)膜厚が薄い場合
  • (a)膜厚が薄い場合
  • (b)膜厚が厚い場合
  • (b)膜厚が厚い場合

図中の太線が下地面からの反射光。膜厚大のほうが光路長は増え、下地面からの反射光は減衰する

図1-5 塗膜中における光線挙動のモデル図


  • (a)空気層がない時
  • (a)膜厚12μm
  • (b)空気層がある時
  • (b)膜厚38μm

青エナメル塗膜(顔料容積濃度PVC4%)/顔料:フタロシアニンブルー、屈折率1.9/ビヒクルポリマー:ポリエステル樹脂 屈折率1.6

図1-6 隠ぺい力に及ぼす膜厚効果

下地(素地)を隠す能力を隠ぺい力という用語で表現します。図1-4に示す試験紙に塗布し、(黒地上のY値)/(白地上のY値)の値が0.98以上になった時を完全隠ぺいと呼び、隠ぺい力は次のように求めます。

完全隠ぺいに要した塗付量と隠ぺい力試験紙の表面積を計測し、塗付量当たりの隠ぺい面積を求めます。塗付量の少ない方が隠ぺい力は大きくなります。なお、Y値とは明度のことで、色彩計で簡単に計測できます。

質問(4)

白エナメルの隠ぺい力は粒子/ポリマー界面での散乱能力に関係します。散乱強度を高める要因には、界面での屈折率差と接触面積があると言うことは理解できますが、 顔料粒子の大きさ(粒径)についてはどのように考えたら良いですか。 小さくなればなるほどポリマーと接する表面積は増えるから散乱強度は増加し、より白くなりますか。

答え(4)

科学的な説明よりも、図1-7に示す水性透明塗料の外観を見てください。図(a)は水溶性、図(b)、(c)はポリマーが水中に粒子として分散しています。 エマルションとか、ラテックスという用語をご存知かも知れませんが、同じ仲間だと思ってください。 分散粒子は図(b)の方が小さくなっていますが、図(c)に比べて、透明感があります。 要は、光線を散乱する能力と粒子の大きさとの関係には図1-8に示すように最適な範囲が存在します。

  • 水溶性
  • 水溶性
  • 外観:透明
  • 粒子径(nm):50以下
  • 分子量:103~104

  • コロイダルディスパージョン
  • コロイダルディスパージョン
  • 外観:透明
  • 粒子径(nm):50以下
  • 分子量:103~105

  • エマルション
  • エマルション
  • 外観:乳白色
  • 粒子径(nm):200~500
  • 分子量:105以上

図1-7 水溶透明塗料の外観

  • エマルション
  • 人間の目の感度は500nm付近が高いから、白エナメル塗膜において、この波長域の光線を散乱させれば、より白く感じる。
  • 白顔料の粒子径を250nmに調整するわけはここにある。

図1-8 粒子の大きさと光の散乱能力との関係

光線の波長と粒子の種類にかかわらず、粒子の大きさが光の波長の1/2程度になると、散乱強度は最も強くなると言う法則があります。 人間の目には500nm付近の光が最も明るく感じられる(緑領域の光に対する感度大)ので、チタン白TiO2のような白顔料は500nmの半波長である250nm(0.25μm)程度に粒径を調製しています。 粒径が100nmと小さくなると、図1-8の横軸は100/500=0.2となり、可視光線500nm散乱強度は低下しますが、200nmの紫外線UVに対して散乱強度は最大になります。粒径調製によるUVカットのテクニックです。

質問(5)

図1-7(b)はコロイダルディスパージョンと呼ばれており、この液体は半透明で青っぽく見えます。 100nm程度の細かいTiO2粒子を分散させたエナメル塗膜も良く見ると青っぽいのですが、何故でしょうか。恐らく、青色領域の散乱強度が高いからだと思いますが、どうですか。

答え(5)

粒径の異なるチタン白に青、緑、赤の単色光(波長の均一な光)を当てると、散乱強度は図1-9に示すように分布すると思います。 チタン白の粒径が小さくなるほど青色の散乱強度が強くなり、粒径が大きくなると赤みが強くなると推定できます。問題のコロイダルディスパージョンの青みは散乱光に依存します。

図1-9 単色光の散乱強度に及ぼすチタン白の大きさの影響

図1-9 単色光の散乱強度に及ぼすチタン白の大きさの影響

最近、遮熱塗料が建築物のみならず、舗道や公園、陸上競技場のアンツーカーにも採用されています。遮熱効果を発現するためには可視光よりもはるかに長い赤外線波長域の光を散乱させる必要があります。 石原産業のカタログ(タイペークPFR404、熱遮蔽性チタン白)によると、棒状チタン白粒子(長軸3μm、短軸0.3μm)を分散させたエナメル塗膜が赤外線領域の光を効率よく散乱させ、遮熱効果を発揮するようです。 恐らく、形状効果で棒状粒子が連結し、散乱能を向上させていると考えられます。

質問(6)

話が前後しますが、白エナメルに少量の着色エナメル(例えば、図1-6に示す青エナメル)を加えると、隠ぺい力は大幅に向上します。どのように考えたら良いでしょうか。

答え(6)

これには可視光線の散乱と吸収を考えると理解できます。白顔料の有する散乱能力に、着色顔料の有する吸収能力が加わったからです。 可視光線が下地に到達しなければ隠ぺい力は向上します。吸収能力の高い黒色顔料であるカーボンブラック(CB)を入れると効果があり、混合すると灰色エナメルになります。

執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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