工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-2 塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化

質問(6)

前回から持ち越した (1)塗料の形態による分類、(4)塗膜なってからの分類法(図2-4)について解説してください。

答え(6)

了解です。塗料は図2-6に示すように、ビヒクルの主成分である樹脂の形態から液状と粉末状塗料に分けられます。1)溶剤型、無溶剤型、分散型塗料は共に液体状態を保っていますが、図中(a),(b),(c)のように樹脂分子鎖が溶媒中に溶けているか、(d),(e)のように粒子として存在しているかが両者の違いです。それでは、以下に各々の特徴を述べます。

ただし、上塗りがソリッドカラーならば、ブロック塗りを選びます。上塗りがメタリックか、パール仕上げならばこれらの上塗りベースをスポットで塗り、クリヤをブロック塗りにします。

溶剤型塗料-図2-6(a)タイプ

溶剤型塗料は樹脂、硬化剤を溶剤に溶解し、顔料等を分散・混合した最も一般的な塗料です。乾燥性、塗装作業性に優れ、均質な塗膜が得られます。溶剤型塗料は塗装時の固形分濃度によって低固形分(約10~40%)、中固形分(約40%~70%)、高固形分(約70%以上)塗料に分けられ、高固形分塗料をハイソリッド塗料と呼びますが、固形分に対する閾値(しきいち)の規定がありません。塗料中のVOC(揮発性有機化合物)が環境問題化する中、いかにしてVOCの排出量を削減するかが塗料技術の最重要課題になっています。

無溶剤型塗料-図2-6(b)タイプ

VOCを含まない液状の塗料で、塗料のすべてが塗膜になる理想的な溶液です。そのためには希釈剤(シンナー)の役目をモノマーが行い、そのモノマーは主成分の樹脂と橋かけ反応をしたり、モノマー同士が重合したりして塗膜を形成します。このタイプの塗料には、スチレンで希釈した不飽和ポリエステル樹脂塗料や、図2-7に示すような分子末端に不飽和基を有するオリゴマー(2-3量体)とアクリル系モノマー(単量体)を主成分とする紫外線硬化塗料(UV塗料と略す)があります。1)UVよりも波長の短い電磁波を照射する電子線硬化塗料(EB塗料と略す)も同類項です。硬化時間が数秒と短い点が特徴です。

水溶性塗料-図2-6(c)タイプ

溶剤を水に置換えた塗料です。電解質を含む水中で樹脂がイオンになれば溶解します。水溶性樹脂からなる塗膜は耐水性能が劣るため、屋外用塗料には一般に、水中で樹脂成分が粒子状に分散している(d)のエマルション塗料を用います。

分散型塗料-図2-6(d)、(e)タイプ

分散型塗料は、図2-8に示すように、主として、エマルション重合でポリマーとなるエマルション塗料と、脂肪族炭化水素系溶剤(溶解力の弱い有機溶剤)中にポリマー粒子が分散している非水分散型塗料(NAD塗料と略す)に大別できます。1)分散型塗料の特徴はポリマーが粒子として溶媒中に分散していることに起因し、1)ポリマーの分子量が増大しても低粘度であること、2)粒子の連結により構造粘性の付与が容易です。

エマルション塗料は一般に、水に溶けないポリマー粒子が界面活性剤で覆われている水中油滴型(O/W,Oil in Water)になっており、水で希釈したり、洗浄できる水性塗料です。塗装作業性や粒子の融着をしやすくするために少量の有機溶剤を添加します。牛乳・マヨネーズもO/W型エマルションです。

一方、漆はウルシオールと言う油の中に酵素やゴム質を含んだ水溶性多糖類が粒子として分散している油中水滴型(W/O)エマルションです。バター・マーガリンも漆と同じW/O型エマルションです。NAD塗料は油性分散型塗料ですが、エマルション塗料ではありません。油性分散粒子が油性溶媒中にOil in Oil型に存在するからです。

NAD塗料は大気汚染を防ぐ見地から、光化学スモッグの原因物質である芳香族炭化水素(B-ベンゼン、T-トルエン、X-キシレンなど)の排出を抑えるために開発されました。図2-6(e)に示すように、ポリマー粒子の外側にあるヒゲの部分のみが溶媒である溶解力の弱い脂肪族炭化水素(石油類)に溶解して、分散粒子を安定に保っています。NAD塗料の主用途は建築塗装用で、弱溶剤塗料と表示されています。ポリマー粒子を設計するミクロゲルの考えと安定化剤であるヒゲの部分の分子設計から高付加価値のある樹脂を合成することができ、新車用上塗りクリヤを初め、機能性塗料として多方面に開発されてきました。塗料技術の“すご技”を見ることができます。2,3)

粉体塗料-図2-6

固形樹脂と顔料を溶融混練し、数10μm程度の粒径になるよう微粉砕した粉状の塗料です。粉体塗料では塗料そのものの凝集がなく、塗膜外観が良好な塗料を得ることが課題の一つです。このほか、道路標示用塗料の中に、粉体塗料として製造、輸送され、現場で加熱溶融して吹付けられるホットメルトタイプの塗料があります。粉体として供給されるために粉体塗料に分類されます。

 

質問(7)

次に、(4)塗膜なってからの分類法(図2-4)について説明してください。

答え(7)

固化したら、全ての塗料はチョコとクッキータイプの2種類のみに分類できます。チョコとクッキーは年齢層を問わず好まれるお菓子ですが、両者の違いは加熱した時に明らかです。加熱すると、チョコはどろどろの流動状態になりますが、クッキーは流動せず、どんどん高温にしても焦げ付くだけです。初めは同じ液体であった塗料がどうしてチョコとクッキーになるのでしょうか?図2-9に示すモデル図を見ながら考えてください。

 

質問(8)

反対に質問をされましたね。流動するかしないかは塗膜の構造というか、性質に依存すると思いますが、どうも上手く説明できません。図2-9の(a)、(b)を見ると、(a)では溶剤蒸発のみでチョコになっており、(b)では主剤と硬化剤が化学反応してクッキーになっています。乾燥・硬化過程がKey pointだと思います。

答え(8)

そう、ズバリです。塗膜形成過程で、樹脂の分子量が増大するかどうかです。チョコタイプの塗膜になる塗料は溶剤蒸発による乾燥のみで塗膜(固体)になります。樹脂の分子量は乾燥前後で変化しません。よって、塗膜になっても再び溶剤に溶解し、液状の塗料になります。化粧品のネイルエナメルはチョコタイプの塗料です。速乾性で、容易に溶剤で除去できることが特徴です。ラッカーは速乾性塗料の代名詞であり、チョコタイプ塗料の代表例です。

一方、クッキータイプの塗膜になる塗料の多くは2液型塗料(常温硬化)か焼付け型塗料で、図2-9 (b)に示すように、塗装後に塗膜主成分の樹脂同士が化学反応し、樹脂の分子量が増大します。その結果、図2-10に示すようにジャングルジムを形成して物理的に丈夫な塗膜になり、加熱しても強固に結合している分子鎖はばらばらにならず、チョコのように流動しません。樹脂の分子量が増大する化学反応(重合反応)を橋かけ反応と呼ぶことから、橋かけ型、あるいは架橋型塗料と表現します。なお、加熱することと、溶剤で溶解することは、塗膜を形成している樹脂の分子間力を弱めることであり、同じ作用です。

 

質問(9)

図2-9 (c)に示す分散型塗料はチョコとクッキータイプの両方の塗膜形成ができると示されていますが、図を見ている限りではポリマー粒子が接近し、融着してチョコになるようにしか想像できません。クッキーになる場合、化学反応はどこで起きるのでしょうか。

答え(9)

そうですね。クッキータイプの塗膜になる塗料は粒子の融着過程、あるいは融着後の焼付けで化学反応(橋かけ反応)が起こります。反応型エマルションと表示されている塗料は粒子の融着過程で樹脂同士が化学反応をして、常温でクッキー(橋かけ塗膜)になります。

 

〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.38,88 (2016)
(2)奴間伸茂:日本ゴム協会誌, Vol.64, p.410 (1991); Vol.65, p.614 (1992)
(3)坂野珠江、奴間伸茂、藤谷俊英:塗料の研究, No.133, Oct. p.18 (1999)
執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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