空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第6章 個別暖房と直接暖房

6-3 蒸気暖房の特徴

蒸気暖房とは

蒸気暖房は中央暖房(セントラルヒーティング)の一種です。蒸気暖房をスチーム暖房ともいいます。言葉のイメージから蒸気(スチーム)暖房とは蒸気を直接室内に放出して暖める暖房方法と誤解されがちですが、あくまで熱媒が蒸気という意味で、一次側のボイラでつくった蒸気を各室の二次側の放熱器に供給して、放熱器で蒸気と熱交換して潜熱を放出して部屋を暖める暖房の方法です。考え方として、エアコンの熱媒には冷媒ガスが使われますが、その役割を蒸気に置き換えたものが蒸気暖房ということです。

蒸気暖房の一般的なメリットとしては、蒸気の圧力を利用するので温水暖房よりポンプの設置を省略でき、比較的安価に始動が素早く部屋を暖めることができます。また、熱媒になる蒸気が高温なため、寒冷地でも凍結事故は少なく、放熱器も小さくてすみます。反面、騒音が大きく、放熱器の温度は高いので、室内の上下の温度差を生じさせやすいなどが考えられます。一般的には大規模な建物で採用される暖房方法で、寒冷地のオフィスビルや学校、工場などで採用される例がありますが、一般住宅で蒸気暖房が採用される例は少ないです。

蒸気暖房のイメージ

蒸気暖房のイメージ

二次側の放熱器で蒸気の熱を放出して温度が下がって凝縮した水は凝縮水(ドレン)になって再び一次側のボイラに戻されます。この凝縮水が管の中に留まってスムーズにボイラに送られないような場合、「ウォーターハンマー」といわれるトラブルを引き起こす場合があります。ウォーターハンマーは蒸気暖房では比較的発生するリスクが高いトラブルといえます。

ウォーターハンマーの発生原因は複雑ですが、たとえば滞留したドレンが蒸気に押されるなどによって配管やバルブなどに衝突して、衝撃音や振動を発生させます。なお、ドレンや蒸気によるウォーターハンマーのことをスチームハンマーともいいます。

ウォーターハンマーが発生すると「カキン、カキン」というような金属音がして、場合によって配管やバルブなどに異常な圧力がかかって破裂することもあり、大事故につながる危険性があります。蒸気暖房ではウォーターハンマーの対策として、蒸気トラップを設置する、配管に勾配をつけて凝縮水がスムーズに流れるようにするなどの対策が取られます。

蒸気暖房に使われる放熱器

従来の蒸気暖房はラジエータといわれる鋳鉄製の放熱器を使うのが主流でした。ラジエータとは、それ自体、熱交換器の一種です。私自身、寒冷地の北海道で生まれ育った経験から、北海道の旅館、ホテル、学校などでラジエータを見かけた記憶があります。間違った使い方なのでお勧めはできませんが、幼い頃、雪で遊んで濡れた手袋、靴下、服などをラジエータにかけて乾かした思い出があります。蒸気式ラジエータは天井付近に暖かい空気が溜まってしまい足下が寒い、鋳鉄製で重いなどから、最近ではあまり見かけなくなりました。

ラジエータに代わって近年、蒸気暖房の放熱器としてよく使われるのが、羽根(フィン)付きのコイルに蒸気を流して蒸気と室内の空気の熱交換を向上させたコンベクタやファンコンベクタといわれる放熱器です。なお、コンベクタにファンを付けて強制対流を起こせるものがファンコンベクタです。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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