空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第3章 熱源と主要機器

3-5 ヒートポンプの概要

ヒートポンプとは

水は高いところから低いところに向かって流れるのが普通ですが、自然の流れに逆らって低いところから高いところに水を運ぼうとしたときはポンプを使って水を汲み上げます。空調で使われるヒートポンプもイメージとしては水を汲み上げるポンプと同様で、通常、温度の高い方から低い方へ移動する熱を、低い方から高い方へ移動させて汲み上げる技術、装置の総称をヒートポンプといいます。

ヒートポンプはもともと冷凍、冷蔵、冷却といった、物を冷やす目的で冷凍機が利用されてきましたが、最近では技術が向上して暖房、給湯、加熱、乾燥といった、物を加熱する目的にもヒートポンプが利用できるようになりました。空調においては冷凍機を冷房だけでなく暖房としても利用できるようにしたものがヒートポンプともいえます。冷房の際の冷媒の流れを逆転させると、役割も逆転して暖房になりますが、冷房や暖房のしくみについては次の節で解説します。

ヒートポンプの用途と将来性

ヒートポンプはさまざまな用途で利用される技術です。身の回りにもヒートポンプに関わる製品はたくさんあります。例えば冷却の用途では冷蔵庫、製氷機、冷蔵ショーケース、ヒートポンプ式自動販売機などがあります。給湯、加熱、乾燥といった用途ではエコキュート、業務用ヒートポンプ給湯器、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、ヒートポンプ式融雪システムなどがあります。なお、エコキュートとはヒートポンプユニットと貯湯ユニットで構成され、空気の熱を利用してお湯をつくる給湯システムのことです。

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家庭用のエコキュートは一般的にはオール電化の住宅に普及率の高いシステムで、割安な夜間の電力を利用してあらかじめ貯湯しておいて給湯などにお湯を利用します。ヒートポンプという言葉が広く一般に知られるようになった要因の一つに住宅に普及したエコキュートの影響もあるかと思います。

ヒートポンプによる給湯

ヒートポンプによる給湯



ヒートポンプの空調の用途としては家庭用や業務用のルームエアコン、パッケージエアコン、ビル用マルチエアコン、ヒートポンプチラーなどが代表的です。

家庭用ルームエアコンのような小規模なヒートポンプの場合、空気を熱源にするものがほとんどですが、ヒートポンプは空気の熱だけでなく、地熱、地下水、海水、工場の排熱などあらゆる熱を利用することができます。

有効に利用できる可能性がある熱であっても、その熱を利用する技術がないなどから今まで利用できなかった熱のことを「未利用熱エネルギー」といいますが、ヒートポンプは眠っている未利用熱エネルギーを有効活用できる将来性のある技術です。ヒートポンプと未利用熱エネルギーを組み合わせることで、詳しくは第5章で解説する「地域冷暖房」といった地域ぐるみで取り組むような大規模な熱の利用も可能となります。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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