塗料・塗装の何でも質問講座
5-8 塗料用樹脂のはなし(5)
4.アクリル樹脂塗料の設計
4.1 塗料用アクリル樹脂
現在、アクリル樹脂は塗料用樹脂として、最も多く使用されている。なぜ、使用量が多いのかというと、塗料に求められる性能を装備しやすいからである。具体例を挙げて説明する。
(1) どんな被塗物に対しても塗れること。被塗物に応じた乾燥機構で塗膜を形成できること。顔料分散性や、塗膜の諸物性、とりわけ耐候性、耐久性の制御範囲を広く設計できること。
(2) 地球温暖化を防ぐ環境対応(カーボンニュートラル)やSDGsを意識したものづくりに 大きく貢献できること。この大きな用途として、図5-48に示すエマルション樹脂塗料が特筆できる。モノマーが有機溶媒中にあっても、水中にあってもラジカル重合でポリマーになるのはアクリル樹脂の特徴である。本モノタロウ講座では、第4章の4-17で、VOC削減型塗料としてアクリル樹脂エマルション塗料を取り上げているからお目通しされたい。
まず、アクリル樹脂とはどんな樹脂なのかを説明する。アクリル樹脂の原料モノマーは図5-49に示す二重結合を有するアクリレートとメタクリレートである。図中のR1がHならばアクリレート、CH3ならばメタクリレートと呼ぶ。スチレンやアクリルアミドも二重結合を有するからアクリル樹脂の原料モノマーとして使用できる。とくに、スチレンモノマーを共重合したウレタン用ポリオールは塗料粘度を下げ、塗膜の乾燥性も向上するため有用である。アクリル樹脂の主鎖はポリエチレンと同じメチレン結合であるのに、側鎖のR2にアルキル基、エポキシ基、水酸基、カルボシキル基、ベンゼン環、シリコーンオリゴマーなどいろいろなもの(ペンダント)を付けて、樹脂性能を発揮させることができる。樹脂設計が自由にできるよと言われても、基本的な観点が必要だろうから順に説明する。
4.1.1 樹脂の骨格(主鎖)
主鎖の硬軟はアクリレートを選ぶか、メタクリレートを選ぶかに依存する。エポキシ樹脂でも説明したように、分子鎖の熱運動性はポリマーのTgに反映するから、骨格の硬軟はポリマーのTgが目安になる。図5-50の右下にあるTgと分子量の関係図から、ポリマーのTgは分子量に依存し、分子量が数万以上になると一定値に収束することが分かる。また、同一モノマーからなるホモポリマ-のTgは図5-50に示すようにR1とR2の種類で変化する。側鎖の長いR2を有するほど、塗膜のたわみ性は増し、ホモポリマーのTgは低くなる。
4.1.2 クッキータイプの塗膜になるためには
クッキー塗膜になるためにはアクリル樹脂の末端に-OHを有し、これが架橋樹脂と化学結合してジャングルジムを形成することである。-OHを有するポリマーをポリオールと呼ぶ。図5-51に示すように、アクリルポリオールには塗料・塗膜として装備したい機能性があるから複数のモノマーが選択される。このように2種類以上のモノマーから合成されたポリマーをコポリマーと呼ぶ。-OHを有するモノマーと同時に-COOHを有するモノマーも選択するが、これは、-COOHが塗料の橋かけ反応の触媒として機能するからである。
アクリル樹脂の典型的な橋かけ型塗料は常温で硬化する2液型ウレタン用と焼付け用に大別される。ここでは汎用的なポリオールを呈示し、モノマー組成の違いや官能基のモル数をどのように表すかについて説明する。常温硬化2液型ウレタン用ポリオールのモノマー組成の一例を図5-52に、焼付け用ポリオールの一例を図5-53に示す。 ポリオールのモノマー組成がわかれば、Foxの式を用いてアクリル樹脂のTgを計算で求める。その様子を図5-52に示す。焼付け用のアクリルポリオールでは計算Tgを40℃に、ウレタン用のポリオールでは20℃を目安に設計する。さらに、ウレタン用ポリオールの反応性を上げたり、塗膜にたわみ性を付与するためにはポリオールの計算Tgが-10℃位になるようにモノマー選択を行う。
4.1.3 ポリオール中の官能基のモル数
図5-52に示すモノマー組成を見ると、-OHを有するモノマー(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、略称2-HEMA)はポリオール100g中に23g存在する。この時、-OHのモル数は2-HEMAの分子量130から、23/130として、0.177モルと計算できる。同様に、-COOHを有するモノマー(メタクリル酸)の組成から含有率は1/86として、0.012モルと計算できる。水酸基価(OHv, OH価)、酸価(Av)はそれぞれポリオール1g中に含まれる-OH、-COOHのモル数をKOHのmgに換算した値であるから、OHvとAvは次式で計算できる。
- OHv = (23/130)/100*56.1*103= 99.3 (5)
- Av = (1/86)/100*56.1*103= 6.52 (6)
水酸基(-OH)当量とは、エポキシ当量と同様な特性値であり、-OHを1モルヶ配合するのに必要な樹脂の質量(g)である。OH価(OHv)と水酸基当量は次式で換算できる。
- 水酸基当量 = (56.1*103 )/OHv (7)
(7)式のOHvに(5)式の99.3を代入すると、このポリオールの水酸基当量 は565〔g/mol〕となる。モノマー組成が分からなくても、ポリオール溶液のOHvが分かれば、(7)式で水酸基当量が求まる。OHvが分からない時には、化学分析が必要になる。化学分析には高度なテクニックが必要であるから、樹脂の購入時には、樹脂溶液の固形分、OHvとAvを必ず確認し、データを保管しておくことを勧める。この時に、OH価が(ワニス)となっていれば、ポリオール溶液の値である。たまに、モノマー組成からの計算値を示すこともあるからワニスなのかどうかを確認しておくこと。以下に確認ポイントをまとめる。
*1 アクリルポリオールを合成するときには有機溶媒中で行い、合成後にポリオール溶液の不揮発分NV(%)、OHv、Avを測定する。図5-52に示すポリオールはトルエン/酢酸ブチル(50/50)中で合成され、NV 49.7%、Av 4.8と実測されているが、OHvは50と記されている。(5)式の99.3はNV100%のOHv(計算値)であるから、NV 49.7%では、OHv =99.3*0.497=49.3 になる。繰り上げてOHv=50と表示している。OHv =49.3 を(7)式に代入すると、水酸基当量は1138 g/molとなる。OHv はNV%に比例するから、NVが50%であれば、NV100%比べて約2倍、ポリオール溶液を配合しないと-OHを1モルヶ配合できない。よって、ワニスのOHvが塗料配合には重要である。
**2 OHvは不揮発分NV%に比例するから、NV 100%に換算した値(固形分値)で官能基のモル数を比較すること。当然のことながら、OHv が高いほどポリオール中に-OHの数が増大する。当量配合で塗膜を調製するならば、OHv が高いほど塗膜の橋かけ密度は高くなり、ジャングルジムの目の粗さは細かくなる。
***3 OHvの測定は手間がかかって難しい。日本分光株式会社が近赤外分光法でOHvの計測法を開発した。概要を次のURLでご覧あれ。
https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/applicationdata/FTIR/100-TR-0281.html
OHvの実測には手間がかかるからモノマー組成から求めた方が効率的である。
水酸基価(OHv, OH価)、酸価(Av)の実測にはKOHを使用して、中和滴定を行う。それゆえに、OHv、Avの表示にはKOHのmgに換算した値を使用する。KOH、1モルの質量は56.1×103mgである。
〔参考・引用文献〕
1)J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3)中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4)平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29, 76 (2004)
5)北岡協三:“塗料用合成樹脂入門”, 高分子刊行会, p.140 (1979)
6)坪田実:“図解入門 よくわかる最新 塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム,p.57, p.65-89, p.93-113, p.298-299, (2016)
7)木下啓吾、坪田実、長沼桂:J.Jpn.Soc.Colour Mater.(色材), Vol.68, No.7, p.441 (1995)
8)垣内弘 編 著 : "新エポキシ樹脂", 昭晃堂 , 585-621 (1985)
『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次
第1章 塗料・塗膜の白化現象
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1-1白く見えるとはどんなこと塗装面に現れる白化には水分が関与して、発生することが多々あります。
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1-2散乱強度と隠ぺい力前回の図1-4は白黒がはっきりした良い結果でした。ポリマーと屈折率の差が小さいCaCO3粒子を分散させた塗膜は粒子/ポリマー界面で可視光線の多くは
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1-3隠ぺい力に関する話題実際の塗装作業においては、図1-10(b)に示すように、下地が透けるため何回も上塗りをしたことがあります。
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1-4塗装時に白化する現象とその解析 (1) 結露の発生高温多湿な梅雨時にスプレー塗装をすると、かすみがかかったように白くぼけてつやが無くなることがあります。
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1-5塗装時に白化する現象とその解析 (2) 結露の防止結露とは空気中から水分が抽出される現象だと理解しました。
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1-6水性塗料の白化現象とその対策木工用の水性ボンドは身の回りの接着剤としてよく使用されています。
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1-7木工塗装テーブル面の白いシミ(1)前回までは塗装時や塗装過程での白化現象を取り上げましたが、今回と次回は我が家で起きた木工テーブル面の白化現象を取り上げます。
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1-8白いシミの原因とは白化機構を示した前回の図1-30に妥当性があるかどうかを見極めたいと思います。
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1-9白いシミの再現と解析実験前回示した図1-35の結果についてコメントすると次のようになります。
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1-10白いシミの対策法質問(30)前回のQ&Aを読んでいると、白化の原因は塗膜中へ侵入した水がZn粒子/バインダー界面へ偏析することであり、白化にはガラス転移温度Tgの影響が大きく、
第2章 塗料と塗装のことはじめ
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2-1塗料の必要条件と分類法第1章では塗料・塗装分野で見られる白化という欠陥現象を取り上げ、原因と対策を話してきたのに、第2章で何故「ことはじめ」になるのですか。
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2-2塗料(液体)から、塗膜(固体)への変化前回から持ち越した (1)塗料の形態による分類、(4)塗膜なってからの分類法について解説してください。
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2-3自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(1)質問(10) 本章に対する著者の考え方については、既報2.1に示す答え(1)で示されていますが、いきなり自動車補修塗装とは、入門者にとって何だか難しい応用問題を与えられたようです。
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2-4自動車補修塗装に必要な材料と器工具について(2)質問(20) フェンダー部打痕部の板金修正が終わったら、次はどうするのですか。答え(20) 打痕部面積の5倍程度大きく塗膜をはがし、鋼板素地を露出させます。
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2-5自動車補修塗装工程について(1)今回も自補修塗装を取り上げます。板金修正で凹んだ箇所を引張り出し(既報図2-20)、塗膜をはく離した鋼板露出面(既報図2-22)からスタートします。
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2-6自動車補修塗装工程について(2)前回は、ポリパテ付け作業で終了しています。図2-11に示すStep3とは、パテ付け面の研磨までを指します。パテ付け、研磨作業までが元の板金面に復活させる成形作業になります。
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2-7自動車補修塗装工程について(3)前回は、Step4(図2-11参照)のプラサフ塗装とその研磨について解説しました。その中で、ブツ除去時やパテ研磨時にできる小穴を見逃さないためのガイドコートの使い方を説明しました。
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2-8自動車補修塗装工程について(4)前回は、上塗りのブロック塗りとスポット塗りについて説明しました。ほとんどの場合、上塗りにはクリヤが塗装されます。
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2-9スプレーガン-名手への道(1) ガンの基礎知識車の補修塗装ではスプレーガンの技能が大切だと言うことを理解できたと思います。
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2-10スプレーガン-名手への道(2) ガンを使いこなすStep既報2.5~2.7に示した車の補修塗装で、プラサフ塗装を始め、ボカシ塗り技法を含めたスプレーガンによる塗装技術を紹介しましたが、実際にどのようにやれば良いのか分からなかったと思います。
第3章 いろいろな塗り方
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3-1塗装方法を知ろう建築現場における塗装作業に注目すると、図3-1に示すように外壁を仕上げるのに、窓枠の養生をしている人、ローラ塗りをしている人、吹付け作業をしている人など様々です。
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3-2液膜転写法塗装方法を大別すると、図3-4に示すように、塗料を直接、被塗物に移行する直接法と、微粒子の霧にして移行する噴霧法になります。
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3-3直接法 はけ塗り前報の図3-4に示したように、塗装方法は直接法と噴霧法に大別されます。高速塗装に適する方式は、直接法の液膜転写法です。今回、紹介する方法は直接法で工具を介して塗る刷毛塗りとローラー塗りを取り上げます。
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3-4直接法 はけ塗り刷毛の代表例を図3-13に示します。5)塗料の種類、塗り面積等に応じて適切なはけを選びます。一般に合成樹脂調合ペイントのように粘度の高い塗料では硬い毛(黒い馬毛)のずんどう刷毛を、ウレタンワニスやラッカーのように粘度の低い塗料では、やわらかい毛(白い羊毛)のすじかい刷毛を用います。
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3-5直接法 ローラー塗りローラー塗りは刷毛塗りと工具が違うだけで、塗り方の基本は刷毛塗りと同じです。仕上がり面の平滑性は、はけ塗りに劣りますが、住宅の壁などの広い面積を塗るのに適しており、作業スピードは刷毛塗りに比べて3倍程度大きいようです。
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3-6直接法 浸せき塗り、しごき塗り浸せき塗りは、次に示す2方式に大別されます。1つ目は、塗料槽に被塗物をどっぷり浸け、引き上げて乾燥させるDipping方式(浸せき塗り、ジャブ漬け塗りなど)です。2つ目は、被塗物に塗料を押し込むしごき塗りです。
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3-7電着法 電着塗装の原理電気化学をベースとする塗装法が電着塗装です。水の電気分解を理解すれば、電着塗装の原理がわかります。
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3-8電着法 前処理工程-化成被膜自動車に代表される工業塗装では、電着塗装を行う前に、前処理として、洗浄・脱脂・化成皮膜処理が行われます。
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3-9電着法 電着塗装工程電着塗装装置の構成は一般的に次のようになります。
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3-10噴霧法 静電気と静電塗装スプレーガンによる微粒化の原理とガンの使い方に付いては、第2章 2.9と2.10スプレーガン名手への道で解説しました。本節では、噴霧塗装に静電気を利用すると、塗着効率が2倍以上も増大すると言う話を紹介します。
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3-11噴霧法 静電スプレーと塗料の電気抵抗値前回、静電スプレーは雷と同じ原理を利用していることを説明しましたが、液体塗料の電気抵抗値が静電スプレー作業において、どのような影響を及ぼすかについては言及しませんでした。
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3-12噴霧法 粉体塗料の塗り方塗料メーカーは粉体塗料を平均粒径30-40μmに調製して、供給しています。液体塗料をこの程度の噴霧粒子にするためには空気霧化だけでは不十分で、遠心力で液体分子を引きちぎったりしなければなりません。
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3-13噴霧法 粉体塗料の塗り方(つづき)今回は電界内を大量に移動しているフリーイオンの挙動に焦点を当て、塗装作業との関連について説明した後、コロナ放電式以外の塗り方について説明します。
第4章 塗料のルーツと変遷
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4-1はじめに執筆中の「塗料・塗装の何でも質問講座」はこの第4章から後半戦に入ります。本講座の終了時点で、読者の皆さんにはペンキのことをよく知ってもらい、風呂場や床などの住環境を塗り替えたり、自分で作った工作物を塗って仕上げるまでになってもらえたら嬉しいなと思います。足場が必要な高所はプロのペンキ屋に任せればよいのです。
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4-2塗料のルーツについてルーツ探しは誰もが興味を持っていますが、塗料・塗装のルーツとはと聞かれると、現代人は“塗料って何だ”と言って、あまり興味を示してくれないでしょう。一方、旧石器時代の方々に身振り手振りで塗料とは液状のもので、指や手にとって、彼方此方に塗るものだと伝えると、ものすごく理解が速いと思います。
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4-3紀元後~飛鳥・奈良時代大沼清利氏は塗料の変遷をバインダー(被膜になる成分で、ビヒクルソリッド)に着目して克明にまとめ、国立科学博物館発行の「技術の系統化調査報告 第15集(2010)」に、“塗料技術発展の系統化調査”として報告しています。
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4-4平安時代(日本最古の黒エナメル)図4-3に示す塗料の歴史の中に、平安時代に武器である楯(たて)と戟(げき)に塗る黒色エナメルの配合表が見つかりました。図4-6に示します。4)日本最古の塗料のレシピと言われています。奈良時代に作られた墨と同様に掃墨と膠が使用されています。
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4-5鎌倉~戦国・南蛮貿易~江戸時代さて、今回も表4-2の続きになりますが、戦国時代から江戸時代における塗料の変遷を追って行きます。戦国時代には出土品や文化財がほとんどなく、歴史的事実だけから塗料・塗装の変遷を探ることになります。仏教伝来後、漆は仏像や寺院建築に使用され発展して行くと同時に、戦国大名の武具にも塗られていたようです。庶民の生活レベルでは、ニカワ(膠)、柿渋が塗料のバインダー(ビヒクル成分)として、使用されていたようです。
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4-6江戸・黒船来航~明治時代イギリスで始まった産業革命と同様な大きな変化は日本では、黒船来航から明治維新にかけて現れます。鎖国が解かれて、政治体制が一気に変わり、鹿鳴館で代表される西洋文明が怒濤のごとく、日本に入ってきました。
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4-7油性塗料時代 洋館旧岩崎邸の塗装片から見た塗料と塗装 1日本における塗料・塗装の変遷は次の様に進んできたと考えられる。A.塗料・塗装のルーツは漆塗りである(表4-1参照)
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4-8油性塗料時代 洋館旧岩崎邸の塗装片から見た塗料と塗装 2前回の図4-10に塗膜断面の解析結果をまとめ、この中に
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4-9ラッカー時代 (その1 木綿と硝化綿)4-7 塗料の変遷(その5) において、日本における塗料の変遷をA~Gのようであると示したが、ココで大きな忘れ物をしてしまった。それは硝化綿ラッカー(以降、NCラッカー)で代表される繊維素系塗料の存在をすっかり見落としたことである。
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4-10ラッカー時代(その2 エアスプレーガンの誕生)日本では、第1次世界大戦後に残った火薬用NCの平和利用から塗料分野にNC(硝化綿、ニトロセルロース)が持ち込まれた。
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4-11合成樹脂塗料時代 (その1 油とはどんな化合物か)本章は終盤を迎えており、今回より数回で、ラッカー時代に開始された工業塗装をさらに発展させた合成樹脂塗料について解説する。
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4-12合成樹脂塗料時代 (その2 OPの塗料配合とSOPへの移行)1940年代から塗料用合成樹脂の代表になった油変性アルキド樹脂を4-12回と4-13回に分割して、紹介する。
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4-13合成樹脂塗料時代 (その3 油を真似た油変性アルキド樹脂)今回ようやく、”油を真似て作られた合成樹脂塗料“の話ができることになり、嬉しい限りである。ところで、油を真似てとは、どんなことかを説明したい。
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4-14合成樹脂塗料の発展連続被膜を形成する樹脂が塗膜の性能を大きく左右する。樹脂開発の経過は、表4-5(4-10掲載)で大まかに知ることはできるが、樹脂開発とそれに伴う塗料、塗装技術の変遷をまとめると、図4-29のように示される。13)
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4-15合成樹脂塗料の種類別生産量の推移塗料は流動状態で被塗物を覆い、被膜を形成する。よって、塗料の必要条件は、(1)流動すること、(2)くっつくこと、(3)固まることになる。
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4-16VOC削減型塗料-粉体とはどんな塗料なのか粉体塗装の事始めは鉄鋼をイオン化傾向の大きい亜鉛で被覆する金属溶射である。
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4-17VOC削減型塗料-水性とはどんな塗料なのか前回の粉体塗料に比べると水性塗料には随分と親しみと言うか、近しいものを感じる。それは小学生の頃に水性塗料の仲間である水彩絵の具を使って居たこと、あるいは、木材を加工してくっつけるのに水性ボンドを使用した記憶があるからであろう。
第5章 塗料をより深く理解するために
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5-1塗料(樹脂)選択の根拠について4章では、人類が時代と共に塗料とどのようにつき合ってきたのかを究明したく、塗料の変遷を取り上げてきた。
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5-2樹脂の成り立ち(1)塗料用樹脂の特徴は、主鎖を形成する分子鎖の化学結合に依存する。例えば、図5-6に示すように、フタル酸樹脂(長油性アルキド樹脂)は主鎖がエステル結合からなるため、アルカリ性水溶液に浸漬すると、加水分解され、塗膜が溶解する。一方、エポキシ樹脂の主鎖はエーテル結合とベンゼン環からなるため塗膜が溶出せず、耐薬品性は良好である。
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5-3樹脂の成り立ち(2)本稿では図5-14に示すエチレンやベンゼンのように2重結合を有する分子の成り立ちについて説明する。
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5-4塗料用樹脂のはなし(1)著者が感銘を受けた樹脂の教書は北岡協三氏の著書5)である。恐れ多いことであるが、エポキシ樹脂の成り立ち部分を一部、引用させて頂く。エポキシ樹脂とは個々の分子中に2個以上のエポキシ基を持つ樹脂状の物または樹脂を作る化合物である。最も一般的なエポキシ樹脂を図5-24に示す。
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5-5塗料用樹脂のはなし(2)主剤であるエポキシ樹脂(前回の図5-24)の両末端にはエポキシ基があり、硬化剤の有する活性水素H+と化学結合をして、クッキー塗膜を形成する。
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5-6塗料用樹脂のはなし(3)前回の図5-30に示すポリアミド樹脂を固定し、エポキシ当量が一連に異なるS、M、Lを使用した塗膜の網目構造は、どのようになるのかを考えて見る。
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5-7塗料用樹脂のはなし(4)2液型エポキシ樹脂塗料においては、主剤のエポキシ樹脂に対して反応する手の数が等しくなるように硬化剤のポリアミド樹脂が配合される。
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5-8塗料用樹脂のはなし(5)現在、アクリル樹脂は塗料用樹脂として、最も多く使用されている。なぜ、使用量が多いのかというと、塗料に求められる性能を装備しやすいからである。具体例を挙げて説明する。
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5-9塗料用樹脂のはなし(6)著者は2液型塗料と書きたいが、JIS用語では2液形となっているので、決断しにくい。本報では2液型に統一する。
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5-10塗料用樹脂のはなし準備中