1-4 塗装時に白化する現象とその解析(1) 結露の発生
質問(9)
高温多湿な梅雨時にスプレー塗装をすると、かすみがかかったように白くぼけてつやが無くなることがあります。水性塗料では見られませんが、ほとんどの溶剤型塗料で生じます。 また、鋼板を手に持って塗装した時、図1-14に示すように、鋼板と接触している指の部分は白化せず、それ以外の部分は白化して手形が取れました。(2)この現象の発生機構をどのように考えたら良いでしょうか

図1-14 白化現象と手形/ (2) 坪田実:“塗料・塗装のトラブル対策” 、日刊工業新聞社、p.163, 164 (2015)
答え(9)
これはかぶり(Blushing,ブラッシング)と呼ばれる白化現象です。発生しやすい共通条件は、(1) 蒸し暑いと感じる湿度(約80%以上)であること、(2)シンナーの揮発速度が大きいことの2点です。さらに、手形が取れたことは良いヒントをくれました。
高湿度の時に塗装して、溶剤が揮発する時には何が起きるでしょうか。注射をする前に脱脂綿でアルコール消毒をしてもらった時にひんやりとした清涼感を経験したことがあるでしょう。局部的なひんやり感はアルコールが揮発する時に気化熱を奪うからです。塗装面から溶剤が揮発する時にも同様に、気化熱が奪われ、塗面の温度は低下します。 高湿度の時、僅かな温度低下で塗面近くの空気から水蒸気が液体の水となります。この現象を結露と言い、生成した水滴は塗面に付着しますが、溶解して行きません。油と水の関係です。乾燥過程の塗料と水との屈折率(それぞれ約1.5, 1.33)は異なるので、光は両者の界面で反射し、白くなります。
手形はどうしてヒントになるかと言うと、鋼板と接触している指が塗面の冷却を防ぎ、局部的ではありますが、水滴が付かないので、白化しません。
質問(10)
結露と言われて、直感的に思いつくのは、冬場に窓ガラスに付着する水滴です。季節的にずいぶん異なりますが、結露について易しく説明してください。
答え(10)
欠陥現象の話をする時、「これは冬場にしか起こらない」と自信を持って言われると、そこから先の思考が進まないことがあります。私は常日頃から、「欠陥は自然現象だ」と主張しています。 ここで問題にしている結露は、季節に拘わらず起きる現象で、空気中の水蒸気が水に変化することだと割り切って考えると、温度・湿度を問題にすれば良いのです。
さて、我々が言う湿度とは相対湿度で、空気中の水蒸気量の相対値を示しています。空気の温度によって空気中に溶け込む(実際には、溶解していませんが一体感を出すために溶け込むと考えてください)水蒸気量が変化し、高温になるほど水蒸気量は増大します。 気温によってどの位水蒸気量が異なるかを図1-15に示す乾湿計用湿度表から読み取ると、図(b)のように示されます。20℃で存在できる水蒸気量を100%とすると、10、30℃でのそれはそれぞれ18、278%と計算できます。 温度が10℃上下するだけで、水蒸気量は大きく変化しますから、湿度には温度表示が不可欠です。例えば、同じ50%RHでも、30℃での水蒸気量は20℃のそれよりも2.78倍も多いのです。結露では、相対湿度が100%になる温度に注目すれば良いので、図(a)示す乾湿計用湿度表の見方に慣れてください。

図1-15 乾湿温度計と相対湿度表
まず、図1-14の写真の下に29℃/86%RHと表示されていますが、これは塗装時の値です。図1-15(a)示す湿度表で、30℃/85%RH(29℃/86%RHの代用)を見てください。青丸で囲みます。この時に乾球と湿球の差2℃と表示されていますが、これは次の様に解釈します。
30℃/85%RHは28℃/100%RHを意味し、空気温度が28℃以下になったら結露します。30℃/85%RHでの結露温度は28℃で、湿度が高くなるほど結露するまでの温度低下量は小さくなります。この様子を図1-16に示します。

図1-16 30℃の空気から結露させるのに必要な温度低下量と相対湿度との関係
冬場の窓ガラスの結露は、ガラス1枚で温度が大きく変わることが原因です。とくに暖房した部屋で鍋でも食べれば、その部屋の水蒸気量は増大し、相対湿度は高くなります。例えば、部屋は20℃/68%RHであっても、黄丸で囲みますように、16.5℃以下になれば、結露します。 外はもっと寒いでしょうから、ガラス面はあっという間に結露します。結露現象は窓ガラスと同様に、塗装時でなくても、季節を問わずどこでも起きますから、自然現象を肌で感じるようになりましょう。図1-17に塗装現場で起きた被塗物(プライマー塗装鋼管)面の結露現象を示します。 冬場夜半の冷え込みで、鋼管は低温になっていました。早朝に雨が降り、急に天気が良くなり、気温が上昇しました。鋼管は熱容量が大きく、直ぐには雰囲気温度にはなれず、鋼管表面の空気から水が発生しました。冬なのに何だかじめっとした気持ちの悪い空気でした。こんな時には結露に注意しましょう。

図1-17 被塗物(プライマー塗装鋼管)表面で発生した結露現象
『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次
第1章 塗料・塗膜の白化現象
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1-1白く見えるとはどんなこと塗装面に現れる白化には水分が関与して、発生することが多々あります。
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1-2散乱強度と隠ぺい力前回の図1-4は白黒がはっきりした良い結果でした。ポリマーと屈折率の差が小さいCaCO3粒子を分散させた塗膜は粒子/ポリマー界面で可視光線の多くは
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1-3隠ぺい力に関する話題実際の塗装作業においては、図1-10(b)に示すように、下地が透けるため何回も上塗りをしたことがあります。
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1-4塗装時に白化する現象とその解析 (1) 結露の発生高温多湿な梅雨時にスプレー塗装をすると、かすみがかかったように白くぼけてつやが無くなることがあります。
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1-5塗装時に白化する現象とその解析 (2) 結露の防止結露とは空気中から水分が抽出される現象だと理解しました。
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1-6水性塗料の白化現象とその対策木工用の水性ボンドは身の回りの接着剤としてよく使用されています。
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1-7木工塗装テーブル面の白いシミ(1)前回までは塗装時や塗装過程での白化現象を取り上げましたが、今回と次回は我が家で起きた木工テーブル面の白化現象を取り上げます。
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1-8白いシミの原因とは白化機構を示した前回の図1-30に妥当性があるかどうかを見極めたいと思います。
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1-9白いシミの再現と解析実験前回示した図1-35の結果についてコメントすると次のようになります。
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1-10白いシミの対策法質問(30)前回のQ&Aを読んでいると、白化の原因は塗膜中へ侵入した水がZn粒子/バインダー界面へ偏析することであり、白化にはガラス転移温度Tgの影響が大きく、
第2章 塗料と塗装のことはじめ
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2-1塗料の必要条件と分類法第1章では塗料・塗装分野で見られる白化という欠陥現象を取り上げ、原因と対策を話してきたのに、第2章で何故「ことはじめ」になるのですか。
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2-2塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化前回から持ち越した (1)塗料の形態による分類、(4)塗膜なってからの分類法について解説してください。
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2-3自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(1)質問(10) 本章に対する著者の考え方については、既報2.1に示す答え(1)で示されていますが、いきなり自動車補修塗装とは、入門者にとって何だか難しい応用問題を与えられたようです。
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2-4自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(2)質問(20) フェンダー部打痕部の板金修正が終わったら、次はどうするのですか。答え(20) 打痕部面積の5倍程度大きく塗膜をはがし、鋼板素地を露出させます。
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2-5自動車補修塗装工程について(1)今回も自補修塗装を取り上げます。板金修正で凹んだ箇所を引張り出し(既報図2-20)、塗膜をはく離した鋼板露出面(既報図2-22)からスタートします。
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2-6自動車補修塗装工程について(2)前回は、ポリパテ付け作業で終了しています。図2-11に示すStep3とは、パテ付け面の研磨までを指します。パテ付け、研磨作業までが元の板金面に復活させる成形作業になります。
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2-7自動車補修塗装工程について(3)前回は、Step4(図2-11参照)のプラサフ塗装とその研磨について解説しました。その中で、ブツ除去時やパテ研磨時にできる小穴を見逃さないためのガイドコートの使い方を説明しました。
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2-8自動車補修塗装工程について(4)前回は、上塗りのブロック塗りとスポット塗りについて説明しました。ほとんどの場合、上塗りにはクリヤが塗装されます。
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2-9スプレーガン-名手への道(1) ガンの基礎知識車の補修塗装ではスプレーガンの技能が大切だと言うことを理解できたと思います。
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2-10スプレーガン-名手への道(2) ガンを使いこなすStep既報2.5〜2.7に示した車の補修塗装で、プラサフ塗装を始め、ボカシ塗り技法を含めたスプレーガンによる塗装技術を紹介しましたが、実際にどのようにやれば良いのか分からなかったと思います。
第3章 いろいろな塗り方
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3-1塗装方法を知ろう建築現場における塗装作業に注目すると、図3-1に示すように外壁を仕上げるのに、窓枠の養生をしている人、ローラ塗りをしている人、吹付け作業をしている人など様々です。
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3-2液膜転写法塗装方法を大別すると、図3-4に示すように、塗料を直接、被塗物に移行する直接法と、微粒子の霧にして移行する噴霧法になります。
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3-3直接法 はけ塗り前報の図3-4に示したように、塗装方法は直接法と噴霧法に大別されます。高速塗装に適する方式は、直接法の液膜転写法です。今回、紹介する方法は直接法で工具を介して塗る刷毛塗りとローラー塗りを取り上げます。
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3-4直接法 はけ塗り刷毛の代表例を図3-13に示します。5)塗料の種類、塗り面積等に応じて適切なはけを選びます。一般に合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では硬い毛(黒い馬毛)のずんどう刷毛を、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白い羊毛)のすじかい刷毛を用います。
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3-5直接法 ローラー塗りローラー塗りは刷毛塗りと工具が違うだけで、塗り方の基本は刷毛塗りと同じです。仕上がり面の平滑性は、はけ塗りに劣りますが、住宅の壁などの広い面積を塗るのに適しており、作業スピードは刷毛塗りに比べて3倍程度大きいようです。
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3-6直接法 浸せき塗り、しごき塗り浸せき塗りは、次に示す2方式に大別されます。1つ目は、塗料槽に被塗物をどっぷり浸け、引き上げて乾燥させるDipping方式(浸せき塗り、ジャブ漬け塗りなど)です。2つ目は、被塗物に塗料を押し込むしごき塗りです。
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3-7電着法 電着塗装の原理電気化学をベースとする塗装法が電着塗装です。水の電気分解を理解すれば、電着塗装の原理がわかります。
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3-8電着法 前処理工程−化成被膜自動車に代表される工業塗装では、電着塗装を行う前に、前処理として、洗浄・脱脂・化成皮膜処理が行われます。
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3-9電着法 電着塗装工程電着塗装装置の構成は一般的に次のようになります。
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3-10噴霧法 静電気と静電塗装スプレーガンによる微粒化の原理とガンの使い方に付いては、第2章 2.9と2.10スプレーガン名手への道で解説しました。本節では、噴霧塗装に静電気を利用すると、塗着効率が2倍以上も増大すると言う話を紹介します。
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3-11噴霧法 静電スプレーと塗料の電気抵抗値前回、静電スプレーは雷と同じ原理を利用していることを説明しましたが、液体塗料の電気抵抗値が静電スプレー作業において、どのような影響を及ぼすかについては言及しませんでした。
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3-12噴霧法 粉体塗料の塗り方塗料メーカーは粉体塗料を平均粒径30-40μmに調製して、供給しています。液体塗料をこの程度の噴霧粒子にするためには空気霧化だけでは不十分で、遠心力で液体分子を引きちぎったりしなければなりません。
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3-13噴霧法 粉体塗料の塗り方(つづき)今回は電界内を大量に移動しているフリーイオンの挙動に焦点を当て、塗装作業との関連について説明した後、コロナ放電式以外の塗り方について説明します。
第4章 塗料のルーツと変遷
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4-1塗料のルーツについて準備中
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4-2塗料の変遷 紀元後〜江戸時代の塗料準備中
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4-3塗料の変遷 油の基礎知識について準備中
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4-4塗料の変遷 油性調合ペイント@準備中
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4-5塗料の変遷 油性調合ペイントA準備中
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4-6塗料の変遷 旧岩崎邸の塗膜層の分析準備中
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4-7塗料の変遷 旧岩崎邸の復元塗装工事準備中
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4-8塗料の変遷 「ペンキ」という言葉の響き準備中
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4-9塗料の変遷 合成樹脂の開発と塗料技術@準備中
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4-10塗料の変遷 合成樹脂の開発と塗料技術A準備中
第5章 はがれ現象
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5-1くっつく力とは準備中
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5-2なぜ、はがれるのか準備中
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5-3はがれ強さの試験法準備中
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5-4層間はく離準備中
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5-5はがれ事例(1)準備中
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5-6はがれ事例(2)準備中
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5-7はがれる力準備中
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5-8はがれ事例その1準備中
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5-9はがれ事例 その2準備中
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5-10塗料の表示に関する用語や意味など準備中