空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第1章 空調設備を学ぶ前に

1-7 日照と日射

季節によって変わる南中高度

夏の太陽は空の高い位置に見え、冬は低く見えるように、地球から見た太陽の通り道は季節によって違います。太陽が真南に到達したときの太陽高度(角度)のことを「南中高度」といいますが、 夏至は1年の中でもっとも南中高度が高くなり、冬至は1年の中でもっとも南中高度が低くなります。ちなみに東京の夏至の南中高度は78°、冬至は30°程度です。

日照と日射をコントロールする

住まいでは、夏は涼しく冬は暖かく過ごしたいものです。その願いはおそらく今も昔も同じでしょう。昔ながらの日本家屋は、軒やケラバの出を長く(深く)することで、夏と冬の日照、日射をコントロールし、 同時に雨や風を凌いでいました。日照とは直射日光による太陽光のこと、日射とは太陽熱のことと考えて問題ないです。夏の太陽の位置は高いので、深い軒で日照、日射を遮ります。反対に冬の太陽は低いので、軒が深くても部屋の奥まで日照、日射を取り込むことができます。

近年では、昔ながらの軒の深い住宅は少なくなりました。その要因は、軒の出が短ければ屋根の面積も狭くなるので、コスト削減になる。建築面積を大きく取ることができる。デザイン的に洗練された感じがするなどからです。

現代の建築は、材料、様式も多種多様となり、デザインの自由度も高くなりました。軒の出が短いどころか、屋根と壁が一体となって軒の出がゼロという住宅もあります。 今と昔の住宅の単純な比較はできませんが、日射、日照、雨、紫外線を遮る、外壁の保護などの観点では、昔ながらの軒の深い住宅の方が理想的です。特に夏の日照、日射を遮る目的なら、軒の出は90cm程度必要ですが、現実的にはコストやさまざまな事情を考慮して、軒の出に折り合いをつけます。

建物と一体となった軒、ケラバ、庇(ひさし)の出を後で変更するのは大変なことです。リフォームなどで比較的安価に窓からの日照、日射をコントロールしたいなら、後付けの庇(ひさし)を取り付ける方法もありますし、オーニング、ルーバー、外付けブラインド、すだれ、よしずを取り付けるなども有効です。 また、家庭菜園を兼ねて、ゴーヤ、インゲン、トマト、キュウリなどを植えて壁面を緑化する。敷地に余裕があれば、夏に葉を付け、冬に葉を落とす落葉樹を植えるなども日照、日射をコントロールする手段の一つです。 他にも例えば、Low-Eガラスを使うなど、窓ガラス自体を遮蔽効果が高いものにする方法もあります。Low-Eガラスとは、特殊な金属膜をコーティングした複層ガラスです。 室内から見た採光や透明感に違和感がなく、日射熱が抑えられるので、夏場の冷房負荷の軽減に効果を発揮します。また、複層化による断熱性も兼ね備えているので、冬の暖房負荷も軽減できます。

建物の外壁や屋根が受ける日射

前述したように、夏の太陽は高い位置にありますが、同じ面積でも大地に対する日射の入射角度が90°に近いほど、単位面積あたりに受ける熱量は多くなり、大地はよく暖まります。 同様の理屈で、建物の外壁や屋根も日射の入射角度によって受ける熱量が違います。建物の空調負荷を考える上では、外壁や屋根などが季節によってどの程度の入射角度で日射を受けるのかを考慮する必要があります。

執筆:イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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