空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第7章 換気設備

7-8 全熱交換器

全熱交換器の特徴

熱交換をしない比較的単純な構造の換気扇は汚染された空気と一緒に部屋の熱も捨ててしまうため、たとえば夏の冷房時にせっかく涼しくなった室内の空気を外に逃がしてしまう、あるいは冬の暖房時にせっかく暖めた部屋の空気を捨ててしまうなどの空調のエネルギーロスになる場合があります。

全熱交換器は室外の冷気や暖気と室内の排気とを熱交換して、室内の温度に近づけた新鮮な外気を取り込むのと同時に、熱と分離された汚染空気を室外へ排気するしくみになっています。空調設備とのバランスを考えると熱交換の機能を持った全熱交換器は優れた換気扇といえます。

なお、熱交換器には顕熱交換器と全熱交換器があります。顕熱交換器は純粋に熱のみを交換するもので、温度(顕熱)だけを交換して吸排気するタイプの熱交換器です。一般的に寒冷地などの使用に適しているタイプといえます。対して全熱交換器は熱に含まれる水蒸気も受け渡します。つまり温度(顕熱)と湿度(潜熱)を交換して吸排気するタイプの熱交換器です。一般的には高温多湿な地域の使用に適しているタイプといえます。

ダクト式の第三種セントラル換気について

一般住宅などの全般換気で採用される第三種換気システムには壁付けの機械排気で生じる圧力差を利用して各所に設けた自然給気口から外気を取り込むタイプの換気システムがあります。このタイプはダクトレスなので比較的ローコストではありますが、排気の吸込み口からの経路が長くなる給気口からはうまく空気を取り込めなくなり、排気口から最も近い給気口だけが機能するなどの場合もあります。また、よほど高気密な空間でない限り、バランスよく換気するのは難しい方法ともいえます。一方、ダクト式の第三種セントラル換気システムの場合は、ダクトで排気することから、各箇所の給気口と排気のための吸込み口の距離をバランスよく配置するなどの計画的な設計が可能になるため、最近では第三種換気システムの主流といえます。

熱交換できる全熱交換器や顕熱交換器には天井埋込形のものや、天井カセット形のもの、空調機(エアハンドリングユニット)に組み込むものや、ウォールスルーユニットのように壁に取り付けてパーケージ化されたものなどがあります。

ダクト式、あるいはダクトレスの換気にも熱交換器の使用はできます。ダクトレスで局所換気に熱交換器をつける場合、コスト面では比較的安価ですし、施工も楽ですが、計画的な全般換気のような換気システムに組み込むには無理があります。熱交換器を空調と一体化した全館冷暖房や全般換気に組み込むのであれば、ダクトによる換気システムが必須になります。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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