工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座  こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識 6-1 大阪・関西万博:大屋根リングの塗装

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

6-1 大阪・関西万博:大屋根リングの塗装

公開日:2025年10月7日 | 最終更新日:2025年10月7日

1.はじめに

  大阪・関西万博は、2025.4.13-10.13の184日間で、開催されている。先日、折り返し点に到達し、現在は猛暑にもかかわらず、沢山の方々が訪れている。大阪・関西万博を象徴する大屋根リングは図-1(図5-48)に示すように木材で造られている。本講座の担当者から、大屋根リングには塗装がされているのかどうか、塗装されている場合、どんな塗装なのかと言う質問を頂いた。“何でも質問講座”としては、願ってもない良い質問である。
私の家内が娘家族と一緒に万博見学に出かけることにしていたので、著者の要望を聞いてもらい、写真を撮ってもらった。本講をまとめるに当たり、玄々化学工業株式会社 技術部研究課 伊藤 拓美様に塗料開発の話を聞かせてもらった。また、木材塗装研究会の長澤 良一様と水谷 穰様には討論を通じて貴重な意見を頂いたのでお礼を申し上げる。

図5-49 アクリルポリオールのモノマー組成
図-1(図5-48) 大屋根リングの木組み(玄々化学工業株式会社提供)

万博のテーマはいのち輝く未来社会のデザインであり、各所に工夫が凝らされている。未来社会の実験場の一つとして、オールジェンダートイレが提案されている。朝日新聞(2025.7.30)には、このトイレの特徴や使い勝手について取り上げている。女性用トイレには行列ができるという社会問題の解決策としても有効であり、その概要を紹介する。


2.大屋根リングについて

  まず、大屋根リングは図-2(図5-49)に示すように集成材を組み合わせた木組みで造られている。集成材とは、板材または小角材を繊維方向に接着し、長大材にしたものを総称している。

図-2 (図5-49) 塗装箇所の区別
図-2 (図5-49) 塗装箇所の区別

そして、すべての木材は工場で塗装されており、塗装後に組み立てられる。これら集成材の塗装方法について説明する。木材の塗装方法を大別すると、表-1(表5-9)に示す天然油脂を含浸させる浸透方式とピアノに代表される鏡面仕上げで代表される。
表面処理として、研磨紙で被塗物面を研磨する。玄々化学工業株式会社製の塗料が一番多く使用されているので、同社のカタログを図-3(図5-50)に示す。図-2(図5-49)に示すように、平面部と木口面とは塗料が異なり、水分のしみ込みやすい木口面にはアクリル樹脂エマルション塗料SZ-02(塗付量の目安200g/m2)を、木材の平面部には浸透型油性塗料(弱溶剤形塗料、IZ-06)が使用された。刷毛塗りまたはローラー塗りで塗装された。要は、塗装されていないように仕上げる方式が選択された。建築業界では養生塗装と言われる塗装で、構造材が雨に濡れて、木材からカビが発生したり、汚れたりするのを少しでも防ぐために施す塗装である。

表-1(表5-9) 木材塗装の仕上げ方
表-1(表5-9) 木材塗装の仕上げ方
図-3 (図5-50) 塗料のカタログ:玄々化学工業株式会社
図-3 (図5-50) 塗料のカタログ:玄々化学工業株式会社

木材中のリグニンという物質は紫外線をよく吸収し、未塗装部分は汚れも加わり、グレー化する。このグレー化を防ぐために浸透型塗料が採用された。大屋根リングの歩ける廊下部分は木組みの屋根の役目もしているから、外的な作用を受けやすく、見学者のほとんどは大屋根リングに上りたいと思っている。私の家族は大屋根リングに上り、塗装状態に注目したところ、ボロボロの状態になっておらず、きれいな木肌が目に入ってきた。彼らの視線を追ってみよう。

図-4 (図5-51) 大屋根リングから見た廊下の概観
図-4 (図5-51) 大屋根リングから見た廊下の概観
図-5 (図5-52) 大屋根リングの床材の変色箇所
図-5 (図5-52) 大屋根リングの床材の変色箇所

(1) 図-4 (図5-51)に示すように木材特有の褐色が廊下面を覆っており、心地よく感じたが、廊下の一部分だけがグレーに変色していた。図-5 (図5-52)に示すように、人の歩かない隅っこの部分だけがグレーになっていた。

図-6 (図5-53) 大屋根リングの床材の変色箇所:グレー化
図-6 (図5-53) 大屋根リングの床材の変色箇所:グレー化
図-7 (図5-54) 大屋根リングの床材:グレー化なし
図-7 (図5-54) 大屋根リングの床材:グレー化なし

(2) グレー化箇所を拡大すると、図-6 (図5-53)になり、人の通行路面と比較すると、図-7 (図5-54)で示される。
検証実験をしていないが、大屋根リングの廊下は多かれ少なかれ、紫外線や雨にさらされ、グレーに変色する。沢山の人が通行することで、変色部分が摩耗し、木材色戻ったと考えられないか?当然、浸透した塗膜は少なくなっているから、保護効果は長時間期待できない。


3.オールジェンダートイレについて

  約30室の男女共用個室が2列に並ぶ。入り口と出口が一方通行なので、すれ違うことがない。すべての個室がオールジェンダーだから目立たず、使い易い。もちろん、痴漢被害など欠点もあるが、ニーズは性的マイノリティーだけではない。障がい者や高齢者の介助でトイレに入る人は同性とは限らない。このような用途の場合、男女別は使いにくい。


4.おわりに

  多くの方は木材で造られた大屋根リングの塗装効果はあったのかと心配されるであろう。集成材で組まれた構造物には自然な感じの仕上げが似合っている。例えば、ピアノと同様な厚膜で仕上げると、劣化したときに塗膜がはがれたり、割れたりするから外観上、問題である。今回は浸透型塗料で仕上げたから、保護作用が消失したときには研磨作業をした後に、同一塗料を再度浸透させれば良い。簡単で、外観も良く仕上がる。1回の塗装で、長くて1-2年の寿命だと思えばよい。


以上、大阪・関西万博を楽しむ視点を提案します。


執筆: 坪田 実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

目次をもっと見る