空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第7章 換気設備

7-9 排煙設備の概要

排煙設備を備える目的

建物に排煙設備を備える目的は建築基準法、消防法でそれぞれ解釈に違いがあります。建築基準法では「在館者の安全、円滑な初期避難の確保」という目的で設置されます。一方、消防法では「消防隊の安全・円滑な消火活動の確保」という目的で建物の規模などに応じて設置されます。法によって解釈のしかたは多少、違いますが、いずれにしても、人の命を守るために設置されるのが排煙設備です。

排煙設備を具体的にいうと、排煙機、給気機、それに付随するダクトやその他の付属設備ですが、実際に建物で火災が発生した場合、起動するのは排煙設備だけではありません。規模などによって違いはありますが、スプリンクラー設備、非常用放送設備、防火戸など、さまざまな設備が排煙設備と連動して火災に対応します。各設備が連動するイメージとしては、感知器が火災による煙や熱を感知すると、受信機を介して防災センターの総合操作盤などに伝え、防災センターが起点となり、初期段階の消火や在館者が安全に避難できるように、排煙設備、防火戸、スプリンクラー設備、非常用放送設備などの各設備を連動させます。

煙の性質

火災で発生する煙は横方向(水平方向)と縦方向(垂直方向)とでは広がる速さに違いがあります。横方向に広がる速さは0.5~1.0m/秒といわれますので、だいたい人が普通に歩く程度の速さです。一方、縦方向に広がる速さは3~5m/秒程度といわれますので、だいたいマラソン男子の世界記録くらいの速さを想像してください。

火災によって人が死に至る場合、ニュースなどでは焼死ということでひとくくりに伝えられますが、実際のところは煙による中毒症状、窒息などによって逃げ遅れることで死に至る場合が多いので、いかに迅速に排煙できるかが人命を救う鍵となります。

煙の逃げ場がない空間とすると、火災で発生した煙は、まず天井へと上昇します。天井に到達すると、天井を這うように横に広がります。横に広がった煙はやがて壁などに到達し、行き場がないと床に向かって下降を始めます。このような煙の広がり方を考えると、煙が空間の下までくると避難が難しいので、天井付近に煙があるうちに排煙することが肝心です。

防煙区画とは

煙の性質などを考慮して火災時の煙が建物全体に広がってしまうことを防ぐために防煙壁で建物を区画することを防煙区画といいます。一般に、防煙区画は床面積500m2以内ごとに設ける必要があります。なお、防煙壁とは、不燃材でつくられた間仕切壁や、天井面から突き出した防煙垂れ壁などのことです。例えば大規模な百貨店などでよく見かける天井から突き出した網入りガラスなどは防煙垂れ壁のひとつです。

ある一定の面積ごとに区画する面積区画なども防火区画の一種です。建物の規模や耐火性能などによって区画する面積は違います。また、火災は垂直方向への拡散が速いことから、11階以上の高層ビルなどでは面積区画に加えてさらに細かい規定があります。なお、エレベーター室や階段室などの竪穴区画に煙が入り込むと煙が加速度的に建物全体に広がる恐れがあるので、特にこのような区画を持つ建物では適切な排煙設備が必要になります。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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