工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 スプレーガン-名手への道(1) ガンの基礎知識

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-9 スプレーガン-名手への道(1) ガンの基礎知識

車の補修塗装ではスプレーガンの技能が大切だと言うことを理解できたと思います。見よう見まねで上手くなる方もおられるかと思いますが、基本を知って現場で鍛えられると言うのがやはり近道です。今回は、スプレーガンの基礎知識(主として、噴霧の原理やガンの機構)について解説します。

1.ガンの基礎知識

1.1 噴霧の原理

塗料を霧のような小さい粒子にして被塗物に吹き付ける方法を噴霧塗装、あるいは吹付け塗装と呼んでいます。吹付け塗装は、エア、エアレス、静電スプレー方式に大別され、この順に、塗着効率は向上します。エアスプレー技能をマスターすれば他の吹付け塗装も上手く操作できますから、まず、噴霧の原理と周辺技術を理解しましょう。

図2-61に示す霧吹きが液体を霧にする原理です。(2)

霧をつくる原理
図2-61 霧をつくる原理(2)

さらに、図2-62では、空気が塗料ノズルよりも後方から噴射され、塗料出口が負圧になる様子を示しています。塗料を霧化する空気量が少ない時には、水鉄砲から発射されるようなひも状の噴出物になりますが、空気量の増加に伴い細かな霧になります。(5)

空気圧によって変わる液体(塗料)の形態変化
図2-62 空気圧によって変わる液体(塗料)の形態変化(5)

エアスプレーガンは、エアコンプレッサーで圧縮した空気と液体の塗料を混合させる機械工具です。塗料と空気がどこで混合するかによって、図2-63に示す内部混合式と図2-64に示す外部混合式の2方式のガンに分類されます。

内部混合式エアスプレーガンの構造(タイル、モルタル、リシンガンなど)
図2-63 内部混合式エアスプレーガンの構造(タイル、モルタル、リシンガンなど)

外部混合式エアスプレーガンの構造
(a)空気キャップの構造

外部混合式エアスプレーガンの構造
(b)ガンの断面図

図2-64 外部混合式エアスプレーガンの構造

前者のガンには、リシンガンやタイルガンが該当し、空気は塗料をひも状に引きちぎると同時に、被塗物まで運ぶ役目をしますが、塗料を霧化粒子にすることはできません。

一方、外部混合式ガンは、負圧作用によりガンの出口(塗料ノズル)から出た塗料が空気と初めて接触する場所がガンの外部になります。この時、空気量は図2-64(b)に示すようにエア圧で自由に調節できます。噴霧粒子が小さい程、一般に塗装面の鏡面光沢度は高くなりますが、跳ね返りも多くなるので、ある程度の大きさの範囲になるように設定します。

例えば、図2-65に示すように、噴霧粒子を40μm程度にしようと思えば、低粘度(20mPa・s、水の20倍程度)の塗料では(空気量/塗料)の容量比は1000倍程度で足りますが、水の100倍程度と高粘度になると、(空気量/塗料)の容量比は2000倍以上になります。(6)

噴霧粒子の大きさに及ぼす(空気/塗料)容量比の影響
図2-65 噴霧粒子の大きさに及ぼす(空気/塗料)容量比の影響(6)
Xs:ザウタ平均粒径 QA:空気体積 Qp:塗料体積

我々がエアスプレーガンで塗装する場合、塗料粘度をおおよそ30-40mPa・s(水の30-40倍)に調整します。この場合、エア圧で(空気量/塗料)の容量比を1000-1500倍程度に調整すると、噴霧粒子は30μm程度になり、良い仕上がり外観を得ることができます。

使用可能な外部混合式ガンには、図2-66に示す3パターンのものがあります。

吸上式エアスプレーガン

カップ容量が大きく、塗料の継ぎ足し回数が少ない。カップ底面が平らなため、塗料が入った状態でも置くことができる。

重力式エアスプレーガン

カップの角度を自在に変えられるため、細かい作業に適している。カップの中の塗料が自重で落ちるため、最後まで塗料を使い切ることができる。吸上式スプレーガンより軽い。

圧送式エアスプレーガン

塗料を圧送タンクやポンプで送る方式のガン。同色を多量に使うコンベアライン塗装などには、圧送式が便利。

図2-66 外部混合式エアスプレーガンの種類

 

1.2 エアスプレー塗装装置

エアコンプレッサーで圧縮空気をつくり、エアトランスホーマーで吹付けに適した圧力に調整して、エアスプレーガンに搬送します。さらに、吹付け作業時には余分の噴霧塗料(スプレーミストあるいは、ダスト)を安全に排気するスプレーブースが必要です。

図2-67に示す一式がエアスプレー塗装装置です。(1)

図中のドレンコックを始業前に開け、空気の圧縮過程で生じた水や油を排出しておくことが大切です。もし、水や油が塗料中に混ざると、塗装、塗膜不良の原因になります。

装置一式
(a) 装置一式

スプレーブースの例
(b) スプレーブースの例

図2-67 エアスプレー塗装装置の構成(1)

 

1.3 エアスプレーガンの機構と調節(1)

図2-64に示す機構図を見てください。エアコンプレッサ(空気圧縮機)からの加圧空気は図2-64(b)に示すA点から挿入され、B点で塗料ノズル出口(塗料噴出口のC点)の周りへ行く空気と、空気キャップへ行く空気とに分岐されます。引き金は2段階で引くように設計され、1段目ではニードル弁は動かないので、C点に加圧空気のみが供給されます。その結果、C点は負圧状態になり、2段目でニードル弁が引かれる時に、塗料カップ中の塗料は吸引された状態でC点に来ます。C点で初めて加圧空気と混合し、霧になります。

図2-64(a)に示す空気キャップには中心、補助空気穴および側面空気穴(角穴)があります。中心穴と補助穴からの空気が塗料を霧化し、丸形パターンを作ります。角部の側面空気穴から噴出する空気でスプレーパターンを丸形からだ円形に押しつぶします。噴霧塗料は空気キャップの穴に付着しやすいので、作業の合間には空気キャップだけを取り外して、シンナーに浸せきしておきましょう。空気穴のつまりを防げます。ガンの洗浄手順については、次回、説明します。

1 スプレーガンの持ち方(1)

図2-68に示すように、人指し指と小指でガン本体を支持し、引き金を中指と薬指の2本で握ると、図2-66に示す重力式スプレーガンや圧送式ガンは安定します。吸上式ガンの重心は下方にあるので、引き金を人指し指、中指と薬指の3本で握ると良いでしょう。

エアスプレーガンの調節箇所
図2-68 エアスプレーガンの調節箇所(1)

2 空気(エア)圧力の調整(1)

スプレーガンの引き金は2段階で動きます。塗料を入れない状態でこの2段階方式がわかるように練習してください。1段目は空気のみが出てきます。この時に示す圧力がエア圧です。エア圧力の調整は空気のみを出しながら図2-69に示すように、エアトランスホーマーで行います。

エア圧力の調整
図2-69 エア圧力の調整(1)

さらに引き金を引くと、今度は塗料が噴霧されます。通常の作業では、塗装前に1段目まで引き金を引き、空気のみを被塗物に当て、小さなゴミを取り除きます。空気のみを出しながら、後述するスプレー操作の基本動作を繰り返し練習してください。

3 スプレーパターンの調整(1)

スプレーパターンは被塗物の大きさ、形状及び塗装方向に合わせて決めます。狭い、細い部分を塗るときは丸パターンを、大きな、広い面を塗るときはだ円パターンに調整します。空気キャップの角穴(つのあな)から出る空気がだ円パターンを作り、角の向きでだ円の形状を変えます。そして、空気キャップの角の方向がスプレーガンの運行方向になります。何はともあれ、「角(つの)の示す方向がスプレーガンの動く方向」だと身体に覚えこませてください。縦長だ円パターンで縦に動かすと、塗料がたれてしまいます。

角穴から出る空気量の調節は図2-70に示すように、ガンのスプレーパターン調節ネジで行います。調節ネジを閉める(時計方向)と、角穴から出る空気はなくなり、丸パターンになります。一方、調節ネジを開けて空気量を増やすと、だ円パターンができます。

スプレーパターンの調整とガンの運行方向
図2-70 スプレーパターンの調整とガンの運行方向(1)

4 塗料カップの位置調節など

下向きにして塗る場合には、塗料がこぼれ出さないように塗料カップの位置を変えたり、僅かにこぼれても被塗物に滴が落ちないようにカップにウエスを巻き付けます。このような細かな注意が良い仕上がりにつながります。鋼管やパイプなどの下面を塗る時には、ガンを持ち替えたりしながら、余裕のある塗り方をしてください。(図2-71参照)

塗料カップの位置調節
図2-71 塗料カップの位置調節

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:“ココからはじめる塗装” 、日刊工業新聞社、p.29-30, 79, 84-86, 90-96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.61, 75 (2008)
(3)坪田 実:“目で見てわかる塗装作業” 、日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)
(5)桑田 透:“第58回塗料入門講座テキスト”, p.59, 60 (2017)
(6)樋口徹雄:色材、vol.42、4、p.156 (1969)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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