工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料をより深く理解するために 5-10 塗料用樹脂のはなし(7)アクリル樹脂

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-10 塗料用樹脂のはなし(7)アクリル樹脂

公開日:2026年2月9日 | 最終更新日:2026年2月9日

5.アクリル樹脂塗料の設計-応用編-

  本節では、アクリル樹脂と同様な共重合で合成するシリコーン・アクリル樹脂とふっ素樹脂を取り上げ、どのようにしてコポリマーを作るのかを解説する。 なお、今回と次回で5章を終わりにしたい。今回のシリコーン系塗料の話をベースにして、次章では無機系塗料を取り上げる予定である。

  • 5.1 シリコーン・アクリル樹脂塗料の作り方
  • 5.2 シリコーン・アクリル樹脂塗料の橋かけ反応
  • 5.3 ふっ素樹脂塗料 次回に続く


5.1 シリコーン・アクリル樹脂塗料の作り方

  塗料用アクリル樹脂は主として、アクリル酸、メタクリル酸エステルモノマーの共重合で合成される。モノマーの選択によって、樹脂の骨格(主鎖)の硬軟、反応基や官能基のモル数をどのくらいにするかを設計出来る。クッキー塗膜となるアクリル樹脂の典型例は、アクリルポリオールである。2液型ウレタン用アクリル樹脂、並びに焼付け用アクリル樹脂のモノマー組成例を本章8回目5-8に示しているのでご覧いただきたい。クッキータイプのアクリル樹脂には、-OHを有するモノマー(例えば、2-HEMA)と-COOHを有するモノマー(例えば、MAA)が選択される。-OHは反応性官能基であり、-COOHは顔料分散性と分子間力を高めることや、橋かけ硬化反応の酸触媒として機能するためである。シリコーン・アクリル樹脂とは無機物に分類されるケイ素化合物を側鎖に含有するコポリマーを意味する。

ケイ素化合物の一例として、図5-62に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(A)を示す。この化合物はメトキシ基(-OCH3)を3モル有しておりシランカップリング剤としてもよく使用される。さらに、Aはメタクリル酸エステルであるから、アクリルコポリマーの原料モノマーとして利用できる。アクリルの側鎖にアルキルシリケートが導入される様子を図5-62に示す。Siにメトキシ基(-OCH3)が結合したものをメチルシリケートと呼ぶ。シロキサン結合を多量に導入しないとシリコーン樹脂のメリットが発揮されない。そこで、多量に導入する手法を図5-63に紹介する。共重合したアクリルの側鎖にメチルシリケートが存在する。加水分解し、シラノール基-Si-OHが樹脂中に生成するから、シリコーン反応中間体のシラノール基と反応させてシリコーン樹脂濃度、シロキサン結合濃度を高めることができる。


図5-62 シリコーンをアクリル樹脂に導入する手法例(その1)
図5-62 シリコーンをアクリル樹脂に導入する手法例(その1)

図5-63 シリコーン(シロキサン結合)を多量に導入する手法例(その2)
図5-63 シリコーン(シロキサン結合)を多量に導入する手法例(その2)

  ポリマーを構成する2原子間の結合エネルギーをまとめたものを表5-9に示す。C-F結合やSi-O結合を多く含むほど、紫外線劣化が抑えられ、塗膜の耐候性は向上すると考えられる。いつまでも高光沢の塗装面を維持したい場合には、ふっ素樹脂やシリコーン樹脂を含有する上塗り塗料を採用すれば良いことになる。ふっ素樹脂やシリコーン樹脂には、それぞれC-F、Si-O結合が含有されており、それらは塗膜表面層に偏析する。C-F、Si-O結合以外はC-C結合である。これらの結合エネルギーは表5-9に示すように、C-F>Si-O>C-C の順になっている。この結合エネルギーの差異には大きな意味がある。

すなわち、C-C結合は太陽光線に僅かに含まれる紫外線(UV)で劣化するが、Si-O、C-F結合はUV照射下で劣化しない。ポリマー中のC-C結合がほんの僅かに切断されると、そこにラジカルが発生し、大気中の活性基や水蒸気、酸素分子などが表面層を破壊して行く。シリコーン結合(Si-0結合)を主体とする無機ポリマーは紫外線(UV)で劣化しないが、ガラスのように硬くて脆いという欠点がある。この欠点を補うために、シリコーンを共重合したたわみ性のあるシリコーン・アクリル樹脂塗料が上市されている。無機-有機ハイブリッド樹脂塗料とも呼ばれている。

表5-9 樹脂を構成する原子間の結合エネルギーの比較

表5-9 樹脂を構成する原子間の結合エネルギーの比較

  今回は図5-63、5-64に示すシリコーン・アクリル樹脂塗料の特徴についてまとめる。塗膜物性は塗膜形成に寄与するシロキサン結合濃度の増大によって明らかになるが、一般に次のように要約できる。

  1. (1)高温度に耐え、しかも強度やたわみ性が温度変化によって大きく変化しない。塗膜の耐熱温度は使用する顔料によっても大きく異なり、アルミ粉を練入した塗膜のそれは500℃でも十分に耐える。ボイラー、エンジンの外回りや排気管などが銀色に塗られているのを思い出していただきたい。
  2. (2)電動モーターの寿命は塗膜の電気絶縁性の良否と関係する。シリコーン系塗膜は長期間にわたり絶縁抵抗値の変動が小さい。
  3. (3)化学的に安定で、無毒である。それゆえ、医療用や化学関係の分野でシリコーン製のチューブやパイプが活躍している。
  4. (4)耐汚染性がふっ素樹脂塗膜よりも優れていることを図5-64に示す。塗膜表面に常に-SiOHが生成すると、汚染面は元の塗膜表面に戻ることが実証された。

図5-64 シリコーン(シロキサン結合)の導入効果
図5-64 シリコーン(シロキサン結合)の導入効果

図5-65  シリコーン・アクリル樹脂の主剤と硬化剤の橋かけ反応例
図5-65 シリコーン・アクリル樹脂の主剤と硬化剤の橋かけ反応例

5.2 シリコーン・アクリル樹脂塗料の橋かけ反応

  1. (1) 空気中の水分による縮合重合(湿気硬化)
    湿気硬化は塗装された塗膜が空気中の水分を取り入れることで反応するのであるが、強制乾燥を行うと、十分に水分を吸収できないことがある。予備用にアクリル樹脂中に-OHを投入し、イソシアネート(-NCO)と反応させることも必要である。
  2. (2) 3級アミンとエポキシ基の付加重合(図5-65参照)
  3. (3) -COOHとエポキシ基の付加重合(図5-65参照)
  4. (4) シリコーン・アクリル樹脂の-OHと-NCOの付加重合

  以上の他にもいろいろな橋かけ反応が考えられるが、今回紹介した説明図の範囲で取り上げた。



執筆: 坪田 実

〔参考・引用文献〕
1) J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2) 中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3) 中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4) 平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5) 北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6) 坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, p.57, p.65-70, p.76-77, p.93-109, p.111, p.298-299, 秀和システム (2016)
7) 木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8) 垣内弘 編著:”新エポキシ樹脂“, 昭晃堂, 585-621 (1985)
9) 坪田実, 富田久和, 本田省吾, 植木憲二: J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.56, No.3, p.135-142 (1983)
10)坪田 実, 富田久和:塗装工学, Vol.25, No.2, 85-93(1990)
11)本田康史:“第54回塗料入門講座”講演スライドより引用, 色材協会 関東支部 塗料部会 (2013)
12)Marvin L. Green:Journal of Coatings Technology, Vol.73, No.918 (2001)
13)石倉慎一, 奥出芳隆:”新しい架橋反応の設計と機能”, ネットワークポリマー, Vol. 17, No. 3 (1996)
14)中根喜則, 石戸谷昌洋: J.Jpn.Soc.Colour Mater., (色材), Vol.69, No.11, 735-742 (1996)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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