工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座  塗料をより深く理解するために 5-7塗料用樹脂のはなし(4)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-7 塗料用樹脂のはなし(4)

公開日:2025年6月10日 | 最終更新日:2025年6月11日

3.エポキシ樹脂

3.5 2液型塗膜の橋かけ反応と塗膜強度に及ぼす主剤/硬化剤当量比の影響

1.はじめに

  2液型エポキシ樹脂塗料においては、主剤のエポキシ樹脂に対して反応する手の数が等しくなるように硬化剤のポリアミド樹脂が配合される。ポリアミド樹脂が同じで、表5-6に示すエポキシ当量が一連に異なる4種類のエポキシ樹脂を使用する場合、どのような塗膜が得られるか興味がある。2液型塗料を含めクッキータイプ塗料では当量配合が基本になる。本報では、接着剤用途の固形分100%のエポキシ樹脂(SS)も使用して、どのエポキシ樹脂についても当量配合が橋かけ密度を極大にするのかどうかを調べた。

表5-6 実験に使用したエポキシ樹脂
表5-6 実験に使用したエポキシ樹脂
表5-7 当量比の意味
表5-7 当量比の意味

  前報(5-6)では、橋かけ密度をゴム域における動的弾性率の極小点(E'h)から評価できることを示した。本報では各系塗膜のTgが橋かけ密度を反映していることを前提に話を進める。なお、新用語として当量比を使用するので、当量比の意味を表5-7に示す。なお、エポキシ樹脂が異なる各系において当量配合とは当量比1.0を意味しており、詳しくは本シリーズ5-5を参照されたい。当量比1.0を示すエポキシ樹脂濃度はエポキシ当量によって明らかに異なることを図5-41と表5-8から理解していただきたい。

図5-41 塗膜のTgに及ぼすエポキシ樹脂濃度の影響
図5-41 塗膜のTgに及ぼすエポキシ樹脂濃度の影響
(図中の矢印と数字は計算当量点のエポキシ樹脂濃度を表す)
表5-8 Tg 値からの考察
表5-8 Tg 値からの考察
図5-42 塗膜のTgに及ぼす当量比の影響
図5-42 塗膜のTgに及ぼす当量比の影響
(図中の点線は当量比1.0と1.2を表す)
図5-43 塗膜のゴム域におけるE’の極小値E‘h に及ぼす当量比の影響
図5-43 塗膜のゴム域におけるE'の極小値E'hに及ぼす当量比の影響

2.塗膜のTgに及ぼすエポキシ樹脂濃度の影響

  4種類のエポキシ樹脂を使用して、主剤と硬化剤の混合割合を変えた塗膜を調製した。硬化障害が起きないように、いずれも硬化条件を120℃/30分とした。塗膜の動的粘弾性のtanδ~温度曲線のピーク温度をTgとした。4種類のエポキシ塗膜について、塗膜のTgに及ぼすエポキシ樹脂濃度関係をまとめて図5-41と表5-8に示す。各系塗膜ともTgは1つのピークを示す曲線を示した。Tgのピーク値を示すエポキシ樹脂濃度において、各系塗膜は橋かけ密度が極大になることを示している。反応基(エポキシ基と活性水素)の数から計算した当量比1.0のエポキシ樹脂濃度と図5-41のピーク値を示すエポキシ樹脂濃度がどのような関係を示すのかを考察する。

  樹脂濃度を当量比で表すと図5-41は図5-42で示される。表5-8からも、エポキシ当量が小さくなるほど塗膜の橋かけ密度を示すTgピーク値はエポキシ樹脂濃度の高いところにシフトしている事が分かる。エポキシ当量が小さいほど網目に組み込まれるポリアミド樹脂が多くなり、これが橋かけ反応を増大させていると考えられる。その一例を図5-43に示す。S系塗膜のE'hは当量比1.2付近で極大値を示し、SS系塗膜ではTgピークが当量比1.4まで上昇している(図5-42)。硬化剤のポリアミド樹脂は図5-44に示すように分子の両末端に6モルケの反応基(第1級アミン4モルと第2級アミン2モル)を有し、これらがエポキシ基と反応すると、当量比1.0付近でTgピークが出現すると推定できる。ところが、実験結果のTgピークは当量比1.0を超えていた。このことは硬化剤分子中に主剤のエポキシ基と反応する活性水素が推定値以上に存在することを示唆している。考えられるのは、図5-45に示す第3級アミンが網目形成に寄与することである。なお、ポリアミド樹脂の活性水素当量は第1級アミンと第2級アミンの活性水素を定量しているから、当量比1.0では第2級アミンに相当する量のエポキシ樹脂も配合している。エポキシ当量の小さいエポキシ樹脂ほどTgピークが当量比1.0以上になるのはエポキシ樹脂の動き易さと関係しているのであろう。

図5-44 塗料用変性ポリアミド樹脂の想像図
図5-44 塗料用変性ポリアミド樹脂の想像図

図5-45 エポキシ、ポリアミド樹脂の橋かけ反応と形成される網目の化学構造
図5-45 エポキシ、ポリアミド樹脂の橋かけ反応と形成される網目の化学構造

3.塗膜の強度に及ぼす当量比の影響

  主剤と硬化剤を固定し、塗膜強度に及ぼす当量比(エポキシ基の数/活性水素の数)の影響を調べた。実用的によく使用する主剤は表5-6に示すS(エポキシ当量484)で、硬化剤には図5-44に示す活性水素当量が472のたわみ性の大きなポリアミド樹脂(DIC製のラッカマイド(LACAMIDE)N-153)を使用した。主剤と硬化剤の混合割合を一連に変えて焼付け硬化させた。硬化条件は既述の塗膜調製と同様に行った。エポキシ当量と活性水素当量がほぼ同じなので、各樹脂の割合で50%程度が当量点(当量比1.0)になる。
当量比が一連に異なる遊離塗膜について引張り試験を行い、応力~ひずみ性測定から、ヤング率、抗張力、破壊伸び、破壊エネルギー(応力~ひずみ曲線下の面積)を求めた。結果を図5-46に示す。いずれも塗膜強度に関係する物性値であり、後日、解説する機会を得たい。
  塗膜のヤング率は当量比の増大に伴い一義的に上昇し、破壊伸びは一義的に低下した。抗張力と破壊エネルギーは当量比1.4付近で極大値を示した。破壊伸びは当量比1.0以下では明らかに上昇し、破壊伸びが100%以上の塗膜も容易に調製できる。塗膜強度を向上させるには橋かけ密度がピークを示す当量比1.2~1.4程度の塗膜を調製すれば良いことが分かった。エポキシ樹脂の混合量がリッチな方が好まれる。それは硬化剤であるポリアミド樹脂のコストが高い事とアミンブラッシングが起こりにくいことに起因している。 一般に、アミンブラッシングは低分子量のポリアミンを用いた場合に起こる現象であり、塗膜の耐水性を向上させると防ぐことができる。塗膜の耐水性はTgの高い塗膜の方が良好であるから、エポキシ当量の高いエポキシ樹脂を用いた方が良い。なお、本報に用いたポリアミド樹脂は耐水性が良好であり、アミンブラッシングが起きにくい。

図5-46 塗膜の応力~ひずみ性の測定から求めた物性値に及ぼす当量比の影響
図5-46 塗膜の応力~ひずみ性の測定から求めた物性値に及ぼす当量比の影響

  エポキシ樹脂塗料は付着性の良い塗料として実績がある。鋼板に対する付着性に及ぼす主剤/硬化剤の混合比の影響を調べた。結果を図5-47に示す。超音波法付着強さとは水中に浸漬した付着試験体に1mmの間隔をあけた状態で、ホーン先端から25KHz、振幅50μmの超音波振動を放射して、試験体からの塗膜の脱着状態と破壊に要する時間を測定する試験法である。ココでは塗膜の破壊秒数を付着強さの指標とした。Pull-off法、ごばん目法も含め、大まかではあるが、付着強さは当量比0.7~1.4の範囲では実用強度を保つことが分かった。引張り試験と同様に後日、付着性試験法を解説したい。

図5-47 塗膜の付着強さに及ぼす当量比の影響
図5-47 塗膜の付着強さに及ぼす当量比の影響
(図中の数字は接着破壊の割合%を示す)

4.おわりに

  2液型塗料をはじめとするクッキータイプ塗料では当量配合(当量比1.0)が基本になる。
エポキシ当量が一連に異なる4種類のエポキシ樹脂に対して、ポリアミド樹脂を固定した時、橋かけ密度が極大となる当量比はほぼ1.0であるが、エポキシ当量が小さくなるに伴い橋かけ密度が極大となる当量比は増加した。塗膜強度や付着強度も当量比1.2付近に設定すれば良いことが分かった。実用配合では、主剤のエポキシ樹脂を約20%、多めに配合すると良い。

執筆: 坪田 実

〔参考文献〕
1)J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3)中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4)平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5)北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6)坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, p.93-109, p.57, p.76-77, p.111, p.298-299, 秀和システム (2016)
7)木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8) 垣内弘 編 著 : "新エポキシ樹脂", 昭晃堂 , 585-621 (1985)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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