工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料をより深く理解するために 5-11 塗料用樹脂のはなし(8)アクリル樹脂

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-11 塗料用樹脂のはなし(8)アクリル樹脂

公開日:2026年4月7日 | 最終更新日:2026年4月7日

5.アクリル樹脂塗料の設計-応用編-

  本節では、アクリル樹脂と同様な共重合で合成するシリコーン・アクリル樹脂を5-10で、フッ素樹脂を5-11で取り上げ、どのようにしてコポリマーを作るのかを解説する。なお、今回で5章を終わりにする。

  • 5.1 シリコーン・アクリル樹脂塗料の作り方
  • 5.2 シリコーン・アクリル樹脂塗料の橋かけ反応
  • 5.3 フッ素樹脂、フッ素樹脂塗料とは
  • 5.4 フッ素樹脂溶液の作り方
  • 5.5 フッ素樹脂塗料の単価

5.3 フッ素樹脂、フッ素樹脂塗料とは

(1)フッ素の特異性

  フッ素樹脂をはじめ、フッ素原子を含む化合物は非常に優れた耐薬品性・耐熱性・耐候性・非粘着性・絶縁性・低摩耗性を持っている。これはふっ素原子Fが他の原子に比べて、2つの特異な性質を持つためである。第一の特徴はFが最も大きな電気陰性度を持っていること、第二の特徴はFの原子半径が水素原子の次に小さいことである。このように特異なFが炭素と結合すると、大きな電気陰性度のため、結合電子はFの原子核の近くに強くひきつけられて分極率の小さい結合となる。結合距離が短く、しかも大きな電気陰性度と相まって、安定な結合になる。このためにフッ素樹脂は他のポリマーには見られないいくつかの優れた特性を持つ。さらに、図5-66に示す4フッ化エチレン(4F)からなるポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略)は大きな結晶化度を有するからCF結合が空気側表面層に規則正しく並ぶ。そのため、くっつかない、焦げ付かない(油を要しない)テフロン加工フライパンとして有名である。しかし、4F樹脂は有機溶剤に溶解せず、流動しないため、塗料用フッ素樹脂には向かない。

図5-66 3Fと4Fのフッ素モノマー

(2)クイズ:フライパンに塗られているフッ素樹脂と、塗料用のフッ素樹脂とは同じものか、異なるものか?

  〔クイズの回答〕異なるものである。両者の違いを図5-66に示す。フライパンに使用する樹脂は、4F樹脂(PTFE)が圧倒的に多い。この樹脂は結晶性の白色粉体である。粉体を水中あるいは有機溶剤中に入れて懸濁状態スラリーにして、スプレーガンで吹き付けてから溶媒を揮発させ、430℃もの高温で焼成する。塗膜は非架橋であり、高温焼成は結晶化を進めるための操作である。このようにコーティングされた商品をテフロン加工と呼んでいる。粉体塗料と同様に、顔料分散工程を採用できないために、色味の選択が限られ、仕上がりは低光沢である。4F樹脂では塗料化できないから、何とかして透明なフッ素樹脂溶液を作ろうと開発が進められた。その結果、できたのがルミフロン®である。AGCが1982年に世界で初めて商品化した樹脂溶液である。3Fのフッ素モノマーを中心にして、交互共重合性の良いビニルエーテル類を用いて、アクリル樹脂と同様にラジカル重合で合成した。できたポリマーは有機溶剤に可溶であり、その化学構造モデルは図5-67で示されるように交互共重合構造を持つ。

  図5-66に示す3FのC-Cl結合は紫外線で劣化しやすいように感じるが、C-F結合がC-Cl結合を被覆するため劣化の起点にはならないようである。ルミフロン®は塗料用のフッ素樹脂ブランドになっている。一方、2Fのフッ化ビニリデン樹脂も通常の有機溶剤に不溶で、混合するアクリル樹脂(固形分混合比 アクリル/ 2F = 1/4程度)溶液中に分散されてスラリー状になっており、PCM鋼板用の高耐候性塗料として使用されている。塗膜は非架橋であり、図5-67に示す交互共重合性構造を持つ樹脂に比べ、低光沢で200℃程度の焼成が必要である。

図5-67 塗料用フッ素樹脂の科学構造モデル

5.4 3Fフッ素樹脂溶液の作り方

  フッ素樹脂の合成に使用するモノマーとしては、3Fのクロルトリフルオロエチレン(CTFE)がメインに使用される。3Fモノマーは常温で気体であり、これを加圧・加熱して、液化し、重合可能な反応容器内に導く。次に、あらかじめ有機溶剤(キシレンや酢酸ブチル等)、ビニルエーテル類、ビニルエステル類を仕込んだ反応容器内でラジカル共重合を行う。-OHの導入は通常ヒドロキシブチルビニルエーテルとの共重合によって行う。塗料用樹脂として使用するためには、図5-67に示すように反応基や官能基を付加する必要がある。架橋形式としてはウレタン架橋がほとんどであり、-OHは必須である。さらに、顔料分散性のためには-COOHが有効である。気体原料であるCTFEを使用するため重合は密閉した加圧状態で行われ、しかもCTFEは他の原料に比べ高価なため出来上がったフッ素樹脂溶液は高コストになる。


5.5 フッ素樹脂塗料の単価

  フッ素樹脂塗料の価格はなぜ高いのか、と言う疑問には納得していただけたと思う。さらには実際の価格例を示したい。1998年に明石海峡大橋が完成した。塗装工事に関することは一般社団法人 日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会が仕切り、積算資料としてまとめられた。著者が塗膜構成と塗料の単価(塗料1kgの価格)を抜粋し、図5-68にまとめて示す。フッ素樹脂塗料の単価は¥8,230で下塗り、中塗りエポキシ樹脂塗料に比べて3-4倍高いことが分かる。無機ジンクペイントの単価が高いのは予想外であった。次章では塗装系と言う目次立てをして、執筆したいと考えている。

図5-68 明石海峡大橋の塗膜構成と塗装工事積算資料から抜粋したフッ素樹脂塗料の単価

執筆: 坪田 実

〔参考・引用文献〕
1) J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2) 中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3) 中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4) 平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5) 北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6) 坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, p.57, p.65-70, p.76-77, p.93-109, p.111, p.298-299, 秀和システム (2016)
7) 木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8) 垣内弘 編著:”新エポキシ樹脂“, 昭晃堂, 585-621 (1985)
9) 坪田実, 富田久和, 本田省吾, 植木憲二: J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.56, No.3, p.135-142 (1983)
10)坪田 実, 富田久和:塗装工学, Vol.25, No.2, 85-93(1990)
11)本田康史:“第54回塗料入門講座”講演スライドより引用, 色材協会 関東支部 塗料部会 (2013)
12)Marvin L. Green:Journal of Coatings Technology, Vol.73, No.918 (2001)
13)石倉慎一, 奥出芳隆:”新しい架橋反応の設計と機能”, ネットワークポリマー, Vol. 17, No. 3 (1996)
14)中根喜則, 石戸谷昌洋: J.Jpn.Soc.Colour Mater., (色材), Vol.69, No.11, 735-742 (1996)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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