工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座  塗料をより深く理解するために 5-9 塗料用樹脂のはなし(6)アクリル樹脂

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-9 塗料用樹脂のはなし(6)アクリル樹脂

公開日:2025年11月10日 | 最終更新日:2025年11月10日

4.アクリル樹脂塗料の設計

4.2 2液型(形)アクリルウレタン樹脂塗料の配合

  著者は2液型塗料と書きたいが、JIS用語では2液形となっているので、決断しにくい。本報では2液型に統一する。
ポリオールの典型的な橋かけ反応は図5-51に示すように、常温タイプのウレタン硬化と焼付けタイプのメラミン硬化であるが、メラミン硬化は後述するように酸性雨に浸食されるので、新硬化方式が提案されている。ウレタン硬化方式では、硬化剤として図5-54に示すイソシアネート(-NCO)化合物が使用される。これらは基本的な硬化剤であり、応用編になるとハードセグメントとソフトセグメントを併せ持つポリウレタンディスパージョンを合成するために必要な-NCO化合物が登場してくる。-NCO化合物をポリイソシアネート、あるいはイソシアネートプレポリマーと呼ぶ。-NCO(イソシアネート基)は反応性が高く、スパンデックスと呼ばれる高弾性繊維から塗料に至るまで広範囲の需要に対応できる。

図5-54 代表的なウレタン用硬化剤(ポリイソシアネート)の基本構造
図5-54 代表的なウレタン用硬化剤(ポリイソシアネート)の基本構造 6)

ポリオールの-OHとイソシアネート化合物の-NCOが付加反応してウレタン結合を形成することが分かったことで塗料・塗膜の性能が大幅に向上した。ポリオールとして、アクリル樹脂が最も多く採用されているが、-OHは各種樹脂に備わっていたり、付与することもできるから、一気にウレタンブームに発展した。ここではアクリル樹脂塗料に限定して解説する。主剤のポリオールと-NCO化合物からなる2液型塗料は常温で硬化反応が生じるから、主剤と硬化剤を別々にして保管する必要がある。それゆえ、2液型塗料と呼ぶ。一方、焼付け塗料のように90℃以上にならないと化学反応しない塗料は主剤と硬化剤を混合して保管するが、あえて1液型とは呼ばない。


4.2.1 ポリオール(主剤)と-NCO化合物(硬化剤)との反応

  主剤と硬化剤のイソシアネート化合物は図5-55に示すウレタン結合を作って、ジャングルジムを形成する。イソシアネート基(-NCO)は活性なため活性水素を有する化合物と、良く反応する。-NCOが活性な理由と活性水素との反応性の順位を図5-55にまとめて示す。

図5-55 ウレタン結合の生成と-NCOの反応性
図5-55 ウレタン結合の生成と-NCOの反応性

とりわけ、硬化時の湿度の影響が大きく、図5-56に示すように、高湿度下では-NCOがカルバミン酸に変化するが、不安定なためCO2を発生し、アミン化合物になってしまう。このアミンは1級アミンゆえ、-NCOと直ちに反応し、70℃/95%RHでは、-NCOの約80%は尿素結合になり、ウレタン結合は20%程度しか生成しない9)。その結果、塗膜は多孔質で脆くなってしまう。一方、低湿度下では、-NCOの約85%がウレタン結合を形成し、強靱な塗膜になる。図5-56に示す塗膜の破断面観察が橋かけ構造の差異をよく反映している。

図5-53 2液型ポリウレタン塗料の橋かけ反応に及ぼす硬化湿度の影響
図5-56 2液型ポリウレタン塗料の橋かけ反応に及ぼす硬化湿度の影響 9)

4.2.2 -NCO化合物(硬化剤)の-NCO当量の計算法

  図5-54に示す硬化剤(A),(B),(C)には、1分子につき3molの-NCOを有しており、図中(B)に示す硬化剤はHMDIビュレットと呼ばれている。HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のように脂肪族の-NCO化合物で橋かけさせると、その塗膜は紫外線照射により黄変しない(無黄変)。一方、図の脚注に示すXMDI(キシリレンジイソシアネート)で橋かけさせると主鎖中にベンゼン環を有する塗膜になるから経時で黄変してくる。黄変タイプと呼ばれている。エポキシ樹脂塗膜も主鎖中にベンゼン環を有するから経時で黄変する。図中の硬化剤はいずれもクリヤー溶液であり、ワニスと呼ばれる。ココでは、硬化剤(B)の-NCO当量の求め方を説明する。以降、硬化剤(B)については、Bワニスと表記する。Bワニスは固形分(NV)75%で、NCO含有量が16.5 (wt%)である。Bワニス100g中に-NCOは16.5g存在する。
-NCO のモル質量は原子量の和であるから、(N14+C12+O16 =) 42となる。Bワニス100g 中には、-NCOが 16.5/ 42 ≒ 0.39 mol存在する。では、Bワニス1g中に含まれる-NCOのモル数M1(mol/g)は次式で計算できる。

  • M1 = 0.39 / 100   (8)

  -NCO 当量とは、-NCOを1mol配合するために必要なBワニスの質量であり、(8)式の逆数が-NCO 当量になるから、(9)式で計算できる。

  • -NCO 当量= 1 / M1 = 255 (g/mol)   (9)

よって、Bワニスを255g配合すれば、この中には1 molの-NCOが存在する。一方、ポリオールは酢酸ブチル中でラジカル重合により合成され、固形分(NV)50%の溶液に調製済みだと仮定する。前報(図5-52)で示したように、モノマー組成から計算した固形分100%の-OH当量は565(g/mol)であるから、NV50%の溶液の-OH当量は1130g/molになる。この主剤とBワニスを用いる2液型塗料の当量配合は255/1130 = 22.6/100 で与えられ、主剤100gにBワニスを22.6g配合すれば当量配合(当量比1.0)となる。ココで、当量比とは、(-NCOのモル数/-OHのモル数)である。塗料缶や取説に4:1(主剤100gに硬化剤25g)で混合してくださいと表示したい時、どうしたら良いか。ココで、硬化剤の固形分が必要になる。主剤100gに対してNV75%のBワニスの必要量は22.6gであり、固形分重量は17.0gである。2つのケースを紹介する。

  1. (1) Bワニスに手を加えない場合
    Bワニスを22.6g→25.0gに増量した場合、当量比は1.11となり、当量配合の当量比1.0よりも僅かにBワニスが多い程度で、塗膜物性には影響がない範囲であるから、主剤100gに硬化剤25.0gを混合して使用する。
  2. (2) Bワニスを希釈する場合
    Bワニス25.0gが当量比1.0になるためには、 Bワニスを希釈してNV75%→68%にすればよい。 Bワニス100gに溶剤である酢酸ブチルを11g加えるとNV68%になる。このようにBワニスの固形分を変化させることで配合の正確性が向上したり、混合範囲(2:1、1:1)を拡大できる。

4.3 2液型ポリウレタン樹脂塗膜の橋かけ密度に及ぼす当量比の影響

  2液型エポキシ樹脂塗膜と同様に橋かけ密度と当量比rとの関係を調べた。図5-52に示すポリオールと図5-54に示す硬化剤(B)を使用して、当量比r(-NCOのモル数/-OHのモル数)を一連に変えた塗膜を調製し(硬化条件:低湿度RH0%で、70℃/24時間)、引張り試験を行った。それら塗膜の応力~ひずみ曲線を図5-57に示す。当量比 r=0.8~1.2の塗膜はほぼ近似しているが、r =1.6と硬化剤を過剰に配合すると、その塗膜は硬くて脆くなり、r =0.6と硬化剤が不足すると軟弱になった。同様に、当量比r を一連に変えた塗膜をキシレン中に浸漬させ、膨潤度(Q)と溶出度(S)を測定した。結果を図5-58に示す。r =1.0付近で、Q、S値は極小を示した。

図5-57  2液型アクリルウレタン樹脂塗膜の応力~ひずみ曲線に及ぼす当量比rの影響
図5-57 2液型アクリルウレタン樹脂塗膜の応力~ひずみ曲線に及ぼす当量比rの影響 10)
図5-58  2液型アクリルウレタン樹脂塗膜の膨潤度、溶出度に及ぼす当量比rの影響
図5-58 2液型アクリルウレタン樹脂塗膜の膨潤度、溶出度に及ぼす当量比rの影響 10)

恐らく、橋かけ反応による網目密度が極大になったからであろう。r =1.6塗膜では、Q、S値が著しく大きくなっていた。橋かけ反応していない硬化剤が塗膜からキシレンへ溶出したり、塗膜が膨潤していると考えられる。応力~ひずみ曲線の結果も総合して考えると、r=1.0±0.2程度の範囲内であれば、実用的な塗膜性能はほぼ同様であるが、この範囲を超えると、期待する塗膜性能が得られない。よって、2液型ポリウレタン樹脂塗膜では、当量比r = 1.0となるように、主剤と硬化剤を正確に秤量することが大切である。10)このように、動的粘弾性の測定装置がない場合でも、塗膜の橋かけ密度を膨潤度や溶出度から評価できる。


4.4 メラミン樹脂系焼付け硬化塗料の耐酸性雨性改良について

  焼付けアクリル樹脂塗料の原料組成について説明した後に、耐酸性雨性を改良した橋かけ反応について紹介する。図5-59(a)に示すメラミン樹脂とポリオール(アクリル、短油性アルキド、ポリエステル樹脂)を混合し(メラミン樹脂濃度20~30wt%)、100℃以上に焼付け(加熱)することによってクッキー塗膜を形成させることができる。これらを総称して、メラミン樹脂系焼付け塗料と呼ぶ。

図5-59  メラミン樹脂系焼付け塗料の硬化反応
図5-59 メラミン樹脂系焼付け塗料の硬化反応 6)

短油性アルキド樹脂と混合した塗料をアミノアルキド樹脂塗料、アクリル樹脂と混合した塗料を焼付けアクリル樹脂塗料と呼んでいる。橋かけの主反応は、ポリオールの-OHとメラミン樹脂のメチロール基(-CH2OH)によるエーテル結合の生成である。橋かけ反応を図5-59(b)に示す。一般に焼付け温度は120~150℃で、焼付け時間20~30分であるが、ライン速度が50m/min以上の高速PCM(プレコートメタル)塗装では焼付け条件を220℃/10s程度にしている。

図5-60  酸性雨による塗膜への浸食
図5-60 酸性雨による塗膜への浸食 11)

  塗膜はエーテル結合による架橋で物理的な強度が良好で、トリアジン環を有しているから、耐熱性と耐薬品性が向上する。しかも、トリアジン環は紫外線に対して安定であるから,メラミン樹脂系塗膜は自動車・家電品をはじめ,プレコート鋼板などといった焼付け可能な金属製品の中塗り,上塗りに多く採用されており、工業塗装ではトップの座を50年以上も維持してきた。しかし、近年、酸性雨の出現で、塗膜は浸食されることがわかった。水滴境界部の塗膜の浸食状態を図5-60に示す11)。塗膜の浸食は、エーテル結合の加水分解反応によるものと解析できた。この対策として、メラミン樹脂のエーテル架橋から図5-61に示すウレタン架橋12)やカルボン酸-エポキシ架橋に転換することにより、耐酸性雨性が明らかに向上した。

図5-61 メラミン樹脂とカーバメート基からウレタン結合を作る硬化反応
図5-61 メラミン樹脂とカーバメート基からウレタン結合を作る硬化反応 12)

〔謝辞〕図5-60の写真を提供していただき、さらに討論を通じ、ご指導を頂いた本田康史様に心からお礼申し上げます。

執筆: 坪田 実

〔参考・引用文献〕
1) J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2) 中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3) 中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4) 平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5) 北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6) 坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, p.57, p.65-70, p.76-77, p.93-109, p.111, p.298-299, 秀和システム (2016)
7) 木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8) 垣内弘 編著:”新エポキシ樹脂“, 昭晃堂, 585-621 (1985)
9) 坪田実, 富田久和, 本田省吾, 植木憲二: J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.56, No.3, p.135-142 (1983)
10)坪田 実, 富田久和:塗装工学, Vol.25, No.2, 85-93(1990
11)本田康史:“第54回塗料入門講座”講演スライドより引用, 色材協会 関東支部 塗料部会 (2013)
12)Marvin L. Green:Journal of Coatings Technology, Vol.73, No.918 (2001)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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