空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第7章 換気設備

7-2 シックハウス

シックハウス症候群

シックハウス症候群とは家の建材や家具などの接着剤や塗料などに含まれる揮発性有機化合物が引き起こす健康被害の総称です。シックハウスを直訳すると「病気の家」という意味です。一般住宅ではシックハウス症候群、オフィスビルなどではシックビル症候群、学校ではシックスクール症候群といいます。症状としては、目、皮膚、喉などの痛み、頭痛、吐き気、めまい、倦怠感など、人によってさまざまです。

日本が高度経済成長した1960年頃から木質の板材料を接着して均一化された新建材が大量生産されるようになりました。この新建材の接着剤などに含まれるホルムアルデヒドやその他の揮発性有機化合物が健康被害を引き起こす一因になり、やがて社会問題になりました。発生源は建材だけでなく、家具、カーテン、防虫剤、消臭剤、化粧品、接着剤、塗料なども可能性として考えられます。新築やリフォームをした後にシックハウスに悩まされる例が多いようです。

現代の高気密傾向にある住宅事情などもシックハウスの一因になりますし、室温が高くなれば有害物質が揮発しやすくなるので、夏は特に注意が必要です。地球温暖化やヒートアイランド現象などの環境問題も無関係ではありません。また、化学物質過敏症なども一因となるともいわれるので、シックハウス症候群の原因を特定するのは難しいようです。

厚生労働省ではホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼンなど、シックハウスの原因となる可能性が高い13種類の揮発性有機化合物の室内濃度の指針値を指定しています。また近年ではテキサノールなどの物質についても指針値を追加指定する方針です。

シックハウス対策としては、換気を行うこと、なるべくシックハウスの原因となる建材を使わないことです。建築基準法の規制の対象となる化学物質はホルムアルデヒドとクロルピリホスです。ホルムアルデヒドは以下の図に示す対策が取られ、クロルピリホスは使用禁止されています。

内装仕上げの制限

内装仕上げに使用するホルムアルデヒドを発散する恐れのある建材は使用面積の制限、または使用禁止。制限がないのはF☆☆☆☆(フォースター)のみ。

建築材料の区分 JIS、JASなどの表示記号 内装仕上げの制限
建築基準法の規制対象外 F☆☆☆☆ 制限なしに使える
第3種ホルムアルデヒド発散材料 F☆☆☆ 使用面積が制限される
第2種ホルムアルデヒド発散材料 F☆☆
第1種ホルムアルデヒド発散材料 旧E2、Fc2又は表示なし 使用禁止


換気設備設置の義務付け

ホルムアルデヒドは建材だけでなく家具などからの発散も考えられるため、居室を有するすべての建物に1時間で部屋の空気の半分以上の空気が入れ替わる要領の24時間換気などの機械換気設備の設置が義務付けられる。

天井裏などの制限

天井裏などは次の1~3のいずれかの対策が必要になる。なお、天井裏などとは天井裏、屋根裏、床下、壁の内部などのこと。

  1. 建材による対策
    第1・2種ホルムアルデヒド発散材料を使用しないこと。F☆☆☆以上の建材を使用する。

  2. 気密層・通気止めによる対策
    天井裏などと居室を気密層や通気止めによって区画し、完全に遮断する。

  3. 換気設備による対策
    天井裏なども機械換気設備で換気する。

ダンプハウス

ダンプハウスとは「湿気た家」という意味です。日本の夏は暑くてジメジメするのが特徴なのでダンプハウスに要注意です。室内の湿気が適切に除去されずに長くジメジメした状態が続くような場合、そこはカビやダニにとっては好ましい環境になります。カビやダニの繁殖が活発になると室内の空気を汚染して、アレルギー症状、呼吸器疾患など、人体に深刻な影響を及ぼすことがあります。

ダンプハウス対策としては、家具の裏や押し入れの中などに結露を発生させないこと、水蒸気を多く発生するキッチン、浴室などについては適切に換気することなどですが、だいたい部屋の湿度が50%程度になっていればダンプハウスになることはないでしょう。部屋の湿度が常に機械的に制御されている人は問題ないでしょうが、そうでない人は、各部屋に湿度計を置いて、湿度を確認、意識する習慣をつけることが肝心です。まず湿度をしっかり把握した上で、適切な湿度になるように換気設備や除湿機を操作します

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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