工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識 6-2 遮熱性塗料と塗装 夏期特別号

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

6-2 遮熱性塗料と塗装 夏期特別号

公開日:2025年10月7日 | 最終更新日:2025年10月7日

1.はじめに

  なぜかしら今夏は暑い。つい先日の8/5の14:26に群馬県伊勢崎市で最高温度41.8℃を記録した。群馬、埼玉県の14地点で40℃以上になった。1日あたりの地点数14も過去最高を更新した。気象庁は「経験したことのない命の危険がある極端な暑さだった」としている。それまでの国内最高は7/30、兵庫県丹波市で観測した41.2℃であり、僅か6日後の更新であった。確かに気温が高くなると、空気が重くなったように感じる。深呼吸をしようと思うが気楽にできない。このように不快指数は高まるのであろう。

  暑さ対策で我々ができることは、内輪や扇子で仰ぐことや、打ち水あたりしか思い浮かばない。塗料と塗装で、暑い熱線を反射させることができるならば、大いなる貢献である。実際に遮熱機能をキャッチフレーズにした塗装やプラスチック製品は数多い。そこで、夏期特別号の第2段として、遮熱塗料と塗装を取り上げる。2020年の夏に東京オリンピックが開催されることに決まり、マラソンコースのアスファルト面を遮熱塗料で施工しようと計画された。周回コースを試走した選手達は路面に水をまくよりも遮熱塗装した路面の方が快適に走れたと感想を述べたが、マラソン競技は最終的には北海道で行われた。


2.遮熱塗料の原料と遮熱機構

  真夏の屋外に置かれた車に乗るときの暑さを思い出してほしい。あれは太陽光の中の赤外線を吸収することによる熱が原因である。そこで地球温暖化やヒートアイランドが問題になる中、屋根や壁、道路に塗装して室内や路面の温度上昇を抑制する塗料が開発され、上市されている。ところで車の温度は白い車と黒い車では異なる。これは白い塗料(顔料としてチタン白を使用)は赤外線を反射しやすいためである。我々は豊富な色彩に囲まれて生活をしている。路面が白いほど遮熱機能が高いと言われても配色を無視できない。路面と路面に書かれた標識文字が白ならば標識効果は無いし、白は汚れも目立つ。やはり、路面はグレーが妥当である。ココでは、まず、赤外線を反射させる顔料の散乱能力について整理し、遮熱機構を探ってみる。

図-1 粒子の散乱能力に及ぼす粒子径の影響 1)
図-1 粒子の散乱能力に及ぼす粒子径の影響 1)

2.1 赤外線の反射について

  顔料粒子の大きさと光の散乱能力との関係は図1で表すことができる。横軸は(粒子の大きさ)/(光の波長)の比率である。注目すべきは、粒子の種類にかかわらず、粒子の大きさが光の波長の1/2程度になると、散乱強度は極大になることである。人間の目には0.5μm(500nm)付近の光(可視光)が最も明るく感じられるのでチタン白のような着色顔料は0.5μm の半波長である0.25μm(250nm)程度に粒径を調製してやるとより白く感じる。熱線である赤外線は波長が可視光よりも大きいから粒子を大きくしなければ熱線を反射できない。

図-2 光線の種類と波長の関係 1)
図-2 光線の種類と波長の関係 1)

図2より可視光の波長は0.38-0.78μm であるが、赤外線のそれは1μm以上と大きい。チタン白メーカの石原産業では、図3に示すようにチタン白の粒子径を大きくし、形状も塗膜中で構造形成がしやすいように鱗片状にして遮熱用チタン白として上市している。遮熱材料 | 製品情報 | 石原産業株式会社で検索できる。白色系、黒色系、透明系の製品もある。図4に示すように遮熱用チタン白の近赤外線の光線透過率が低いと言うことは反射率が高いことを意味している。遮熱用チタン白は塗膜中で構造形成して粒子径が大きくなるから赤外線に対する散乱強度が大きい。
なお、図3,4のスライドは石原産業(株)機能材料営業部の宮崎裕光氏が2006.5.26に講演された時の資料で、使用許可を取得済みである。

図-3 遮熱用チタン白と着色用チタン白粒子の比較 2)
図-3 遮熱用チタン白と着色用チタン白粒子の比較 2)
図-4 光線透過率に及ぼす遮熱用チタン白TiO2と着色用チタン白TiO2の比較 2)
図-4 光線透過率に及ぼす遮熱用チタン白TiO2と着色用チタン白TiO2の比較 2)

2.2 遮熱機構について

  塗料の遮熱機構をわかりやすく図5に示す。図5を解説する。

図-5 遮熱性機構の解説 3)
図-5 遮熱性機構の解説 3)

① 太陽光からの熱線を高反射させるために遮熱用顔料が使用される。基本的なことであるが、黒色に用いるカーボンブラック(CB)顔料は赤外線をほぼ百%吸収するため、濃色であってもCB顔料を用いない設計をしている。

② 長時間の日射で前述した車と同様に蓄熱する。車内の温度を上昇させないためには塗膜に断熱機能を持たせることが有効である。スペースシャトルの外面の断熱セラミックスと同じ考え方でガラスバルーンやシラスバルーンのように中空粒子を充てんする。


3.遮熱舗装の施工例

  日本で初めて、公共道路に遮熱舗装が行われたのは平成15年(2003)の1月である。図8に示すように(株)ミラクールの研究開発した塗料が我が国で初めて銀座通りに使用された。図6-8に施工例と仕上がり例を示す。交差点をカラー舗装した沖縄県のように、遮熱塗料のメリットは希望色を選択できる点にある。遮熱効果の有無は赤外線カメラでも明らかに認められているが、体感の方が納得できるようである。通常、下塗りと上塗りの2回塗りで仕上げる。舗装面の摩擦特性は重要である。

図-6 遮熱性舗装の施工例 4)(写真提供:(株)ミラクール)
図-6 遮熱性舗装の施工例 4)
(写真提供:(株)ミラクール)
図-7 遮熱性舗装の施工例(舗装面の摩擦特性は重要) 4)
図-7 遮熱性舗装の施工例(舗装面の摩擦特性は重要) 4)
図-8 遮熱性舗装の仕上がり状態 4)
図-8 遮熱性舗装の仕上がり状態 4)

4.おわりに

  夏期特別号は本講座の担当者の発案で執筆した。こんな見方もあるのかと、できるだけ見る目を意識して取り上げたつもりである。読者の皆様とふれあう機会があれば幸いである。

執筆: 坪田 実

〔参考文献〕
1) 職業訓練教材“塗料”, 雇用問題研究会, p182-183 (2007)
2) 宮崎裕光:“第374回 塗料物性研究会 講演テキスト”, 2006.5.26 (2006)
3) 中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.124-125 (2008)
4) 坪田実:“目で見てわかる塗装作業”, 日刊工業新聞社, p.19-20 (2011)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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