塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-9 電着法 電着塗装工程

電着塗装工程

(1) 電着塗装装置

電着塗装装置の構成は一般的に次のようになります。(図3-35, 3-32参照)

  1. 被塗物搬送装置(コンベアー)
  2. 電着浴槽(電着塗料タンク)
  3. 電源装置および通電装置
  4. 塗料循環装置(かくはん,熱交換,フィルター)
  5. 水洗装置
  6. 焼付炉

 

(2) カチオン電着塗装ライン

電着塗装ラインの概要を図3-35に示す。化成皮膜処理を終えたボディは電着塗装ラインに入り、下塗りが行われます。12)この塗装ラインについて説明します。

カチオン電着塗装ライン

 

コンベアーによって運搬されてきたボディがA点にくると、つり下げているハンガーと接触し、ボディが負極になり印加されます。この図は通電入槽方式を示しており、一定電圧をかけられたボディが電着浴槽に入ります。電位は塗料のほうがボディより高くなって電流が流れます。通電条件(印加電圧,電流,通電時間,通電方法)は使用塗料の電着特性および被塗物の浸せき条件により決定されます。実用ラインでは約300Vの直流電圧をかけます。この状態で+イオンになっている塗料は前述した電気泳動・電気析出・電気浸透の3作用により、ボディに電着塗装されます。B点にくるとハンガーと電極が離れますが、この時点でボディ表面は絶縁体になっています。電着浴槽から出た被塗物は,水洗工程を経てから乾燥・焼付けされます。

 

(3) 通電方式について

電着塗装ラインでは、通電方式が仕上がり性に大きな影響を及ぼします。図3-35に示す通電入槽方式は塗料に浸漬された部分から順に電着され、電流の流れる面積が限られること、電着された部分は電気抵抗が大きくなることから、電圧が低めでも電着できる利点があり、被塗物が大型になっても適用できます。しかし、浸入角度や浸入速度が異なると、電流密度が異なり、膜厚分布が大きくなったり、ピンホールが出やすいと言う欠点を有します。

そこで、開発されたのが、ボディ全体を浸漬させてから通電するという入槽通電方式です。通電時にボディの面積に応じた電流が流れるため、膜厚分布は小さくなります。最近のカチオン電着塗装ラインでは入槽通電方式が採用され、袋部分のつきまわり性を向上させるために、多段階通電(全没時の電圧を2~3段階に変えて電着する)方式も考案されています。さらに、ボディ全体を3Dに回転できるようにした新方式もあり、つきまわり性が向上します。

 

(4) 化成皮膜の欠陥と電着塗膜の防錆効果について

一般社団法人色材協会 関東支部では、毎年11月に「欠陥対策講座」を開催しています。一般講演とは別に、参加者からの質問を募り、この場で回答すると言う【塗装・塗膜のお困りごと回答・解説】コーナーを併設しています。2018年11月16日に行われた質疑応答内容は本稿と関係していますから、ここで紹介します。

質問1

乗用車のパネルに異常な錆が発生し、実際にパネルの化成皮膜状態をSEMで観察したところ、化成皮膜不良(スケ)が見られた事例がある。上塗りまで行ったパネルの錆の原因を解明することは難しいので、電着塗装終了段階で前処理工程、あるいは電着塗装の欠陥を見つける方法は無いだろうか。

 

回答1

(1)化成皮膜が部分的にのらない(スケ)原因のほとんどは、脱脂不良により油を落とし切れていないためである。(2)化成皮膜が無かったり、化成皮膜量が少ないと、電気抵抗値が低くなり電着塗膜の膜厚が厚くなる。膜厚が厚ければ、塗膜は伸びた肌になるから、見た目には平滑である。このような外観になっている場合には、化成皮膜がないか、薄いことを疑った方が良い。電着の肌を見慣れている人であれば、見た目で異常を判別できるし、膜厚測定も有効である。ただし、電着工程以降で化成皮膜のスケの有無を目視等で探すことは困難であるから、電着塗膜焼付け後の診断は重要である。スケの部分は錆が発生しやすい。

 

質問2

電着塗膜の膜厚と防錆性能について知りたい。

 

回答2

一連に異なる膜厚の電着塗装板について塩水噴霧試験を行った結果、膜厚の変曲点は約5μmであり、最低でも10μmは必要だと言える。

「欠陥対策講座」並びに、質疑応答の企画は始まったばかりですが、身近に日頃の疑問点を解決できるかも知れません。是非ともお出かけください。

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

目次をもっと見る