塗料・塗装の何でも質問講座
5-9 塗料用樹脂のはなし(6)アクリル樹脂
4.アクリル樹脂塗料の設計
4.2 2液型(形)アクリルウレタン樹脂塗料の配合
著者は2液型塗料と書きたいが、JIS用語では2液形となっているので、決断しにくい。本報では2液型に統一する。
ポリオールの典型的な橋かけ反応は図5-51に示すように、常温タイプのウレタン硬化と焼付けタイプのメラミン硬化であるが、メラミン硬化は後述するように酸性雨に浸食されるので、新硬化方式が提案されている。ウレタン硬化方式では、硬化剤として図5-54に示すイソシアネート(-NCO)化合物が使用される。これらは基本的な硬化剤であり、応用編になるとハードセグメントとソフトセグメントを併せ持つポリウレタンディスパージョンを合成するために必要な-NCO化合物が登場してくる。-NCO化合物をポリイソシアネート、あるいはイソシアネートプレポリマーと呼ぶ。-NCO(イソシアネート基)は反応性が高く、スパンデックスと呼ばれる高弾性繊維から塗料に至るまで広範囲の需要に対応できる。
ポリオールの-OHとイソシアネート化合物の-NCOが付加反応してウレタン結合を形成することが分かったことで塗料・塗膜の性能が大幅に向上した。ポリオールとして、アクリル樹脂が最も多く採用されているが、-OHは各種樹脂に備わっていたり、付与することもできるから、一気にウレタンブームに発展した。ここではアクリル樹脂塗料に限定して解説する。主剤のポリオールと-NCO化合物からなる2液型塗料は常温で硬化反応が生じるから、主剤と硬化剤を別々にして保管する必要がある。それゆえ、2液型塗料と呼ぶ。一方、焼付け塗料のように90℃以上にならないと化学反応しない塗料は主剤と硬化剤を混合して保管するが、あえて1液型とは呼ばない。
4.2.1 ポリオール(主剤)と-NCO化合物(硬化剤)との反応
主剤と硬化剤のイソシアネート化合物は図5-55に示すウレタン結合を作って、ジャングルジムを形成する。イソシアネート基(-NCO)は活性なため活性水素を有する化合物と、良く反応する。-NCOが活性な理由と活性水素との反応性の順位を図5-55にまとめて示す。
とりわけ、硬化時の湿度の影響が大きく、図5-56に示すように、高湿度下では-NCOがカルバミン酸に変化するが、不安定なためCO2を発生し、アミン化合物になってしまう。このアミンは1級アミンゆえ、-NCOと直ちに反応し、70℃/95%RHでは、-NCOの約80%は尿素結合になり、ウレタン結合は20%程度しか生成しない9)。その結果、塗膜は多孔質で脆くなってしまう。一方、低湿度下では、-NCOの約85%がウレタン結合を形成し、強靱な塗膜になる。図5-56に示す塗膜の破断面観察が橋かけ構造の差異をよく反映している。
4.2.2 -NCO化合物(硬化剤)の-NCO当量の計算法
図5-54に示す硬化剤(A),(B),(C)には、1分子につき3molの-NCOを有しており、図中(B)に示す硬化剤はHMDIビュレットと呼ばれている。HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のように脂肪族の-NCO化合物で橋かけさせると、その塗膜は紫外線照射により黄変しない(無黄変)。一方、図の脚注に示すXMDI(キシリレンジイソシアネート)で橋かけさせると主鎖中にベンゼン環を有する塗膜になるから経時で黄変してくる。黄変タイプと呼ばれている。エポキシ樹脂塗膜も主鎖中にベンゼン環を有するから経時で黄変する。図中の硬化剤はいずれもクリヤー溶液であり、ワニスと呼ばれる。ココでは、硬化剤(B)の-NCO当量の求め方を説明する。以降、硬化剤(B)については、Bワニスと表記する。Bワニスは固形分(NV)75%で、NCO含有量が16.5 (wt%)である。Bワニス100g中に-NCOは16.5g存在する。
-NCO のモル質量は原子量の和であるから、(N14+C12+O16 =) 42となる。Bワニス100g 中には、-NCOが 16.5/ 42 ≒ 0.39 mol存在する。では、Bワニス1g中に含まれる-NCOのモル数M1(mol/g)は次式で計算できる。
- M1 = 0.39 / 100 (8)
-NCO 当量とは、-NCOを1mol配合するために必要なBワニスの質量であり、(8)式の逆数が-NCO 当量になるから、(9)式で計算できる。
- -NCO 当量= 1 / M1 = 255 (g/mol) (9)
よって、Bワニスを255g配合すれば、この中には1 molの-NCOが存在する。一方、ポリオールは酢酸ブチル中でラジカル重合により合成され、固形分(NV)50%の溶液に調製済みだと仮定する。前報(図5-52)で示したように、モノマー組成から計算した固形分100%の-OH当量は565(g/mol)であるから、NV50%の溶液の-OH当量は1130g/molになる。この主剤とBワニスを用いる2液型塗料の当量配合は255/1130 = 22.6/100 で与えられ、主剤100gにBワニスを22.6g配合すれば当量配合(当量比1.0)となる。ココで、当量比とは、(-NCOのモル数/-OHのモル数)である。塗料缶や取説に4:1(主剤100gに硬化剤25g)で混合してくださいと表示したい時、どうしたら良いか。ココで、硬化剤の固形分が必要になる。主剤100gに対してNV75%のBワニスの必要量は22.6gであり、固形分重量は17.0gである。2つのケースを紹介する。
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(1) Bワニスに手を加えない場合
Bワニスを22.6g→25.0gに増量した場合、当量比は1.11となり、当量配合の当量比1.0よりも僅かにBワニスが多い程度で、塗膜物性には影響がない範囲であるから、主剤100gに硬化剤25.0gを混合して使用する。 -
(2) Bワニスを希釈する場合
Bワニス25.0gが当量比1.0になるためには、 Bワニスを希釈してNV75%→68%にすればよい。 Bワニス100gに溶剤である酢酸ブチルを11g加えるとNV68%になる。このようにBワニスの固形分を変化させることで配合の正確性が向上したり、混合範囲(2:1、1:1)を拡大できる。
4.3 2液型ポリウレタン樹脂塗膜の橋かけ密度に及ぼす当量比の影響
2液型エポキシ樹脂塗膜と同様に橋かけ密度と当量比rとの関係を調べた。図5-52に示すポリオールと図5-54に示す硬化剤(B)を使用して、当量比r(-NCOのモル数/-OHのモル数)を一連に変えた塗膜を調製し(硬化条件:低湿度RH0%で、70℃/24時間)、引張り試験を行った。それら塗膜の応力~ひずみ曲線を図5-57に示す。当量比 r=0.8~1.2の塗膜はほぼ近似しているが、r =1.6と硬化剤を過剰に配合すると、その塗膜は硬くて脆くなり、r =0.6と硬化剤が不足すると軟弱になった。同様に、当量比r を一連に変えた塗膜をキシレン中に浸漬させ、膨潤度(Q)と溶出度(S)を測定した。結果を図5-58に示す。r =1.0付近で、Q、S値は極小を示した。
恐らく、橋かけ反応による網目密度が極大になったからであろう。r =1.6塗膜では、Q、S値が著しく大きくなっていた。橋かけ反応していない硬化剤が塗膜からキシレンへ溶出したり、塗膜が膨潤していると考えられる。応力~ひずみ曲線の結果も総合して考えると、r=1.0±0.2程度の範囲内であれば、実用的な塗膜性能はほぼ同様であるが、この範囲を超えると、期待する塗膜性能が得られない。よって、2液型ポリウレタン樹脂塗膜では、当量比r = 1.0となるように、主剤と硬化剤を正確に秤量することが大切である。10)このように、動的粘弾性の測定装置がない場合でも、塗膜の橋かけ密度を膨潤度や溶出度から評価できる。
4.4 メラミン樹脂系焼付け硬化塗料の耐酸性雨性改良について
焼付けアクリル樹脂塗料の原料組成について説明した後に、耐酸性雨性を改良した橋かけ反応について紹介する。図5-59(a)に示すメラミン樹脂とポリオール(アクリル、短油性アルキド、ポリエステル樹脂)を混合し(メラミン樹脂濃度20~30wt%)、100℃以上に焼付け(加熱)することによってクッキー塗膜を形成させることができる。これらを総称して、メラミン樹脂系焼付け塗料と呼ぶ。
短油性アルキド樹脂と混合した塗料をアミノアルキド樹脂塗料、アクリル樹脂と混合した塗料を焼付けアクリル樹脂塗料と呼んでいる。橋かけの主反応は、ポリオールの-OHとメラミン樹脂のメチロール基(-CH2OH)によるエーテル結合の生成である。橋かけ反応を図5-59(b)に示す。一般に焼付け温度は120~150℃で、焼付け時間20~30分であるが、ライン速度が50m/min以上の高速PCM(プレコートメタル)塗装では焼付け条件を220℃/10s程度にしている。
塗膜はエーテル結合による架橋で物理的な強度が良好で、トリアジン環を有しているから、耐熱性と耐薬品性が向上する。しかも、トリアジン環は紫外線に対して安定であるから,メラミン樹脂系塗膜は自動車・家電品をはじめ,プレコート鋼板などといった焼付け可能な金属製品の中塗り,上塗りに多く採用されており、工業塗装ではトップの座を50年以上も維持してきた。しかし、近年、酸性雨の出現で、塗膜は浸食されることがわかった。水滴境界部の塗膜の浸食状態を図5-60に示す11)。塗膜の浸食は、エーテル結合の加水分解反応によるものと解析できた。この対策として、メラミン樹脂のエーテル架橋から図5-61に示すウレタン架橋12)やカルボン酸-エポキシ架橋に転換することにより、耐酸性雨性が明らかに向上した。
〔謝辞〕図5-60の写真を提供していただき、さらに討論を通じ、ご指導を頂いた本田康史様に心からお礼申し上げます。
〔参考・引用文献〕
1) J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2) 中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3) 中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4) 平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5) 北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6) 坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, p.57, p.65-70, p.76-77, p.93-109, p.111, p.298-299, 秀和システム (2016)
7) 木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8) 垣内弘 編著:”新エポキシ樹脂“, 昭晃堂, 585-621 (1985)
9) 坪田実, 富田久和, 本田省吾, 植木憲二: J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.56, No.3, p.135-142 (1983)
10)坪田 実, 富田久和:塗装工学, Vol.25, No.2, 85-93(1990
11)本田康史:“第54回塗料入門講座”講演スライドより引用, 色材協会 関東支部 塗料部会 (2013)
12)Marvin L. Green:Journal of Coatings Technology, Vol.73, No.918 (2001)
『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次
第1章 塗料・塗膜の白化現象
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1-1白く見えるとはどんなこと塗装面に現れる白化には水分が関与して、発生することが多々あります。
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1-2散乱強度と隠ぺい力前回の図1-4は白黒がはっきりした良い結果でした。ポリマーと屈折率の差が小さいCaCO3粒子を分散させた塗膜は粒子/ポリマー界面で可視光線の多くは
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1-3隠ぺい力に関する話題実際の塗装作業においては、図1-10(b)に示すように、下地が透けるため何回も上塗りをしたことがあります。
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1-4塗装時に白化する現象とその解析 (1) 結露の発生高温多湿な梅雨時にスプレー塗装をすると、かすみがかかったように白くぼけてつやが無くなることがあります。
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1-5塗装時に白化する現象とその解析 (2) 結露の防止結露とは空気中から水分が抽出される現象だと理解しました。
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1-6水性塗料の白化現象とその対策木工用の水性ボンドは身の回りの接着剤としてよく使用されています。
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1-7木工塗装テーブル面の白いシミ(1)前回までは塗装時や塗装過程での白化現象を取り上げましたが、今回と次回は我が家で起きた木工テーブル面の白化現象を取り上げます。
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1-8白いシミの原因とは白化機構を示した前回の図1-30に妥当性があるかどうかを見極めたいと思います。
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1-9白いシミの再現と解析実験前回示した図1-35の結果についてコメントすると次のようになります。
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1-10白いシミの対策法質問(30)前回のQ&Aを読んでいると、白化の原因は塗膜中へ侵入した水がZn粒子/バインダー界面へ偏析することであり、白化にはガラス転移温度Tgの影響が大きく、
第2章 塗料と塗装のことはじめ
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2-1塗料の必要条件と分類法第1章では塗料・塗装分野で見られる白化という欠陥現象を取り上げ、原因と対策を話してきたのに、第2章で何故「ことはじめ」になるのですか。
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2-2塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化前回から持ち越した (1)塗料の形態による分類、(4)塗膜なってからの分類法について解説してください。
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2-3自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(1)質問(10) 本章に対する著者の考え方については、既報2.1に示す答え(1)で示されていますが、いきなり自動車補修塗装とは、入門者にとって何だか難しい応用問題を与えられたようです。
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2-4自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(2)質問(20) フェンダー部打痕部の板金修正が終わったら、次はどうするのですか。答え(20) 打痕部面積の5倍程度大きく塗膜をはがし、鋼板素地を露出させます。
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2-5自動車補修塗装工程について(1)今回も自補修塗装を取り上げます。板金修正で凹んだ箇所を引張り出し(既報図2-20)、塗膜をはく離した鋼板露出面(既報図2-22)からスタートします。
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2-6自動車補修塗装工程について(2)前回は、ポリパテ付け作業で終了しています。図2-11に示すStep3とは、パテ付け面の研磨までを指します。パテ付け、研磨作業までが元の板金面に復活させる成形作業になります。
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2-7自動車補修塗装工程について(3)前回は、Step4(図2-11参照)のプラサフ塗装とその研磨について解説しました。その中で、ブツ除去時やパテ研磨時にできる小穴を見逃さないためのガイドコートの使い方を説明しました。
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2-8自動車補修塗装工程について(4)前回は、上塗りのブロック塗りとスポット塗りについて説明しました。ほとんどの場合、上塗りにはクリヤが塗装されます。
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2-9スプレーガン-名手への道(1) ガンの基礎知識車の補修塗装ではスプレーガンの技能が大切だと言うことを理解できたと思います。
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2-10スプレーガン-名手への道(2) ガンを使いこなすStep既報2.5~2.7に示した車の補修塗装で、プラサフ塗装を始め、ボカシ塗り技法を含めたスプレーガンによる塗装技術を紹介しましたが、実際にどのようにやれば良いのか分からなかったと思います。
第3章 いろいろな塗り方
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3-1塗装方法を知ろう建築現場における塗装作業に注目すると、図3-1に示すように外壁を仕上げるのに、窓枠の養生をしている人、ローラ塗りをしている人、吹付け作業をしている人など様々です。
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3-2液膜転写法塗装方法を大別すると、図3-4に示すように、塗料を直接、被塗物に移行する直接法と、微粒子の霧にして移行する噴霧法になります。
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3-3直接法 はけ塗り前報の図3-4に示したように、塗装方法は直接法と噴霧法に大別されます。高速塗装に適する方式は、直接法の液膜転写法です。今回、紹介する方法は直接法で工具を介して塗る刷毛塗りとローラー塗りを取り上げます。
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3-4直接法 はけ塗り刷毛の代表例を図3-13に示します。5)塗料の種類、塗り面積等に応じて適切なはけを選びます。一般に合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では硬い毛(黒い馬毛)のずんどう刷毛を、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白い羊毛)のすじかい刷毛を用います。
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3-5直接法 ローラー塗りローラー塗りは刷毛塗りと工具が違うだけで、塗り方の基本は刷毛塗りと同じです。仕上がり面の平滑性は、はけ塗りに劣りますが、住宅の壁などの広い面積を塗るのに適しており、作業スピードは刷毛塗りに比べて3倍程度大きいようです。
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3-6直接法 浸せき塗り、しごき塗り浸せき塗りは、次に示す2方式に大別されます。1つ目は、塗料槽に被塗物をどっぷり浸け、引き上げて乾燥させるDipping方式(浸せき塗り、ジャブ漬け塗りなど)です。2つ目は、被塗物に塗料を押し込むしごき塗りです。
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3-7電着法 電着塗装の原理電気化学をベースとする塗装法が電着塗装です。水の電気分解を理解すれば、電着塗装の原理がわかります。
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3-8電着法 前処理工程-化成被膜自動車に代表される工業塗装では、電着塗装を行う前に、前処理として、洗浄・脱脂・化成皮膜処理が行われます。
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3-9電着法 電着塗装工程電着塗装装置の構成は一般的に次のようになります。
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3-10噴霧法 静電気と静電塗装スプレーガンによる微粒化の原理とガンの使い方に付いては、第2章 2.9と2.10スプレーガン名手への道で解説しました。本節では、噴霧塗装に静電気を利用すると、塗着効率が2倍以上も増大すると言う話を紹介します。
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3-11噴霧法 静電スプレーと塗料の電気抵抗値前回、静電スプレーは雷と同じ原理を利用していることを説明しましたが、液体塗料の電気抵抗値が静電スプレー作業において、どのような影響を及ぼすかについては言及しませんでした。
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3-12噴霧法 粉体塗料の塗り方塗料メーカーは粉体塗料を平均粒径30-40μmに調製して、供給しています。液体塗料をこの程度の噴霧粒子にするためには空気霧化だけでは不十分で、遠心力で液体分子を引きちぎったりしなければなりません。
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3-13噴霧法 粉体塗料の塗り方(つづき)今回は電界内を大量に移動しているフリーイオンの挙動に焦点を当て、塗装作業との関連について説明した後、コロナ放電式以外の塗り方について説明します。
第4章 塗料のルーツと変遷
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4-1はじめに執筆中の「塗料・塗装の何でも質問講座」はこの第4章から後半戦に入ります。本講座の終了時点で、読者の皆さんにはペンキのことをよく知ってもらい、風呂場や床などの住環境を塗り替えたり、自分で作った工作物を塗って仕上げるまでになってもらえたら嬉しいなと思います。足場が必要な高所はプロのペンキ屋に任せればよいのです。
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4-2塗料のルーツについてルーツ探しは誰もが興味を持っていますが、塗料・塗装のルーツとはと聞かれると、現代人は“塗料って何だ”と言って、あまり興味を示してくれないでしょう。一方、旧石器時代の方々に身振り手振りで塗料とは液状のもので、指や手にとって、彼方此方に塗るものだと伝えると、ものすごく理解が速いと思います。
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4-3紀元後~飛鳥・奈良時代大沼清利氏は塗料の変遷をバインダー(被膜になる成分で、ビヒクルソリッド)に着目して克明にまとめ、国立科学博物館発行の「技術の系統化調査報告 第15集(2010)」に、“塗料技術発展の系統化調査”として報告しています。
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4-4平安時代(日本最古の黒エナメル)図4-3に示す塗料の歴史の中に、平安時代に武器である楯(たて)と戟(げき)に塗る黒色エナメルの配合表が見つかりました。図4-6に示します。4)日本最古の塗料のレシピと言われています。奈良時代に作られた墨と同様に掃墨と膠が使用されています。
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4-5鎌倉~戦国・南蛮貿易~江戸時代さて、今回も表4-2の続きになりますが、戦国時代から江戸時代における塗料の変遷を追って行きます。戦国時代には出土品や文化財がほとんどなく、歴史的事実だけから塗料・塗装の変遷を探ることになります。仏教伝来後、漆は仏像や寺院建築に使用され発展して行くと同時に、戦国大名の武具にも塗られていたようです。庶民の生活レベルでは、ニカワ(膠)、柿渋が塗料のバインダー(ビヒクル成分)として、使用されていたようです。
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4-6江戸・黒船来航~明治時代イギリスで始まった産業革命と同様な大きな変化は日本では、黒船来航から明治維新にかけて現れます。鎖国が解かれて、政治体制が一気に変わり、鹿鳴館で代表される西洋文明が怒濤のごとく、日本に入ってきました。
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4-7油性塗料時代 洋館旧岩崎邸の塗装片から見た塗料と塗装 1日本における塗料・塗装の変遷は次の様に進んできたと考えられる。A.塗料・塗装のルーツは漆塗りである(表4-1参照)
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4-8油性塗料時代 洋館旧岩崎邸の塗装片から見た塗料と塗装 2前回の図4-10に塗膜断面の解析結果をまとめ、この中に
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4-9ラッカー時代 (その1 木綿と硝化綿)4-7 塗料の変遷(その5) において、日本における塗料の変遷をA~Gのようであると示したが、ココで大きな忘れ物をしてしまった。それは硝化綿ラッカー(以降、NCラッカー)で代表される繊維素系塗料の存在をすっかり見落としたことである。
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4-10ラッカー時代(その2 エアスプレーガンの誕生)日本では、第1次世界大戦後に残った火薬用NCの平和利用から塗料分野にNC(硝化綿、ニトロセルロース)が持ち込まれた。
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4-11合成樹脂塗料時代 (その1 油とはどんな化合物か)本章は終盤を迎えており、今回より数回で、ラッカー時代に開始された工業塗装をさらに発展させた合成樹脂塗料について解説する。
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4-12合成樹脂塗料時代 (その2 OPの塗料配合とSOPへの移行)1940年代から塗料用合成樹脂の代表になった油変性アルキド樹脂を4-12回と4-13回に分割して、紹介する。
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4-13合成樹脂塗料時代 (その3 油を真似た油変性アルキド樹脂)今回ようやく、”油を真似て作られた合成樹脂塗料“の話ができることになり、嬉しい限りである。ところで、油を真似てとは、どんなことかを説明したい。
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4-14合成樹脂塗料の発展連続被膜を形成する樹脂が塗膜の性能を大きく左右する。樹脂開発の経過は、表4-5(4-10掲載)で大まかに知ることはできるが、樹脂開発とそれに伴う塗料、塗装技術の変遷をまとめると、図4-29のように示される。13)
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4-15合成樹脂塗料の種類別生産量の推移塗料は流動状態で被塗物を覆い、被膜を形成する。よって、塗料の必要条件は、(1)流動すること、(2)くっつくこと、(3)固まることになる。
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4-16VOC削減型塗料-粉体とはどんな塗料なのか粉体塗装の事始めは鉄鋼をイオン化傾向の大きい亜鉛で被覆する金属溶射である。
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4-17VOC削減型塗料-水性とはどんな塗料なのか前回の粉体塗料に比べると水性塗料には随分と親しみと言うか、近しいものを感じる。それは小学生の頃に水性塗料の仲間である水彩絵の具を使って居たこと、あるいは、木材を加工してくっつけるのに水性ボンドを使用した記憶があるからであろう。
第5章 塗料をより深く理解するために
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5-1塗料(樹脂)選択の根拠について4章では、人類が時代と共に塗料とどのようにつき合ってきたのかを究明したく、塗料の変遷を取り上げてきた。
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5-2樹脂の成り立ち(1)塗料用樹脂の特徴は、主鎖を形成する分子鎖の化学結合に依存する。例えば、図5-6に示すように、フタル酸樹脂(長油性アルキド樹脂)は主鎖がエステル結合からなるため、アルカリ性水溶液に浸漬すると、加水分解され、塗膜が溶解する。一方、エポキシ樹脂の主鎖はエーテル結合とベンゼン環からなるため塗膜が溶出せず、耐薬品性は良好である。
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5-3樹脂の成り立ち(2)本稿では図5-14に示すエチレンやベンゼンのように2重結合を有する分子の成り立ちについて説明する。
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5-4塗料用樹脂のはなし(1)エポキシ樹脂著者が感銘を受けた樹脂の教書は北岡協三氏の著書5)である。恐れ多いことであるが、エポキシ樹脂の成り立ち部分を一部、引用させて頂く。エポキシ樹脂とは個々の分子中に2個以上のエポキシ基を持つ樹脂状の物または樹脂を作る化合物である。最も一般的なエポキシ樹脂を図5-24に示す。
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5-5塗料用樹脂のはなし(2)エポキシ樹脂主剤であるエポキシ樹脂(前回の図5-24)の両末端にはエポキシ基があり、硬化剤の有する活性水素H+と化学結合をして、クッキー塗膜を形成する。
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5-6塗料用樹脂のはなし(3)エポキシ樹脂前回の図5-30に示すポリアミド樹脂を固定し、エポキシ当量が一連に異なるS、M、Lを使用した塗膜の網目構造は、どのようになるのかを考えて見る。
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5-7塗料用樹脂のはなし(4)エポキシ樹脂2液型エポキシ樹脂塗料においては、主剤のエポキシ樹脂に対して反応する手の数が等しくなるように硬化剤のポリアミド樹脂が配合される。
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5-8塗料用樹脂のはなし(5)アクリル樹脂現在、アクリル樹脂は塗料用樹脂として、最も多く使用されている。なぜ、使用量が多いのかというと、塗料に求められる性能を装備しやすいからである。具体例を挙げて説明する。
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5-9塗料用樹脂のはなし(6)アクリル樹脂著者は2液型塗料と書きたいが、JIS用語では2液形となっているので、決断しにくい。本報では2液型に統一する。
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5-10塗料用樹脂のはなし(7)アクリル樹脂準備中